本性
殺人シーンあります。
マンモス団地の階段を理舞は足元に気を付けながら降りていた。
外は既に陽が傾き秋風が冷たくなってきていた。
「はあー…………………
友達とお喋りしてたら、すっかり遅くなっちゃった
倖広はもう帰ってるかなあ」
理舞はコートの上からお腹を擦り、お腹の子に話し掛けた。
「早く帰ろうね」
理舞の行く先に男が立っているのに理舞は気付いた。
理舞は思わず構えた。
『やだ!
あの人、角なんか頭につけて明らかに絶対変!!
こっち見てるしぃ……………………』
男は細い巻角を生やしていたが他は人間と変わりが無い様に見えた。
理舞はバッグを握り締め、男を見ない様にして通り過ぎようとした。
通り過ぎる間際に男は言った。
「倖広は殺人鬼だ
生まれた子供もやがて殺人鬼になる」
理舞は振り向き様に男を睨み付けて、肩に掛けていたバッグを振り回した。
「アンタ、ケンカ売ってんの!
妊婦だと思って舐めないでよ!
バッグ持ってんだからね!!
しかもブランド品の! 」
男は笑うと、フッと消えた。
「え? 」
どんなに眼を凝らして見ても男は影も形も無かった。
『消えた?
きっとイリュージョンとかやってる変人よ
そうそうイリュージョンよ、イリュージョン』
「ふん、口ほどにも無い」
理舞は歩き出した。
前方の交差点に倖広の姿を認めた。
理舞はここに倖広がいる事に疑問を感じたが、手を振って倖広を呼んだ。
「倖………ひ……………ろ…………………………」
理舞の声は尻窄みになった。
気付かず通り過ぎて行く倖広の横顔は鋭い眼光を放ち近寄り難い威圧感で理舞を弾いた。
『なんだか、恐い………………………』
理舞は引き付けられる様に倖広の後を追った。
歩きながら倖広はおもむろにズボンのベルトをひっ張り出すと、顔の前でベルトを構えながら走り出した。
『倖広、何をしているの? 』
倖広の前を歩いていた女は振り返り恐怖に顔を歪める。
倖広は慣れた手つきで素早く女の首にベルトを巻き付け、締め付けながら道路脇にある林の中に引き摺り込んで行った。
理舞は悲鳴を上げそうになって口を手で押さえた。
『うそ…………………………………』
女は脚をジタバタさせ、もがくが女の力が到底男にかなう筈も無かった。
やがて女は身体を痙攣させ動かなくなった。
倖広はそれでも女の首に巻き付けたベルトを締める力を緩めない。
女がぐったりして確実に死んだ事を確認すると倖広は女を地面の草むらに放った。
乱暴に女の衣服を剥ぎ取ると女の脚を持ち上げ、倖広は女に覆い被さった。
一部始終を見ていた理舞はバッグを落とし、踵を返してのろのろと歩き出した。
『帰らなきゃ……………………
倖広が待ってる………………………』
理舞の頭の中で男の言葉がエンドレスに繰り返された。
『倖広は殺人鬼だ
生まれた子供もやがて殺人鬼になる…………………』
陽は暮れ、辺りは薄桃色の光線が藍色に飲み込まれ、危うさを帯びた色彩で彩られていた。
林の木に凭れ倖広は放心状態でぼんやりと女の死体を見詰めていた。
「思い出した………………………
総て………………………………」
ここまでお付き合い戴き有り難うございます!
残す処、後一話です。
最後まで楽しんで戴ければ幸いです。
今、また新しい作品書いてます。
宜しかったら、またお付き合いして戴ければ嬉しいです。
それではまた明日。