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それぞれの目的

「どう? アーくん、ソラの匂いする?」

「…ここ、色んな匂いがして、ソラの匂いが見つけられない」


 リサラ達は居なくなったリソラを探して、噴水広場までやってきた。闇雲に探すよりは、目立つ場所にいた方が、お互いに見つけやすいのではないかと考えたからだ。

 

 アークの自慢の嗅覚も屋台から漂ってくる美味しそうな匂いや、街中に飾られた花々の香りに惑わされ、役に立たなかった。


「もー! ソラァー! どこ行っちゃったのよー!」


 噴水の前で叫ぶリサラ。隣に立っていたアークは何処からともなく聞こえてくる声に気づき振り向いた。


「リサー! アーく〜ん!」


 リソラが二人の名前を呼びながら、こちらに駆けてくるのが見えた。


「ソラぁ!」


 リサラが声を震わせて名前を呼んだ。


「もー! ソラのばかぁ! 何、勝手にいなくなってんの! 心配したじゃん!」

「ごめんね、リサ」


 肩で息をしながら、リソラが申し訳なさそうに謝った。


「…ソラ、無事に見つかって良かった」

「アーくんも、心配かけてごめんね」

「まぁ、無事に見つかったからよかったけど……ソラ、その袋なに?」


 リソラは持っていた袋の中からオレンジ色の果物を取り出して見せた。


「これねぇ、美味しそうだったから思わず買っちゃったの。私の全財産、一瞬でなくなっちゃったけど」

「オレンジ一個で300ルキィ? なにそれ、ぼったくりじゃん?」

「一個でって訳じゃないんだけど……ちょっと色々あって……。そういう2人は何買ったの?」

「んふふ〜」


リサラは不敵に笑うと、自慢げな顔をする。


「じゃじゃ〜ん! なんかよく分かんないタピオカっぽいドリンク〜とヤバイ色した焼き鳥〜!」

「わ、すごい色!」


 リサラが差し出したのは、透明なひょうたん型の容器に入った飲み物と、青色の肉の串焼きだった。


「…僕はこれ買ってもらった。キイモロムシと人魚焼き」

「なにそれ、すごーい!」


 アークはキツネ色に揚げられた芋虫を串に刺したお菓子と人魚の形を象った鯛焼きのようなものを手に持っていた。


「なんか、お祭があるみたいで、色んな店が出ててるんだって。見てるだけでもすごい楽しいよ! あの店のやつも食べてみようよ!」

「うん、食べる!」

「…リサ、お金あるの?」

「……うっ」


 アークの言葉にリサラは立ち止まって肩を落とした


「……そうだった。あと500ルキィしか残ってないんだった」

「…使いすぎた」

「……あらら〜。ま、まぁ、まだ多少は残ってるし、何か他に稼げる方法ないか食べながら考えようよ!」


 リソラが手を叩いて、務めて明るく言う。


「そうだね! とりあえず食べよ食べよ」


 リサラもすぐに笑顔を取り戻し頷いた。


 三人は近くにあったベンチに腰掛け、互いに買ったモノをシェアして食べることにした。


「この肉、なんの肉かな?」


 リサラが青い肉の串焼きとタピオカっぽい飲み物をスマホのカメラに収めながら呟いた。


「味は……鶏肉っぽいかな?」


 リソラが青肉を食べながら感想を述べる。


「…このキトラス、甘くて美味しい」

「キトラスっていうの? この果物」


 アークがオレンジ色の果物を頬張りながら頷く。リソラは果物を興味深そうに味わった。


「…これも食べる?」


 アークが芋虫のお菓子を差し出す。


「…うぐっ! わ、私はいいかな〜」

「じゃあ、一個もらうね」

「え、マジ?」


 見た目のグロテクスさに、リサラは顔をひきつらせる。


「……んん!? なにこれ、美味しい!」

「嘘でしょ!?」

「なんというか、まるで焼きマシュマロみたいなサクトロ食感で、味はキャラメルみたいだけど、少し塩味もあって……さっぱりとして何度でも食べたくなるようなクセになる味……!」


