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筋道日(きんどうにち)  作者: 信条 真也
19/22

第三章②:極涼新星(ごくりょうしんせい)

今回は新たな風の舞う話

 真也達が中学三年生へと進級し、各地の不良達は彼らに恐れを成してすっかり喧嘩を吹っ掛けてこなくなった。そうして争い事の無い平和な一ヶ月を過ごし、仲間内で今年入ってくる一年生の顔を拝もうと外から体育館内の入学式の様子を眺めていた。


「いやぁ、俺ら皆、もうこの学校の最上級生だな」


「そうだな~、今年の新入生はどんな奴が入ってくるんだろうね~」


「楽しみだね~」


 彼らは形式上では新入生を迎える在校生であるのだが、彼らはこれまでの悪行を重ねてきた悪名高い問題児である為、新入生に悪影響を及ぼす対象として見られているので教師達から式の間だけ出禁にされたのだ。


 二年生の中には、それほど悪名が知れ渡っている訳でもないが10人程の不良グループが存在している。その中で深谷ふかやという名の生徒が番格を担っているらしい。

 彼ら深谷グループは下級生に興味が無く、特に気合いが入っている訳でも無い。しかし、彼らは真也達によって生まれた四区中学校の影響を利用して、他校に喧嘩を吹っ掛けて“四区中だ”と在校名を挙げることで恐怖を知らしめて意気がるという小さい連中である。

 そんな彼らは校内で特に悪さをしておらず、真也達も下級生を相手にするタイプではなかったので、挨拶もしっかりされていた為、印象は悪く無かったので真也達は放置していた。


 そして体育館のの外から、真也は新入生達の様子を眺めている中で一人の新入生を対象に目が止まった。真也は今までの戦いの経験によって、体格、立ち振舞い、表情等から相手の力量を人目で把握する目を会得している。そんな彼の目に止まった生徒は、入学式の数日後、彼らのいる特別教室に声を張り上げて駆け込んできた。


「押忍!! 失礼しますッ!!」


 凄まじい大声で挨拶をしつつ頭を下げる新入生は、身長160cmほどで見るからに小柄だった。真也は彼に声を掛けてみる。


「おう、どうした?」


涼太りょうたと言います!!」


「おう、涼太か。初めまして~」


「いや、束岡先輩ッ!!」


 そうしてデカい声を発しながら真也の元へ走って近づき、後ろで手を組んで“休め”の姿勢で止まる。


「押忍ッ!! 僕、束岡先輩の噂を聞いて、憧れてこの中学校に入学しましたッ!!」


「あっ、そうなんだー!?」


 真也は内心で優越感に浸り、涼太に好印象を抱いた。


「んで、今日はどうしたの?」


「押忍ッ!!」


「いや押忍って、やめろその喋り方~。押忍いいから!」


 真也は笑みを含みながら口調の変更を促し、涼太は素直に受け入れる。


「はい、分かりましたッ!! あの、束岡先輩、ちょっとお願いがあるんですけど」


「何だ?」


「僕ら、色んな中学の頭を潰していきたいんですが宜しいでしょうかッ!?」


 小柄で1年生ではあるものの、純粋な目で見つめて逸らさない気合いに真也は感銘を受ける。


「あぁ、別に良いよ? うちら足立区内を中心に各地を叩き潰して仲間になっててさ、三年同士で皆仲が良いから何処と何やっても良いよ。んで、もし何かトラブった時は俺の名前出せよ? そうすりゃ何でも解決すっから、殺されそうにでもなった時の為にも俺の連絡先教えといてやるから」


