第三章①:魅調駆散(みちょうかざん)
今回はいつもより平和な日常となっております
中学2年の終盤にして、季節が二度目の春に移り変わる。すると、今まで見かけることのなかった4つの才の芽が顔を出しに来た。それらは基宮と同じ三年生で、学年内でも基宮と同等なくらいに名が知れ渡っていた。
単独で暴れ回っていた暴走族みうの他に、カッカ、ナガヤ、木山、セータという男子4人のメンバーでバンドをやっていて、その練習で卒業間近までずっと不登校でいた。その中でもみうという生徒に関しては、とある有名な暴走族の6代目頭領を担っていることもあり、竜村との面識もある為他の3人よりも飛び抜けて名が知られていた。
そして竜村を伝って真也の事がその4人にも知られており、入学して2年が経った今、みうという3年生に真也から初の面識を交わす。
「あの、みう君……ですよね?」
「うん、そうだよ。束岡お前、竜村君から噂聞いてるよ」
「あ、そうなんすか!」
「お前すごいね~、気合い入ってるね~! 俺も一応暴走族やってんだけどさ」
「あ~聞きました!」
初の顔合わせから既に互いの情報をある程度知っていて、波長が合うのか初っぱなその日から一緒に遊ぶようになった。家に上げてもらってゲームしたり、ゲーセン行ったり、その他にも色々出掛けたりと日々遊び倒していく。
そんな中、真也はバンドの4人から自分達のライブを見に来るよう声を掛けられる。
「どこでやるんですか?」
「近所の駅前に公民館ってのがあるんだけど、そこのスタジオで舞台を借りてやるんだよ、レンタル料金は割り勘でな。んでお前らはタダで良いから見に来る?」
「はい! 是非見たいです!!」
「んじゃ練習も公民館で毎週水曜日やってるからさ、見学したかったら来ていいよ~」
「ホントっすか!?」
後日、創の他に数人連れて練習風景を見に来た。ボーカルのナガヤ、ベースの木山、ドラムのカッカ、ギターのセータ、といった構成で洋楽や邦楽のカバー曲から入り、プロ級に上手い演奏が繰り広げられた。
「すげぇ……」
「バンドって間近で見るとこんなカッコイイんだ……!」
真也達は関心のあまりに鳥肌が立つ。そうした状態で数十分が経過し、演奏を終えた4人が真也達の元へ近寄る。
「演奏どうだった~?」
「いやぁ感動しました!! 俺もちょっと興味湧いたんで、楽器触りたいんですけど!」
「いいよ~、何がいい?」
ベースの木山から許可をもらい、真也は即座に楽器を選択する。
「俺、ドラムやりたいっす!!」
「おう、ドラムやりたいの?」
そう言うとドラムのかっかが微笑みながら快く、ドラムの椅子に座らせてもらえた。
「ドラムってのは基本ね、8ビートから練習するんだ」
「8ビートって何ですか?」
「じゃあ今から見せるから、ちょっと見てて」
カッカはドラムスティック片手に、右のシンバルで分かりやすくゆっくりとリズムを刻んでいく。
「これ8拍子っていうんだけど、分かる?」
「あ、分かります、見ててだいたい分かります」
「それの、8分の4のところで、目の前の太鼓を左で叩くんだよ」
カッカは次にドラムの音も加えて同じリズムでゆっくりと叩いていく。
「とりあえずこれを、両手だけでやってみ?」
「はい、分かりました!」
そうして教えてもらった通りに1度試したら、その1回で成功した。
「んじゃどんどんテンポ上げていってみ~」
真也は指示通りに叩く速度を上げていく。
「おおっ、すごいじゃん!」
「マジっすか!?」
「んじゃ、こっからが難しいから見てて」
カッカは左手でシンバルを一定のリズムで叩きながら、右足でペダルを踏んで縦置きドラムを叩き、右手で横置きのドラムを叩くといった具合にそれぞれ別の刻み方で演奏する。これを3点別々の意識でリズムを狂わさずに一発で成功すればドラムの才能があると言われているらしい。
「暫くこれ見せるから、よく目と脳に刻んでからやってごらん」
2分程演奏を見せてもらい、その演奏のカッコ良さに惹かれて順番をせかす。
「やっぱドラムかっこいい……、はやく代わってください!」
「いいよいいよ、じゃあできるか? 一生懸命やってみなよ」
「はい!」
そして真也が実践すると、見事に1発で成功した。その瞬間、仲間とバンド4人達から一斉に歓声が沸き立った。
「うぉあー! こいつすげーぞ才能あんぞ!!」
「お前、絶対音感持ってるだろ?」
「絶対音感って何すか……?」
「聞いた音を瞬間的に記憶したり、判別出来る才能がお前にはあるってことだよ」