 リソラは体験したことのない味に、目を輝かせた。



「これから、どうやってお金を稼ごうか?」


 食事を終えた三人は今後の相談することにした。


「んー、どこかでアルバイトとか出来たらいいんだけど……」

「バイトかー」

「なにか得意な事とかあれば、それを生かして稼げたりしないかな」

「私、ネイル得意だよ! ……あ、でも道具がないかー」


 双子は腕を組んで、ううーんと唸り声を上げた。


「アーくん、なんかいい案ない?」


 リソラがアークに尋ねる。アークは少し考えた後、答えた。


「……教会のシスターは身体を売ってお金を稼いでたよ」

「へ?」


 アークの思わぬ返答に、リソラは手に持っていた焼き鳥の串をポロリと落としてしまった。


「…男の人と一緒に寝…」

「わー! アーくん、ストップ! ストップ! それ以上は言っちゃダメー!」


 リソラが慌てて、アークを制止した。


「シ、シスターってそういう職業だっけ?」

「…違うの?」

「……アンタ、その年でけっこう苦労してんのね」


 リサラの困惑した表情にアークは首を傾げた。


「……と、とりあえず、お金の事はまた考えよう?そろそろ今日の寝る場所を探さないとだし」

「そうだった! たしかアーくんの隠れ家があるだったよね?」

「…うん」

「そこなら昨日の野宿よりはマシだよね」

「…じゃあ、案内するから付いてきて」


 アークはベンチから立ち上がると、スタスタを歩き出した。双子も慌ててその後を追った。



 アークに案内されてやってきたのは、街外れの下水道だった。


「え、ここ?」

「…引っかからないように気をつけて」


 下水道内へ通じるトンネルには鉄格子がはめられており、扉には鍵がかかっていた。しかし、鉄格子の一部が錆びて外れていて、その隙間から中へ入る事が出来た。


「待って、アーくんもうちょっとゆっくり……」


 リソラが先頭を歩くアークに声をかける。下水道の中にはほとんど灯りが無く、思った以上に暗かった。三人ははぐれない様に一列になり狭い通路をゆっくりと進んた。


「ひぃ! ネズミ!!」


 最後尾にいたリサラが悲鳴をあげる。足元を走り抜けたネズミに驚いたようだ。


 だんだんと闇に目が慣れてくると、下水路の中がうっすらと見えるようになった。


「…リサ、ここに火をつけて」

「え?」


 アークは下水路の行き止まりで立ち止まると、地面に置かれた錆びた空き缶を指差した。


「…小さい火だよ」

「う、うん。小さい火のイメージで……ミニファイア!」


 リサラの指先にロウソクのような小さな火を灯すと、それを空き缶の中へと投げ入れた。

すると、中に入っていたロウソクの芯に火が灯り、小さなランタンが完成した。


「わー、明るくなったー! リサ、すご〜い!」


 リソラが即席ランタンに感動し、小さく手を叩く。


「……もしかして、ここで寝るの?」


 ランタンの光で明るくなった周囲を見渡し、リサラがアークに確認する。


「…うん」

「ここなら雨風もしのげるし、誰かに見つかる心配もなさそうだから安心だね!」

「……」


 リソラとアークはランタン以外は何もないその場所に座り込み、一息ついた。


「リサ? どうしたの?」


 突っ立ったまま座ろうとしないリサラにリソラが声をかける。


「うっ…」


 ランタンの光が届かない場所に蠢くネズミや虫の気配を感じ、リサラは青ざめる。


「……ウェェーン! これなら昨日の野宿の方がマシだったかも〜!」



「私、ホント虫とか苦手……」

「私が見張ってるから、大丈夫だよー。虫が出たら追い払っておくから」


 不安げな表情で横になるリサラにリソラが声をかける。リサラの隣には丸くうずくまって眠るアークがいた。


「絶対だよ?」

「はいはい」


 リソラは青い表紙の本に目を落としながら返事を返す。


「……その本、面白い?」


 ランタンの灯りに照らされたリソラの横顔を見つめながらリサラは問いかける。


「ん? ……うん、おもしろいよ。私の知らない事がいっぱい書いてある」

「へー」

「……この世界ってさ、初めてみるのに初めてじゃない感じがしない?」


 リソラが本のページをめくりながら、リサラに語りかける。


「……また、異世界がどうとかって話?」


 リサラは一瞬、眉をひそめたが、リソラが何も返してこなかったので、諦めて話を続ける。


「まぁ、映画とか漫画で見たことはあるかもね」

「だよね。それってさ、中にはフィクションじゃないものもあるかもしれないって思わない?」

