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Fluff Stuff  作者: むあ
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⑥悲しい真実




 ―――【どうして気づいてくれないの?】




 気づけばここは、夢の中だった。私は、幼馴染のあいつと話している。

 どうして気づかないの、と私が再度聞いた。なんのこと?と返される。


 私は今でも、近くにいるのに、とひとりでに声がでた。彼は驚いたように、その意味を考えていた。


 何を言っているのだろう、私

 夢だよ、ここは

 これも私が見ている幻想の彼なのに






………………


…………


……








 翌朝、私はシロとして、幼馴染の家の、わりと見慣れた家で朝ごはんをいただいていた。こいつの家には猫はいないから、キャットフードではなく、缶詰のシーチキンだった。


 う…うまっ!!!!まじうまっ!!!

 …こほん。おいしかった。


 だけど物足りなくて、彼のウインナーを横取りした――だって私の大好物だもんねっ!


「シロ、おまえもあいつみたいにウインナー好きなんだな」

 にゃー


 ウインナーを平らげて私は学校に向かう彼を玄関で見送った。

 そうして次に足が向かうはあの場所。







 ―――自分の、死んだ場所







 にゃー


 猫らしく、少し丸くなって空を見上げた――晴れてしまって、もう解けた雪。

 そして水気をたくさん含んだこの川原の草の上に寝転がると、少しぬれた。気分はよいものではないけれど、仕方がない。


 私は死ぬ瞬間の感覚を思い返していた。



 冷たくなる体

 死ぬんだと、冷静に納得できていた私


 でも、想いが、私の中で消化しきれずにいたのも事実で。




 そして今、私はなんの因果か。自分のペットだった猫になって、この場所に丸くなっている。石に付いた決して少ないとは言えない血をみて、改めて私はここで頭を打って死んだのだと悟らされるのだ。

 悔しかった、そして、なんて人間はもろく壊れやすいのかを知った。想いだけだ、体がなくなっても残ってしまうのは――でも、その言葉(おもい)は、決して愛する者達には届かない。





 ―――動物に転生し、思いを果たす。

 そんな言葉が頭のなかに浮かんだとき、ふと私は神社の伝説を思い出させた。

 私の小さな白い手足は、ひとりでにあの日の神社の境内に向かっていた。







(はぁ、疲れた)


 猫は人間の倍以上階段を昇る為の力が必要だとさとりつつ、なんとか登る最上段。

 雪の振っていない石段のてっぺんから見た景色は少しだけ違うものに見える。




 なんでだろう、静寂に包まれ妙に落ち着く


 にゃー


 声を発しても出るのは猫の鳴き声。シロも、何か言いたかったときあったのかな?私が今、言いたいことがあるように。それでも、猫と人間は言葉を交わせなかったから、何もいえなかったのかな?ふと哲学的な、人間や動物の関係について考察する。


 ……ばかばかしくなってやめた



 境内は静かだった。雪がない以外は、物質的にはほぼ何も変化はない。でも、私の心境の変化…正しくは体の変化のせいか、神社の建物やものはすべて巨大化して見える。独りで一生を過ごした巫女様がいた場所にしては、大きいんじゃないかな…とふと思った。



(そうね)


 ふと、私の耳に響く声。



 私は驚き、思わず尻尾を持ち上げ、毛を逆立てた。


「そうかもしれないわね」








 幻覚を、見ているのか。

 でも彼女はそこにいた――猫の姿の私の前ですらりと立ち尽くし、頬に浮かぶかすかな笑い皺。


 彼女は、私が天国から現世に戻る直前に見た少女。そして私は、彼女が誰だか薄々検討はついている。

 烏摩さまだ。ここに祀られている巫女様。


「えぇ、そう」


 私が心の中で考えていることが読めるようで、彼女は私の目の前にしゃがみこんで、その瞳の中に私の白い体を捕らえる。



「あなたは、かわいそうね」

 にゃー


 第一声にそういわれると、さすがにカチンとくる。私が不機嫌でいると、彼女は声をあげて笑った。

 私の体を抱き上げ首の下をなでると、私の体はやはり猫だから、ごろごろと喉を鳴らして喜んでしまう。もう、猫って調子いいんだから。


「でも、あなたはうらやましい。白い猫として転生できるなんて」


 転生?ただ自分のペットになっただけだけど…と考えた私を一瞥してから、少女は遠い、どこかを見つめていた。何かあったんだろうと、すぐに悟った。


 きっと、彼女が思っていることはきっと、私が今抱えているような想いと同じ種類だと思う。

 少女はしばらく何も言わずに、お堂の前まで私を抱きかかえて行き、そこで石の段に腰掛けた。


「かつて、ここの階段は、木でできてたのよ」

 遠い昔をおもいだすように、呟く彼女は、空を見上げた。




 もう日は、西に傾き始めていた。私たちは、一体何時間ここにいるのだろう。


「私はね、こんなお堂で祭られるような、そんな立派な人間では決してなかった」


 どういう、意味?


「私は…本当の意味で狂ってしまった。自分の想いに正直になって、そのせいで…」


 一生純潔でいなければならない巫女としての道を踏み外したの、と彼女は続けた。つまり、彼女には愛する人がいた、っていう意味で。私はただ当然のように、羨ましいと思ってしまった。


「うらやましくなんか、ぜんぜんないのよ」


 なんで?


「…だって、私たちの恋は結局、彼を殺してしまったんだから」


 殺して、しまった?――なぜ恋が、人を殺すんだろう。


「それはね、彼が……いいえ、また今度会ったとき、お話しましょう」


 何かを言おうとしてやめた少女は突然立ち上がった。そして風が巻き起こり、思わず目を閉じてしまった私が目を再び開けたときには……




 黒い羽を1枚だけ残し、彼女はどこかに去っていってしまっていた。




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