「押忍ッ!!」


「お前、押忍押忍うるせっけど極真かなにかやってんの?」


「押忍ッ!!」


「押忍はいいんだよだからっ!」


「はい、すいませんッ!!」


 そうしたやり取りから、真也は後輩を持つことの良さを実感した。


「あの、隣に北都中あるじゃないっすか! そこに取り敢えず喧嘩売りに行きたいと思うんですけどッ!」


「いいよ何やっても、一年同士で好きなようにやってこいよ」


「分かりました! ありがとうございます!! 行ってきますッ!!」


 涼太は言い終わると同時に後ろを向いて駆け出す姿勢に入る。


「え、お前今から行くの!?」


「押忍ッ!! 今から行ってきますッ!!」


「や、やめとけって! 夜にしろって! 昼間にやったらすぐ警察来るから夜にしろお前ら、分かった?」


「はい、分かりました!!」


 涼太は真也の方へと足早に戻り、再び“休め”の姿勢で静止する。


「涼太、お前ほんと頑張れよ、小柄だけどちゃんと気合い入ってっから……なんとかなるだろう」


「段持ちなのか?」


「いや、まだ所持しておりませんが、取るのはもう間近なんでッ!!」


「そっか~、極真って剛柔流うちの派生じゃん」


「押忍ッ!!」


「だから押忍はいいんだよ」


「はい、すいません!!」


「俺も剛柔流やってっからさ~」


「はい、聞いてます! 空手の源流ですよね!」


「そうだよ、こっちは結構危ない空手でそっちはスポーツとして特化じゃん? この先、武術も喧嘩も行き詰まることはあるから、その時は俺が教えてやるよ」


「ありがとうございますッ!!」


 そうして初対面の好印象で浮き足立ちながら、互いに今後の楽しみを内に抱いていくのであった。



 翌日、涼太が早朝にも関わらずまた凄まじい大声で特別教室に入ってきた。


「押忍ッ! 失礼しますッ!! 北都中の奴らをブッ飛ばしましたよぉおおお!!」


「おぉ、いいぞいいぞその調子だ! 俺らの後を継いでいけそれで、もうやりたいようにやれ。ムカついた奴がいたらとことんやっちまえ! その代わり漢としての筋は通せ、自分達が悪いと思うような事は絶対するなよ? 俺らもそうやってきたから。んで、理不尽なことやったらお前ほんと叱るからな。分かった?」


「はい! 分かりました!」


 真也は涼太が羽目を外して暴走しないようにと、彼にしっかり指導してハッキリと返事をされたのでその場は安心出来た。しかし翌日、真也が校内を彷徨いているところにはじめが慌てた様子で駆け込んできた。


「おーい真也! ちょ、ちょっと来て来てオイィ!!」


「どうしたどうした?」


「あの一年の涼太いんだろ!? あれがよ、深谷ってうちの二年と揉めてんだよ!」


「え、何それどこどこ見たい見たい!」


「体育館裏! 体育館裏! あのプールと体育館の間んとこだ!」


「おっけおっけ、んじゃ今から行くぞ!!」


 そうして真也は仲間を連れて創と体育館裏へダッシュで見学しに向かった。すると、そこに深谷が率いる10人グループと涼太が率いる6人グループが対面していた。何やらコソコソと喋っていたので真也達は間に入っていく。


「おい、どうした?」


「あ、押忍ッ!!」


 涼太が真っ先に真也達へ挨拶する。


「束岡先輩、申し訳無いです。こいつらちょっとムカつきますッ!!」


「どうした何があった?」


「何かね、この深谷って奴が僕からしたらそんな強そうに見えないんですよッ!!」


「何だこの野郎ッ!!?」


 涼太が変わらずハッキリと大声で言うので、深谷は怒りが込み上げてくる様子。真也は一先ず状況を把握するため双方に一旦ブレーキを掛ける。


「取り敢えず落ち着けお前ら! あのな、お前ら涼太と深谷はやんのか?」


「やりたいっす! 俺にタイマン張らせてくださいッ!!」


 涼太は真也の問いに対し即座に肯定して、深谷とのタイマンを真也に頼み込む。


「あぁ俺はいいよ別に、お前らがやりたいんだったらやれば? 深谷どうするお前?」


「一年に舐められて、引くわけにはいかないんで」


「涼太は相当やれるぞ? 多分ボコボコにされるぞ、見て分かんねぇの? やられても知らねぇぞ?」


「まぁ束岡先輩の前なんで、はい。覚悟決めてやりますんで」


「おっし、んじゃいいぞ二人とも頑張れ」


 真也の言葉を合図に、周囲の不良ギャラリー達は二人を囲んで歓声を上げる。


「んじゃ、一応剛柔流の大会形式で、喧嘩だから何でも有りでいいよ。その代わり、どっちかが危ねぇと思ったら俺が止めに入るから。俺レフェリーな?」


「押忍ッ!!」


 終始大声を張り上げている涼太の気迫に、深谷は戦闘前から少し気圧され顔が引き吊る。真也は大会形式と称して、白が涼太、赤が深谷と指定しレフェリーの真似しながら喧嘩の進行を促す。


「白、涼太選手! 前へ!」


「押忍ッ!!」


「赤、深谷選手! 前へ!」


「はいッ!」


 そうした大会の真似事による進行にギャラリーが爆笑し、小さな大会と言える雰囲気が綺麗に仕上がった。真也は前屈立ちの姿勢で右手を赤、左手を白に向けて手を広げて数秒静止する。そして両手を真ん中で叩いて開始の合図をする。


「……始めッ!!」


「うぉおおおおおっすッ!!」


 開始の合図と同時に涼太が先手で前に踏み込み、深谷の鳩尾に前蹴りを打ち込んだ。そして打たれて深谷が倒れる前に、上段正拳突きを顔面に打ち込んで追撃する。その二連撃をもろに受けて深谷は地に倒れ、そこへ透かさず跳躍して空中からの下突きを鳩尾へ叩き込む。そして興奮しきった涼太は深谷の髪の毛を掴んで顔面にパンチを連打し始めたので真也が羽交い締めで止めに入る。