「……どういうこと?」

「この世界を実際に体験した人が元の世界に戻って本を書いたとしても不思議じゃないってこと」

「……?」


 リサラが目を閉じて、首を傾げる。


「私たちが見てきたファンタジーの大元はこの世界を描いているんだよ、きっと」

「全然、意味がわからない……」


 リサラは目をつぶったままの状態で口だけ動かす。


「もー! だからさ、この世界から元の世界に戻って物語を書いた人がいるって考えたら、私達も元の世界に戻る方法があるんじゃないかって意味」

「……そうだね。……うん、帰らなきゃ、何としてでも……一緒、に……」

「……って、寝てるしー」


 話の途中で眠ってしまったリサラの顔を睨みつけるリソラ。そして静かにおやすみと声をかけると、再び本のページをめくった。



「…ソラ、起きて」

「ん、あ、おはようアーくん」


 本を読みふけったまま、いつのまにか寝てしまったリソラはアークに起こされ目を覚ました。


「…朝ごはん、取ってきたから食べよう」

「え、朝ごはんあるの!?」


 リソラはガバッと起き上がる。


「…リサも起きて。火、着けて」

「ん、んー?」


 アークはリサラの頬をペチペチと叩き、消えてしまったランタンに火をつけるよう促した。


「あー……はいはい、火ですね……」


 眠たげな目を擦りながら、リサラがランタンに火をつける。


「それで、アーくん。朝ごはんって……」


 アークは手に持っていたものを双子の目の前に突き出した。それは大きなネズミの死骸だった。


「……!!」


 下水道の中に双子の悲鳴が響き渡った。



「まさか、人生でネズミを食べる日が来ようとは……」


 リサラは青ざめた顔で口元を押さえながら、必死に食べたものを飲み込んだ。


「まさにサバイバルって感じ……」

「塩とかあればよかったね」

「そういう問題じゃない!」


 リサラが涙目でツッコミをいれる。


「…いらないの?」


 二人のために取ってきたネズミを食べやすいようにむしりながら、アークはリサラを見つめた。


「食べる! 食べるよ! ……うぅ、目をつぶればイケるかな……」


 アークが丸焼きにしたネズミの足を受け取り、口へ運ぶリサラ。


「…はい、ソラの分」


 アークが残りの部分も食べやすい大きさに千切りリソラに差し出した。


「ありがと〜……あれ? それ、どうしたの? 火傷?」


 リソラはアークの右手の甲を指差した。親指と人差し指の間に火傷のような跡があり、それは紋章のような形をしていた。


「…これは、洗礼の証。教会でもらったんだ」


 アークは火傷の跡を見て、そう答えた。


「洗礼? ……そういえば、アーくんはどうしてこの街に来たの?」

「あ、前に教会から逃げて来たって言ってたよね?」


 リソラの後に続けてリサラも質問する。


「…神都へ行く途中だったんだ」

「「シント?」」


 双子が声を合わせて聞き返す。


「…神の都って呼ばれる大都市だよ。ここからずっと北のほうにあるんだ」

「そこには何があるの?」

「…新都は魔導師の国だから……大勢の魔導士がいて、色んな魔法を研究してるって聞いた」

「魔法の研究……!そこに行けば、帰る方法が見つかるかもしれない……」


リソラの言葉にリサラが目を見開く。


「…2人も一緒に行く?」


 アークが少し不安げな表情で二人の顔を覗き込んだ。


「行こう、ソラ! 私達も神都に!」


 2人は互いに手を握りしめ、頷き合う。


「うん、行こう。3人で一緒に行こう!」


 リソラがアークの手も一緒に握り込み力強く頷いた。アークは少しホッとした表情を見せ、小さく頷き返した。


「せっかく旅するなら、楽しみながら行きたいよね! いろんな場所を観光してさー、ご当地の美味しいものとか食べたりして!」


 リサラが楽しそうに話し始めると、リソラも目を輝かせながら、うっとりと想像を膨らませる。


「私は甘いものが食べたいなぁ! きっと食べた事のない味のお菓子とかあったりするんだろうなぁ〜」

「あー、なんとかスマホの充電する方法ないかなー? 電波はなくてもカメラ機能は使えるし、写真いっぱい撮りたい!」

「はぁ〜、食べ物のこと考えたら、お腹すいてきちゃった……」

「アンタ、さっきネズミ3つも食ったじゃん!」


リサラが呆れた声でツッコミを入れると、3人は互いに顔を見合わせて吹き出した。

暗い下水道の中に、三人の明るい笑い声がこだました。

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