1-14 豪運?ウォーカー2
「うん、面白いわ。装備を作ってあげる。」
ドーラが突然声を上げる。
「えっ?気に入った相手にしか装備を作らないんじゃないのか?」
俺は驚きながら疑問の声を上げた。
「あんたのその壕運が面白いからよ。早速だけど、今出せる素材と何が欲しいのかを言ってちょうだい。」
俺はグイドに目配せするとグイドが自分のトレードウィンドウを可視化してドーラに見えるようにする。
二人は隣り合って座り、1つのウインドウを注視する。
こうしてみるとなかなかお似合いな二人だと思う。
VRゲームは体格に関係する数値はほとんどいじることが出来ない。例えば身長や体重、股下、腕の長さ、体型といったものだ。
理由としてはリアルとかけ離れた体型にすると脳が混乱してしまい、リアルでもVR世界でもまともに動けなくなってしまうからだ。
つまり、リアルでもこの二人は並んで座ったときにお似合いな見た目になると言うことだ。
人並みに惚れた腫れたが好きな俺としてはこういう尊いって感じのするカップルが好きなのだ。
微笑ましさにほっこりしているとドーラから罵声が飛ぶ。
「どんな装備が良いのか話してるのにあんたが参加しなくてどうする!」
「ご、ごめん」
そう言って二人の会話に参加する。
「で、どんなスタイルで戦ってるの?」
「そうだな、狙撃銃を主体に近接戦はショットガンでーみたいな感じた。凸砂じゃなくてちゃんと隠れて、探して、撃つってタイプの。」
「そうね、そうしたら光茸はナイトサイトに使って、キャニオンゴートの皮とキャプテンアントとガーニーアントの殻で迷彩防具を作ろうかしら。問題はキャプテンアントの槍ね、これはキャプテンアントの徽章とガーニーアントの徽章を鋳つぶして槍に混ぜて強度を上げる、そのうえで銃剣を作り直そうと思うのだけど、どうかしら?」
「正直、アイテムの価値が未だによくわかってないからその辺は任せるよ。」
今回、ここで言うところのナイトサイトはレティクルが光るようにすることだ。
レティクルというのはよく狙撃銃の登場する映画でターゲットに狙いを定めるあの十字の線のことだ。
レティクルは通常、黒い線なので暗いところを見るとレティクルが見えなくなってしまう。
そこでレティクルを光らせる、またはレティクルの中心部分を光らせることで、夜間や暗いところでも戦いやすくするのだ。
「あらそう、じゃあ自由にさせて貰うわ。ところでウォーカー、あなたパーティーメンバーは?」
「今のところ居ないんだ。成り行きでソロをやってる。」
「え、このゲームでソロだと大変じゃないの?序盤のMOBは1度アクティブになったらそれこそ地の果てまで追いかけてくるわよ。」
「うっ、それは経験済みだ……。」
「そうねぇ、なら銃剣はM1897ショットガンに付けちゃいましょう。それなら近接戦になっても十分対応できるわ。それに狙撃銃に付けちゃうと精密な射撃が出来ないし。」
「確かにな。じゃあそれでお願いするよ。」
銃剣が精密な射撃に影響するのはかなり昔から言われている。
実際東西冷戦の象徴とも言われる2つのライフルAK47とM16ライフルでは銃剣の刃の向いている方向が上下逆さになっている。
これは弾丸の後ろを追いかける発射ガスが銃剣の峰に当たって乱気流を生み出すからだと言われている。
精密射撃はマークスマンライフルのM14に任せていた米軍ではM16での精密射撃に注視しておらず、影響の受けやすい肉厚な峰が上を向いて取り付けられている。
逆に狙撃などにも使用されたAK47ライフルの場合影響の受けにくい肉のうすい刃の方が上を向いている。
今回はドーラの言うとおり影響が出ないように狙撃銃には銃剣を付けないことにした。
「手数料はアントの素材をいくつか貰うのとお金で手を打つわ。じゃあ銃を暫く預かるから貸しなさい。」
俺は提示されたトレードウィンドウにショットガンと狙撃銃を乗せる。
「ちなみにいくらくらいになりそう?」
俺は恐る恐る聞いてみる。
「そうね、手数料ってことだからそんなに高くするつもりはないけど……、こんなものかしら?」
そう言って右手で6、左手で5を表現する。
「6500……。そんなに今持ってない……。」
「あら、じゃあお金はあとでで良いわ。」
「ありがとう…。なんか良い金策を見つけなきゃ…。」
力なく呟く。
するとドーラが助け船を出してくれた。
「ウォーカー貴方、クエストを受けないの?」
「クエスト?」
「そう、町の寄り合い所に行くと討伐クエストだったりお使いクエストだったりがあるわよ。武器を渡したら行ってきなさい。」
「うぅ、ありがとう。」
さて、とドーラがグイドの方に向く。
「所でグイド、あなた今何時間くらいログインしてるの?」
「七時間だが?」
と何でも無いようにグイドは答える。
俺は、どことなく凄い連続してログインしてるなと感心してしまう。
すると、半ばあきれたようにドーラがグイドに言う。
「はぁぁ。貴方それサービス始まってから一度もログアウトしてないじゃない。」
「うえぇ!?」
その言葉に驚いたのは何を隠そう俺だった。
思わず変な声を上げつつ視線の右上に表示されている時計をみると時間は18時を少し過ぎた頃。
まさか連続して七時間もログインしているとは思わず、驚きを隠せなかった。
「俺、家のことするからまたあとでログインするよ!じゃあ!」
そう言って俺はログアウトをしていくのだった。




