リピート
最終話です。
楽しんで戴けたなら幸いです!
マンションに戻った理舞はベッドのシーツを裂いていた。
「ごめんね
産んであげられなくてごめんね」
理舞は繰り返し言った。
ぽろぽろと涙が零れ、涙で歪む手元で必死に裂いたシーツを結び合わせた。
時々堪え切れなくなっては泣きじゃくり、気を取り直しては、また裂けたシーツを結び合わせた。
電気の差し込みにぶら下がる照明器具の上に結び合わせたシーツを硬く結んだ。
理舞の脳裏に、買い物で言い合いした倖広、
ソファーから堕ちる倖広、
ピクニックで花冠を被り笑う倖広、
縁日で理舞の手を引く倖広、
理舞を膝に載せてお腹を擦る幸せそうな倖広を
女の首を締め付け顔を歪める冷酷な倖広が総て打ち消した。
『生まれた子供もやがて殺人鬼になる』
理舞の眼から涙は枯れる事無く溢れ、崩れそうな身体を必死に奮い立たせて理舞はシーツに首を掛けた。
『一緒に逝ってあげる
だから、許して……………………………
産んであげられなくて、ごめんね………………
ごめんね………………………………………………』
理舞はお腹に手を当てると足元の椅子を思いきって蹴った。
倖広は暮れなずむ林の中で死んだ女を見ていた。
『誰も愛せなかった
執着するものも無かった
もう、誰も殺す事も無い
理舞のもとへ帰ろう
オレの唯一安らげる場所へ……………………
満たされる場所へ………………………………』
倖広は立ち上がると林を出た。
足元にバッグが落ちている。
倖広は何気無くそれを拾いあげた。
そのバッグには見憶えがあった。
『まさか…………………………………………』
「理舞!! 」
倖広は無意識に駆け出していた。
全速力で倖広はマンション目指し走った。
部屋のドアを勢い良く開けるとそこには倖広にとって信じたく無い光景が飛び込んで来た。
天井からぶら下がる息絶えた理舞の姿である。
倖広は脱力して座り込んだ。
見上げる理舞の死に顔に涙の痕が残っている。
「どうして!! 」
倖広は床に思い切り拳を叩き付けた。
「どうして!
どうして!
どうしてえ!! 」
何度も床を叩き付け、しまいに指から血が滲み出した。
倖広は項垂れ泣いた。
「どうして……………………………………
やっと手にした家族だった………………………
どうしてえ!! 」
いつの間にか倖広の背後に立っていた悪魔は言った。
「ギリシャ伝説のエディプスは…………………………
父と知らず父を殺し、母と知らず母を妻にした……………………」
倖広が振り返ると、そこには二本の角を生やし下半身がヤギの、いつぞや逢った悪魔が立って倖広を見下ろしていた。
「冷酷な殺人鬼も母親の死は哀しいか………………」
「母親? 」
倖広は立ち上がった。
悪魔は腕を組み言った。
「雨の日にお前が殺したのは、お前の父親だ
そこにぶら下がっているのが母親、その胎内に宿る胎児がお前だ
もう死んでいるがな」
倖広は思わず理舞を振り返った。
そして、俯き笑った。
「ふん
悪魔は嘘と真実を混ぜて人を惑わす
そんなこと信じられるか」
悪魔は言った。
「倖広と云う男の内に潜在する欲求は母親の胎内に戻る事だ。
お前はそれを満たす為に母親と同じ年頃の女を殺し犯し続けた」
悪魔は笑った。
「生まれる前にタイムループさせただけなのに面白い筋書きができたものだ」
倖広は悪魔を睨み付け言った。
「……………………で…………………?
何が目的でオレに纏わりついてる? 」
「ほーう………………
さすがに察しがいいな」
悪魔は倖広の胸に長い爪を指した。
「俺には実態が無い
弄ぶ肉体が欲しい
お前の肉体をくれたら、お前を母親の胎内に戻してやってもいい」
倖広は理舞の傍にいくと冷たくなった理舞の手を取りお腹に頬ずりした。
「好きにすればいい……………………………
オレは理舞の傍に居られるなら、それでいい」
眼を閉じた倖広の眼から涙が伝う。
悪魔は言った。
「お前をこの時空に閉じ籠める
何度でも生まれ
何度でも殺し
何度でも戻る
繰り返せ……………永遠に………………………………………」
倖広の体内に息ずく生命は輝き、倖広の身体を離れた。
倖広のカラの肉体は崩れ床に転がった。
悪魔は満足そうに笑うと倖広の肉体を抱え、その場から消えた。
生命は輝きながら惜しむ様に、キッチンやベッドルームを飛び回った。
理舞の周りをぐるぐる何度も飛び回り、生命の輝きは理舞の胎内に吸い込まれて行った。
胎児は蘇った。
か細い鼓動を打ち始め、次第に鼓動は確かになって行った。
そして、思うのだ。
『愛してる、理舞………………………
理舞……………………………………
理……………舞………………………………?
母さん……………………?
母さん
母さんの子宮は……………………………………………………
冷たい…………………………………………………………』
fin
最後までお付き合い戴き有り難うございました。
このストーリーは二十年以上前にマンガ用に描いたものを小説に書きかえたものです。
プリデスティネーションと云う映画がありますが
それにちょっと似てます。
でも映画の方は2014年製作なので、パクってませんからね!
映画は観てると混乱するらしいのですが、私はメビウスリングを描いていたので解り易かったです。
凄く面白い作品なので機会があったら観てみて下さい。
メイドインUSAはさすが、スケールが大きいです。
イーサン・ホーク主演で、サラ・スヌークと云う女優さんが男役にも挑戦してます。
原作は凄く売れた小説なんだそうですよ。
それでは、またお逢いできたら幸せです。
お身体大切に。