脅威の子、倖広
動物虐待の描写あり。
残酷表現あり。
と或るマンションの一室でその子は生まれた。
首を吊った母の胎内に宿り、死んだ母の胎盤から尚も養分を吸い取り、ミイラ化した母親の死体から産まれ堕ちた。
臍の緒にぶら下がり、弱々しく泣く赤ん坊は近所の住民の通報によって発見され、保護された。
病院で暫くの間入院した後、子羊の宿と云う児童養護施設に送られる。
保護されたマンションの部屋から、命名倖広と書かれた紙片が見つかった為、その子は倖広と名付けられた。
八年の時が過ぎ、近年、親からの虐待によって保護される子供が後を絶たない。
虐待による意思が欠落した子達の中で、倖広は他の子達を支配する能力に秀でていた。
他の子供たちから、攻撃的過ぎる性格は恐れられ、倖広に逆らう者は誰も居なかった。
子羊の宿の職員、恵子は髪を振り乱し園長である静子の部屋に飛び込むと、机に手をつき叫ぶ様に言った。
「あの子は異常です!
私はあの子を愛することなんて出来ない! 」
恵子は項垂れ言った。
「私はあの子が恐い
今も鉄パイプで殴り掛かって来たんです」
静子は落ち着き払い、静かに立ち上がると救急箱を取り出した。
「落ち着いて下さい
とにかく、傷の手当てをしましょう」
静子はガーゼに消毒液を染み込ませると恵子の腕や顔に付いた擦り傷を押さえ始めた。
「あんな産まれ方をした子です
あの子が普通の子の様になるには何倍もの愛が必要なのでしょう」
少し落ち着きを取り戻した恵子は言った。
「あの噂は本当だったのですか? 」
「可哀想な子です………………………
お腹に赤ちゃんが居ると知りながら自殺にまで追い込まれた母親の精神状態とそして………………死んでしまった母親の胎内に閉じ籠められた恐怖……………………………………………
最悪の胎教を受けて生まれたのです」
「へーえ……………………
オレは自殺した母親の死体から生まれたんだ」
恵子と静子が振り返ると、戸口の柱に凭れ鉄パイプを持った八歳の倖広がこちらを見ていた。
八歳になった倖広は、恵子を鉄パイプで殴り掛かるほどの攻撃性を持っているとはおおよそ想像も付かない、女の子の様な柔らかな面立ちをしていた。
しかし瞳の持つ力強さは、その異常さを如実に物語っていた。
「倖広! 」
静子が呼び止めても気にもせず、倖広は鉄パイプを引き摺ってその場を去った。
倖広はその足で表にある遊び場へ行った。
遊び場では数人の子供たちが遊んでいた。
倖広が姿を現すと何人かの男の子たちが倖広の前に集まって来た。
倖広が歩き出すと、子供たちも歩き出した。
園の裏にある空き地に来ると倖広は何処を指すともなく指した。
子供たちは散って行った。
倖広が傍に在った木に凭れ待っていると暫くして子供たちが戻って来た。
一人の子が首輪をした猫を捕まえて来て地面に押し付けた。
別の子供が金槌で猫の頭を容赦無く思い切り殴り付けると、必死に逃げようと身体を強張らせていた猫はぐったりと地面に伏した。
子供たちは倖広を、誇らしげな表情を浮かべ見詰めながら、波紋を広げる様に猫から離れた。
倖広が笑みを浮かべ猫を抱き上げると猫の頭が倖広の腕からゆらりと垂れた。
倖広が猫を抱いたまま何処かへ行ってしまうと子供たちは何事も無かった様に、また散って行った。
倖広は園の外れにある古い物置小屋の中に入って行った。
暗い物置小屋の奥に行くと犬や小鳥、蜘蛛や猫の死骸が無造作に置かれている。
その中に今、殺したばかりの猫を加えると倖広はそこに寝転がった。
『オレは死体から生まれたから、死体に囲まれると安心するのか…………』
読んで戴き有り難うございます。
このストーリーも二十数年前に、マンガ用に書いたものを小説用に書きました。
活字中毒の娘にとても誉めて貰えたので、ちょっと自信作です。
今回ノーマルラブを私成りにロマンティックに書いてみました。
シャイン同様今日から、できるだけ毎日更新しようと思っています。
最後までお付き合い戴ければ幸いです。
あらすじは破滅的に下手過ぎるので、活字中毒の娘監修のもと書きました。笑