②静寂を切り裂いたブレーキは……
家に鞄と制服だけ投げすてて、家を飛び出した私の背後に、シロがついてきていた。私の足跡と、シロの足跡が、再び本格的に振り出した雪の上でしっかりと残っている。
橋を渡って階段を駆け上がれば、そこには昨日と同じ――ううん、それ以上の景色が広がっていた。
「きれいだね、シロ」
にゃー
シロを胸に抱きかかえながら、私は境内の石の台のようなものに座った。その近くにあった木の札を見ると、この神社の祭られているものが説明されているみたいだ。
「えっと…」
―――祭られている巫女「烏摩」について
ここは昔、この辺りでもっとも美しい存在とされた巫女の社でありました。
大変美しく、多くのものがその姿を見ようと社にやってきたといいます。
しかしながら彼女は神職の身、巫女でしたので、ずっと独り、この社で過ごしたとされています。
彼女は、一生の間に、何千何万という人々の病気を治し、大災害を次々と予言しました。
また彼女は動物と会話ができ、動物たちの心や想いを、多くの動物、人へ伝えました。
彼女は愛するものに対して言葉を告げられなかった動物たちを、数多く、心安らかに死後の世界へ旅立たせたのです。彼女の死後ここは聖地とされ、彼女の功績をたたえ、彼女は神の1人としてこの神社に祭られています。
「動物と会話ができた少女……か」
ふとシロを見た。
にゃーぉ?
不思議そうに私を見つめるシロに、私はなんでもないと言い、そのまま雪の上に座り込んだ。いつのまにか、日は今にも沈もうとしていた。さっきまでまだ太陽が空の上にあったというのに。腕時計はもうすぐ6時半。あっという間にいなくなった夕陽に、慌てて立ち上がる。
「帰ろっか」
私はそういって、神社をあとにした。
それはうす暗くなった、帰り道のこと。
私は雪の中で、シロと歩いていた。その静寂を切り裂いた、車のブレーキ音。
「……え……?」
それが、スリップした車の。
私たちのほうに向かってくる音だなんて。
「あっ…」
ドスンという鈍い音共に私はそのまま、右の腕のほうに衝撃を感じ
体が宙を舞うような感覚がして
道路のすぐ横の橋の下に…雪まみれになりながら川原に転落した
すぐに続く、頭に衝撃
そして、生暖かい感覚と、冷たくなる身体。鈍い痛みが耐えきれなくなるほど頭を押しつぶしていく。インフルエンザにかかった時よりも酷く重たい頭痛に、私は死の予感を感じとっていた。
――あぁ、私……
―――私、死ぬんだ……
そのとき思いうかんだのは
いつも笑いかけてくれていたお母さんや
いざってとき頼りになるおにいちゃん、
やさしいお父さんや
にくたらしいけど大好きな妹、
そしてずっと仲良しの親友に…
―――最後に、まだ想いを伝えられていなかった
―――幼馴染の彼の顔