④生まれ変わりの話
―――これは、とある話
ある人は、無念の死を遂げた。しかしその死は間違いだったという。
そのとき神はその人間にこう告げた。
死をなかったことにし、時間を巻き戻すには膨大な力が必要であり、その糧となるのが、善を尽くすことである、と。そしてその人間を動物として現世に戻し、彼は数年の時を経て、善事を続け、人間としての命を取り戻したのであった。
「というのはあくまでも話です。実際は、死を取りやめることはほぼ99%不可能です」
天使の言葉に、私は本当に落ち込んでいた。
―――ほんとに、もう、私として生き返られないの…?
「しかしながら、今回は私たちの不手際。不祥事はけっしてそのままにはしません」
「じゃあ、どうするのよ」
「ひとまず神様に、話を通してみます。あなたが人間として早く転生できるように」
で、でも…それじゃあ、別人になってうまれなきゃいけないってことじゃん!!
「そんなっ、私は私としてちゃんと生きたいのに…」
じわり、涙で視界がゆがむ。
ただ純粋に悔しかった。
私は、たった16年の人生を生きて(でも本来はもっと寿命があって)――そしてただこのまま生まれ変われっていうのはひどすぎるよ。
「それはできないんです、だからこそ……例外的に、貴女を現世に、制限時間つきで戻そうと言う神様のお情けなわけなんです、やっぱり、やめますか?」
「行く」
「すごい即決ですね」
天使が苦笑するけれど、そんなのかまってられない。
「何がなんでも行く」
動物になったとしても、何の形であっても。私は家族のもとに、親友のもとに、そして大好きだった幼馴染のもとにもう1回行かなきゃならないんだから……
「だって私……」
彼らに言いたいことが、たくさん残っているから……
――その後は早かった
天使(いまだに性別不明)は、私に注意事項をたくさん説明した。
①まずは動物らしく振舞うこと
②1日1回は天使と通信連絡をとること
他にも時間の概念のことや、行動範囲のこと、猶予時間についてなどたくさんたくさん――覚えきれなくなりそうになっていたら、天使は静かにこう言った。
「できることは限られます。しかしあなたには願いが2つだけかなえられる権利をさずけましょう」
「願いをかなえる…?」
もらったのは小さな首輪だった。
「今からこれをあなたの動物になった姿につけ、現世に行って下さい。これが天界と連絡を取る手段でもあり、そしてあなたの願いを叶える存在になったり、お守りだと思ってくださいね」
天使がそう言い終わるころには、私の視界はいままでよりもっと低い位置にあった。あ、もしかしてもう、私動物の姿になったってことなのかな。
「かわいらしい姿ですね」
自分には見えないから何もいえないけれど、きっとでっかくて獰猛な動物ではないみたい。良かった――これなら皆に近づいても怪しまれないよね、?
「では、つらいこともあるかもしれませんが、少しの間だけ、現世での時間をお楽しみください」
私は白い世界から突然ぽっかりあいた穴に吸い込まれていった。
急激な落下に私が目を閉じかけたその瞬間、思わぬ姿に、私はその目を大きく見開いていた。
【一瞬近くに見えたのは、1人の黒い長髪を靡かせた少女の泣き顔だった】
赤く、悲しく光るその瞳。その瞳の中には、困惑、そして悲しみ、そして愛しさが見て取れた。一体どうしてそんな表情をしているのか、私には分かりようがなかった。あっという間に遠ざかってしまっていた。
【私は、落ちていく】
どんどん、速度は上がって、私はそのまま落ちていく。