「やめやめ! 止めろ!! お前の勝ちだ涼太、やめとけ!」


 深谷はその場で横になったまま嗚咽を吐く。そして勝者の涼太に歓声が集まる。


「お前すげぇな涼太! その体型でそれって、結構大会とか出ても実力あんだろ?」


「千葉県の大会で優勝してきました!」


「おう、やるじゃねぇか! 俺も一応、剛柔流だからよ~……血が騒いじゃったよ今のを見て。おい涼太、俺とやるか? 俺左手一本で相手してやるからやるか?」


「あ、お願いできますかッ!? 押忍、ありがとうございますッ!!」


 涼太は憧れの先輩と一戦交えられることに感激し、満面の笑みを浮かべる。


「んじゃ、うちに石出師範って有名な人が居てさぁ~、俺が小学生の頃から組手やる時に必ず右手と両足を使わずに左手だけで相手してくれてたんだ。こうやって右手を後ろの腰ベルトに入れて、ベルトをグッと握った状態で左手一本でお前と戦ってやるから」


 真也は宣言通り右手を後ろにして、腰ベルトを握った状態を見せる。


「あと実際に思いっきり打ち込んだりはしないから、お前が打ちたいように、やりたいように稽古つけてやるよ」


「ありがとうございますッ!!」


「いつでもいいぞ」


 そう言って真也は猫足立ちの姿勢で待ち構え、涼太はその姿勢に驚愕する。


「え、そんな立ち方あるんすかッ!? 極真じゃ無いんですけどそういうの!!」


「これが剛柔流だよお前、かかってこい。どっからでもいいぞ。俺らも大会で全国取ってっから、極真なんて俺らからしたらあんなん遊びだから、スポーツだから」


 真也はこの時、既に何度か実績によって飛び級して正二段という段位を習得している。指導員となるには高校生で16歳になる必要があるので、まだ指導許可は正式に下りていない。

 真也の背後で創達がニヤニヤしながら様子を見る。


「あいつ絶対一本も取れねぇぞ……っへっへっへ」


「一本も取れるわけねぇよ……ックフフ」


「お前らちょっと黙ってろ、俺が稽古つけてやんだから黙ってろーーおっし涼太、来い!」


「押忍ッ! 行きます!!」


 涼太は深谷の時と同様、また前蹴りを最初に繰り出す。極真というのは、近接特化している流派なので前蹴りや中段突き、下突き等の連打が基本とされていてる。

 そして極真のルールとして上段突きは型をする以外に禁止されており、先程深谷との戦闘はあくまで喧嘩なので上段を打ったのだ。フェイントも特に無く、大会もポイントの取り合いではなく倒し合いである。その事を熟知している真也は軌道がスローモーションのように見えることも含め、その前蹴りを下段受けで相手の脛に骨がぶつかるようにして軽く弾き飛ばした。


「いってぇえええ!!」


「おらどうした?」


「いってぇえええ!!」


「痛ぇじゃねぇんだよお前、はよ来いよ」


「押忍ッ!!」


 そして涼太は痛みを堪えつつ中段正拳突き、下段正拳突き、上段回し蹴り、前蹴り等の習った技を片っ端から色んな組み合わせで繰り出し連打しにかかった。しかし、真也はそれをバックステップしながら全て左手で軽々と受け流していく。


「何だどうした涼太、そんなもんか?」


「半端じゃないっすね剛柔流ッ!? くっそぉおおおァ!!」


 涼太は叫び散らしながら必死にパンチを連打するが、真也は笑いながら全て受け流す。


「おういいぞいいぞ、来い来い!」


 そうして受け流した後に、真也は裏打ち(拳を握りながら手の甲を前にして、凪ぎ払うように打ち込む技)を涼太の額に軽く寸止め気味で当てる。すると、加減が入ったものの涼太は弾かれたように後ろへ転倒した。


「オアァ……ッ!」


「あ、ごめんごめん涼太、つい力入れちったわ」


 涼太はすぐに立ち上がり、しっかりと頭を下げる。


「ありがとうございましたッ!! 束岡先輩マジ半端無いっす……マジ憧れっす!!」


「今後もいつでも稽古つけてやっから、剛柔流と極真では根本的な違いがこんだけあるんだよ。分かったか?」


「分かりました!」


「お前気合い入ってっからさ、殺人空手といって人間の身体の壊し方とか色々知ってっからさ、それらを教えてやるよ」


「へぇ、そうなんですか! 知識不足で申し訳ないっす!!」


「まぁお前可愛がってやっからさ、今後も。いつでも特別教室に来いや、稽古つけてやっから。俺らの後を継ぐ勢いで好き放題やれ! 足立区中で暴れまわってこい!」


 そうして真也は、意気の良い後輩達と良好な関係を築き上げるのであった。




つづく

まだ前話の更新から8時間しか経っていませんが、急な諸事情により今回は急いで書きました。



不定期更新ですが次回もお楽しみに!

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