⑧ひとつめの願い
が、眠ってしばらくしてから、私は息苦しくなって、目を開けた。幼馴染の彼の部屋、時計を見れば12時を少し過ぎたころだ。
そんな真夜中。
「…っ」
なんでこんな煙たいんだろう。あいつの体の間をすり抜け、扉のノブに飛びつき、キッチンに向かう。
(あ、熱いっ……これって、火事!?)
火が、赤くキッチンの真ん中で広がっており、倒れていたのはあいつのお母さん。体は触ってみると氷のように冷たくて、おそらく持病の低血糖症が悪化したからだと気づく。
……どうしよう
火はガスコンロからでていた。スイッチを切ろうとしても、猫の身長じゃ届かないし、すでにスイッチは火の中にあって触れられない。
まずはおばさんを助けないと……口で彼女のエプロンの肩部分を咥えて引っ張る、が動かない。やはり私は猫なのだ。
「わ、どうしたんだ!?これ」
そのとき、キッチンに入ってくる、誰かの声。あいつのお父さんだ。
にゃー!!!!しゃーー!!!
こっちに注意を向けると、すぐにおじさんは状況を察して、おばさんを助けにきた。
「おい、まりっ、大丈夫か!!!!」
それから火を消そうとする、でも、火はますます勢いを増していた。炎はおじさんすらも飲み込んでしまいそうな大きさになっており、私はただ、2人が炎に飲まれていくのをみるしかなかった。
そのとき、ふと1つだけ、可能性が頭を過ぎった。
(願い事……!)
WISH!
お願い、ここは大事な人の家…だから、火を消して頂戴…
――
『あっという間に、1つ目の願い事を使っちゃいましたね』
実際…願い事はすぐに叶ったのだった。水道のねじが緩んでいて、それが偶然開いて水が漏れ、火はガスコンロの回りだけで収まった。その後、不安になって通信をしたところ、天使はあきれた様な声を漏らす。
『願い事は2つしか、かなえられないんですよ?1つをいとも簡単に使ってしまうなんて』
「いいじゃんか、だってあいつの家燃えてほしくなかったし」
『まぁ、いいんですけど…』
天使は口調を変えて、静かに、私に語りかけるように言った。
『これはあくまでも、あなたの願い事を叶えてほしいのです。あなたは本当に優しすぎる』
やさし、すぎる?
『自分のためじゃなくても、人のために何かをなしえてしまうような、そんな人だから』
……違うよ、そんな。
自分をそんな風にやさしいひとだなんて、言わないで。ううん、言えない。
私は……
「私は、そんないい人じゃない!!!」
私の声に、天使は黙り込んだ。気まずくなって、仕方ないからこうはき捨てる。
「じゃあ、また連絡するから」
それから強引に通信を切った。
きまずさは3日目にも抜けず、私は連絡をしなかった。天使も連絡をあえてよこさなかった。
そして---4日目の夜に、私が天使と連絡をとるまでに、私は気づかされるのだ。
自分のできることへの限界と、死んだ人がどう思い出になっていくということを。
願い事はあと1個。でも、私はもう…帰りたいーー何もない白い世界に帰りたくなっていた。