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Fluff Stuff  作者: むあ
8/15

⑦吾輩は猫




「ほんとシロって、あいつの猫だよな」





 夕食、またも幼馴染の家でシーチキンをほおばる。横にはなんと、大好きなピーマン。

 ご丁寧に甘味噌までかけられてて…なんていうぜいたくっ。


 私はこの生活に満足感を感じはじめていた。

 幼馴染のそばに、たとえ姿は違えど、いることができる。私の体はすでに死んでしまっている今、私にとってこれはベストな立場なのだ。



 ……ちなみにさっき声を発したのはあいつだ

 シロが本当に私の猫って……何言ってんだろう。私の猫は猫、それは当たり前なのに。


「そうね、シロちゃんは本当、飼い主さんに似てかわいいわね」


 ピーマンをほおばろうとしていたときに突然お腹から抱きかかえられて、思わずじたばた動く。


「ほんと、好きなものを食べようとしてるときに邪魔されると、小さい時はあの子も同じことをしたわね」


 あいつのお母さんは私を良く知っている。お風呂にいれてもらったこともあるし、時には自分のお母さん以上に近い存在だった。好きなものを目の前にすると、他のものは目に入らない性格を、彼女は良く知っているみたい。


「ごめんね、シロちゃん」


 地面におろされ、ようやくピーマンにありつく。

 う、うまぁぁい!!


「ほんと、これは完全にあいつだな」


 笑っている幼馴染を見て、私は少し安堵した。






 昨日のことがあったから

 昨日のあの、落ち込む表情があったから

 もう、好きとは伝えられないけど、好きな人に悲しい表情させたくないから



「よし、じゃあ風呂入る」

「シロちゃんもなんか、汚れてるわね」

「じゃ、俺が一緒に風呂入れるよ」





 ……WHAT?



 ま、待て待て待て。

 なんですとっ?


 い、いやいやいやいやいやいや。

 む、無理でしょ。


 お風呂は大好きだよ?むしろ今日は草むらに寝転がったから本当に入りたいよ?だけど、ね、猫だけどさ、一応、私は私だしっ。



「なんで逃げるんだよ……ほら、つーかまえた」

「ふぎゃー!!!!」

「こ、こいつ。よし、これでオッケー」

「……」


 ぶにゃー



 といいつつも、結局私はあいつに首根っこをつかまれ、そのまま風呂場に連行された…



 猫って、辛い。






―――




 風呂の浴槽の中で、猫ながら、猫かきをしてあいつの肩につかまる。猫は本当に水がだめらしい。

 私自身は風呂が大好きなのに、でも、生理的に、水に嫌悪感を感じてしまったときはショックだった。


 やはり我輩は猫なのである。


「猫かきうまいな、シロ」

 にゃー


 これでも私は水泳部だったからね。

 って、猫だし関係ないか!


 それにしても、と私はあいつの肩をみて思う……広い肩……だなぁ。

 小さいころは私のほうが肩幅がひろかったりして、コンプレックスだったりしたけど。やっぱこいつは男で、私は女だったから、高校に入ったころ、身長も何もかも抜かされた。


 そのときからだっけ、本当にこいつを「男」として意識したのは。


「シロって小さいよな」


 肩につかまっていたはずなのに、すぐにはがされ、胸元に抱きかかえられる。ちょ、ちょっとこれは…猫だけど、わかってるけど、恥ずかしい。


「あいつも…小さかったな」


 ふたたび、彼の表情が曇る。――私のこと、また、思い出してるの?


「水泳部でエースだったわりには、体とかも小さかったし、水泳の中で身長での不利有利は少ないけど、それでも大変そうだったっけ。シロは、うーん、あいつの水泳してるの見たことあったか?」


 ……にゃー


 本人だから見てます。こんな風に泳ぐのです。


 私が小さな猫の手足をばたばたさせて、生前の私のバタフライの泳ぎ方をまねると、少し不思議そうな顔をしたあとに、彼は噴出す。


「そうそう、シロよく知ってんな。あいつのバタフライって結構ユニークだったよな」


 そして彼は言った。


「シロって、ほんと、あいつそっくりだな。まるであいつが猫にでもなったみたいにさ」



 にゃぁ…


「……シロ?」


 ……気づいてよ。


 気づかれてはいけないという理性とは裏腹に、存在する私の意識。気づいてほしいという、衝動。でも所詮今は、白い猫、しかも私のペットの姿。だからきっと、気づかない。


 私は風呂からあがるとすぐに、あいつよりも先に部屋に駆け上がっていた。



 天使と約束していた定期連絡をするためだ。左の手の肉球でなんとか首輪に触れると、首輪から声が聞こえるようになった。でも、多分この声は私にしか聞こえていないのかな。


『現世はどうですか?』


 ……天使の声!


 にゃー、にゃにゃ、にゃー、にゃ

『えっと、ちょっとしゃべれるようにさせてあげますね』


 ……しばらくして

『どうぞ』

「…はぁっ、しゃべれるようになるとすっきりするわぁ」


 私は今だけ特例的に、猫の姿でもしゃべられるようになったようだ。


「本当、いろいろ精神的に辛いわ…」

『ごもっともです。あなた様の想い人もあなた様をおもっていたというのに…本当に申し訳ないことをしました』

「…そういうことはもう知ってるのね」

『一応天の上から見守っていますので』


 ってことは、私の今日1日の行動を逐一話す必要はないってことか。納得してうんうんとうなずいていると、息を潜めたような口調で天使は続けて言った。


『くれぐれも、猫らしくふるまってくださいね』


 わかってるって。


『願い事はまだ使ってらっしゃらないようですが、願い事をかなえたくなったら「WISH」とだけつぶやいてくださいね』


 それはたしか、天国で説明を聞いたときに言ってたじゃん。


『それから…』


 再びいろんなルールを話し始めようとした天使をなんとか落ち着かせ、私は通信連絡を終える。



 にゃー


 あれ?


 さっきまで出せていた自分の声は、もう出なかった。だから通信を終えると同時に入ってきたあいつに近づいて鳴いても。あいつは所詮、猫が甘えてきているとしか、おもわない。


「よしよし」


 一緒のベッドで、今日も寝かせてくれるらしい。







 まぁ、いっか。


 猫の姿だけれど、それでも、私は安らかに眠った。





 今晩はここまで。むあは妹に勉強を教えていたため、大幅に推敲時間を減らされてしまったので、早々に寝ております。続きが気になる方、ぜひお気に入り登録等、お待ちしておりますね。


 霧明(MUA)


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