「マジっすか!? じゃあ今後も教えてください! 俺もドラム叩きたいっす!」
「おう、卒業前にライブあるから、是非見に来いよ」
「分かりました! どういうジャンルやってるんすか?」
しかし4人は全員、ニヤけながら誰も答えを挙げない。
「いやぁ見れば分かるから!」
「見れば分かるよ~」
「んじゃあ○月×日のライブチケットあげるから、タダで良いから見に来なよ」
「ありがとうございます!」
カッカから5人分のチケットを貰った。
「じゃあ○時頃ね~、チケットに書いてあるから」
「はい、是非行かせていただきます!!」
そうして後日、チケットに書かれた日程に創達4人と集まった。そこには大勢の観客が集まっていて、始まる前から盛り上がっていた。真也達もその光景を見て高揚感が高まる。
「どういうジャンル歌うんだろうな~?」
「なぁ~、ニヤけ顔だったけど全然想像つかねぇよ」
「隠すってことはメジャーじゃないのかもな」
「ずっと俺らカバーしか聞いてないじゃん? で、今回は全部オリジナルらしいよ」
「それ、すごくない!?」
「中学生で、オリジナル曲オンリーのライブか~やべぇな!!」
仲間内で話し合っていると、バンドメンバーが声を上げた。
「みんな盛り上がってるかァアアア!?」
「今日はよぉおお! みんなの為によぉお! 神を侮辱した曲にしたからよぉおお!! 神はもう死んでるって曲用意したからさぁ~、いくぜぇえええ!!」
観客は笑声に溢れ返った瞬間に演奏が始まる。ハードロックな曲調をながやがデスボイスで歌い始める。歌詞の仰天さと舞台でのアクションで笑わせる、コミカルバンドというジャンルに周囲の観客はひっくり返ったり笑いこける。
「っはっはっは! いやぁ何で学校来てくれなかったんだろうね~」
「何か学校が嫌いで~、サボってずっと演奏の練習してたらしいよ~」
そうして何回かライブを見せてもらい、より親しい仲になったところでバンドの4人の進路を聞くことになった。腕前の良さを見込んで音楽関係のスカウトがよく来ていたらしく、それに向けて就職したり音楽の道へ進むらしい。その中でベースの木山だけは違う道を行くと言う。
「高校は行くんすか?」
真也は木山に問いかける。
「あぁ、東京足立区立古納高等学校ってとこにいくんだよね~」
「え、そこってあれですよね? 治安悪い足立区の中でも超底辺な連中が行くとこっすよね!?」
「そうだよ、俺ら頭バカだから。共学でさ、結構可愛いギャルとかいるらしいからそこに入学するんだよね~!」
「マジっすか~木山君! じゃあ俺らも勉強してないんで、もし卒業することになったら連絡いれるんで、連絡先を教えてくださいよ」
「いいよ~。俺らはねぇ、喧嘩とかそういうのしないタイプだからさぁ、悪ぶってているけど一応喧嘩とかそういうの好きじゃないから、音楽が好きだから」
「あ、そうなんですか!」
「お前らの話聞いてたけど、ほんとスゴいなって。みう君とかから聞いてたけど、お前ら面白いよ。今後もよろしく頼むね~」
「はい!」
こうして彼らとの友情を深めつつ、卒業を迎える日が訪れた。真也達は資金をかき集めて花束を作り、彼らにそれぞれ送る。
「なんでもっと早く学校来てくれなかったんすか~!」
「もっと早く出会ってねぇ、もっと早く色んなこと教えてもらいたかったっすよ~!」
「ごめんな~」
「でも、卒業おめでとうございます! 今後も長い付き合いになると思いますんで、よろしくお願いします!」
そうしてバンドの4人の卒業を迎え、その翌月には真也も中学3年に進級する。
真也が中学3年になった頃には、既もうに足立区や周辺、埼玉、そして在日朝鮮人の中学生と恐れられていた連中を片っ端から潰し回ったことで誰からも喧嘩を吹っ掛けられることが無くなり、より落ち着いた生活が続いてく。そして泉と瑞穂という、真也の女子バージョンと言われていた二人組を助けた件もあり、真也とその仲間達に群がる女子軍も日々人数が増してゆき、今までの戦いの反動による一時の平和な日々を送り始めるのであった。
つづく
前回、主要人物一覧を投稿した際に「監修の出張予定により10月末まで休載」といった内容を後書きに記しました。
しかし、一向にその予定が訪れず「このままでは、いつまで経っても再開できそうに無いし、もうやっちまうか!」と監修が判断した為、いつもながら不定期更新ですが再開致します。
途中で出張により間隔が開いてしまう可能性がありますので、ご了承いただけると幸いです。
では次回をお楽しみに!