パピコ
駅を出た4人は、ゆき美の案内で観釈迦堂にまず向かうことにした。地図を見るかぎりカフェは観釈迦堂の近くにあるようだったので、店主に聞けばカフェの場所も教えてもらえるかもしれない。
「狭い田舎だし、こんなオシャレなものが出来たらすぐに噂が広まると思うわ」
「たしかに、目立ちそうだね」
ヒデがあたりを見渡しつつ相槌をうった。
「基本的に田んぼと家だもんなー」
田んぼに巡らされた網と、そこにぶら下げられてキラキラ光るCDを物珍しそうにアキが眺める。
「その観釈迦堂って昨日言ってた怪談に出てきてたよな?駄菓子屋だっけ?」
「そうよ。昔ながらの地域密着の駄菓子屋さん。遠足の時とかみんなそこで買ってたわ」
「500円分?俺守んなかったなー。800円分くらい持ってってた。多いほうがみんなで楽しめるしさ」
「100円くらいおばちゃんがおまけしてくれたから、私も守ってなかった」
「バスのなかで飲み食い禁止って言われてたけどみんなこっそり食べてたりね」
「先輩たちがそんなだから、あたしの世代では先生たちが購入も配布も一括管理してました」
ちょい悪話で盛り上がっていると渚ちゃんがむくれてしまった。どうやら私達の世代でやらかしてしまったが故に、渚ちゃんの世代は窮屈な思いをしたらしい。食べ物の恨みは恐ろしい、特に渚ちゃんにとっては。
「ええっと、そう。たしかパピコを買って分けたんだっけ。そこで」
微妙になってしまった雰囲気を何とかしようと、ヒデが話を神社について戻した。
神社の話はもう正直勘弁してほしいが、遠足のお菓子からも離れたい。ゆき美は大人しくヒデの話に乗ることにした。
「うん。4個買って7人で分けたの」
「で、一本余ったのは店のおばちゃんに、か」
「そのパピコ、事件の後に確認した?」
「確認したわ。鳥居の横に食べたのが7本、ビニールに入れてた。おばちゃんのところにも一本。これは食べられてない」
ヒデが荷物の中からメモとペンを取り出した。ミステリー小説を読むときに使っていると言っていたやつだ。
「今のところ、"消えた男の子"の存在を示しているのはパピコだけなんだっけ。戸籍とかも残ってない?写真は?」
ヒデがメモを取りながら聞いてきた。
「ない、と思うわ。だってあったら皆大騒ぎしてる筈だもの。神社でのことは子どもたちの戯言だと思われてるみたい」
「親も覚えてないんだろ?でも兄貴は覚えてるんだっけか」
「うん。"居た"ことは覚えてるって」
あっ、
と声を出して渚ちゃんが立ち止まった。
「噂の駄菓子屋さんです!」
渦中の店を見つけてなのか、カフェに近づいたからなのか、目を煌めかせ声もわずかに上ずらせて渚ちゃんが「観釈迦堂」の看板を示した。可愛い。
そして今までの大人しさは何だったんだろうと思うほどの素早さで駆け寄り、
「すいませーん!!!パピコくださーい!!!!!!!」
躊躇いも遠慮もなく扉をピシャンッと開けて開口一番大声でパピコを要求した。