1-19 狙撃手、ウォーカー10
「さて、レベルも上がったところで早速蟹を倒しに行こうぜ。」
俺は張り切ってそう言う。
しかし、月明かりしかない川原では見通しが利きにくく、不意打ちなどにも気を配りたいと思う。
ポイントマンとしてタンクのモントちゃんを先頭に、ショットガンナー兼ブリーチマンの俺が二番目、そして最も射程のあるライフルマンのマドカが3番目を歩く楔形陣形で並ぶ。
楔形陣形とは縦列でも横列でもなく斜めに並ぶ陣形である。
つまり今俺の左斜め前にモントちゃんがおり、マドカが右斜め後ろにいる状態だ。
縦列でも横列でもないメリットとしては、縦列であれば正面から横列であれば横からの接敵したときに味方で射線をふさいでしまうため、接敵した瞬間の火力が下がってしまう。
しかし楔形陣形では横だろうと正面だろうと、接敵したときに最大火力を相手にたたき込むことが出来る陣形なのだ。
本来は砲撃などで大きな被害が出るのを防ぐため5m以上間をあけるのだが、今は砲撃される心配は無いので2~3m間を空けて歩く。
周囲を警戒しながら歩いていると
「あ!あそこ……。」
と、俺たちから見て十一時の方向、モントちゃんの視線の先には川原の石の敷き詰められた地面からモクモクと土煙が上がっているのが見えた。
その土煙の中から1mほどの高さの赤紫色でトゲトゲした蟹が出てきた。
すぐさまモントちゃんがヘイトを稼ぐために大盾と一緒に構えた
MP18サブマシンガンを蟹に向けて9㎜弾をばらまく。
MP18サブマシンガンは1918年にドイツで作られた短機関銃で塹壕に突撃する兵士が短時間で大量の拳銃弾をばらまくことを目的とした銃だ。
その驚異的な能力は当時膠着しがちだった戦線をたったの8日間で65kmも前進させたほどである。
しかし、蟹はたいしたダメージが出ていないのか意に介する事なくモントちゃんに向かって歩き始める。
俺とマドカはそこをすかさずモントちゃんの両サイドに展開、横列になって銃撃を加える。
マドカのM1860ヘンリーライフルから放たれた44口径の弾丸が蟹を捉えてキラキラと被弾エフェクトを煌めかす。
俺はせっかくだからとおぼえたてのアーツを使うことにする。
「喰らえ!《ピアスバレット》!」
すると、M1897ショットガンの銃本体が青白く輝く。
そのまま引き金を引くと青白く光る大量の軟鉄が飛散し、蟹は真正面からその軟鉄の雨を浴びた。
軟鉄ははじき返されることなく貫通し体内を軟鉄によって引き裂き、ダメージを何度も与えながら蟹を貫通し何処かへと飛んでいってしまった。
蟹は何が起きたのか解らない、といった風に被弾エフェクトで全身をキラキラさせてポリゴンを散らしていった。
「えっ、あんな強いの……?」
俺が感嘆しながらぽつっともらした。
△△△△△△
キャンサーの爪×1
巨大蟹の爪、その挟む力はとても強く、中に詰まった身は絶品。
▽▽▽▽▽▽
このゲームでは戦闘にかかわった全員に個別でドロップが発生する。
俺のドロップはキャンサーの爪だった。
コレ食べられるのか?とあほなことを考えながらリーエンフィールドに弾を補充する。
マドカとモントちゃんもそれぞれM1860ヘンリーライフルに弾を込め、MP18はサドルマガジンを交換している。
「ヘンリーライフルにMP18か、どっちも良い銃だ。」
「そう?ありがとう。私のは昼間に狩りで手に入れた材料で作っちゃった。」
「なるほど。連射が出来るのは確かに有利だからな。」
「ふふん。」
満足げにマドカが鼻を鳴らす。
M1860ヘンリーライフルは装弾数16発のレバーアクションライフルだ。
後装式ライフルは単発が主流だった時代に起きたアメリカ南北戦争で、北軍の兵士が自費で購入したM1860ライフルが猛威を振るった。
南軍の兵士はその装弾数と連射速度から「日曜日に弾を込めたら土曜日まで撃てる」と揶揄?したらしい。
発射レートも高く、一般的なボルトアクション式ライフルが分間20発に対してヘンリーライフルは分間28発だったそうだ。
しかし、チューブマガジンが完全に封鎖出来ず、ゴミが侵入しやすかったことと、チューブマガジンの不便さによって次第にボルトアクション式ライフルに駆逐されていった銃だ。
「さて!どんどん狩りに行きますか!」
上機嫌なマドカの声を聞きながら俺達は川原をどんどん進んでいった。
す、進まん…。




