カフェ
カフェは林に寄りかかりながら田を眺めるように建っていた。
真新しい金属製の扉は光を吸い込むマット仕上げのブラックで、重い印象をゆき美に与えた。仕事を終えたあとに行く、友達にも家族にも秘密のジャズバーについていそうだ。
アキもそう感じたのか軽く開いた扉に奇妙な顔をした。
店内には先客が3組いたが、ロフトの四人席が空いていたのですぐに案内してもらえた。案内してくれたのは二十代後半から三十ほどに見える女性だった。
「写真で分かってたけど、実物もやっぱりお洒落ね」
「周りの風景と合わないんじゃないかって思ってたけど、うまく溶け込めているみたいだね。頼んだ人のセンスがいいのか建築家のセンスがいいのか。どちらにせよいい建物だよ」
外観は想定通りのモダンなデザインだが、内観は想定外に落ち着いているように見えた。
使い込まれた風合いの木が柱や床板、テーブルに使用されていて古民家にいるような気さえする。感嘆の溜息が口から出た。
「さっきの人、ここの店長かな?」
「ただのスタッフじゃねぇの。厨房でなんか作っている音がする。こういう個人経営の喫茶はだいたい料理人がオーナーだろ」
「だれの店かは些細なことです。問題は味と量ですよ」
「写真では伝わらないモノもあるんですよ」
辺りに漂う美味しそうな香りをすぅぅうーっと胸いっぱいに吸い込んで一拍おき、情感の籠もった吐息をゆっくりと出した。
「ああ…これは期待せざるをえません…」
既にアイスのほかおはぎも食べていたけど、この分だとまだまだ食べそう。
店先のボードに書かれた価格帯から予想した支払金額にゆき美は頭を抱えたくなった。
カード使えるかな…。