⑨生まれ変わるということ
4日目。
出来事は、今日の昼間。今日、午前中授業で学校を終えたあいつと親友が一緒にランチに行くとか。
……私はシロとして、ついていった。
2人は私の話をたくさんした。私はここにいるのに、ぜんぜん話に入れないのは、もちろん猫だから。でも、悔しい気持ちには、ならなかった。
そしてその時、親友の表情を見て分かったーーというか、昔から、知っていた。
親友も私も、同じ相手を好きだったってこと。2人ともお互いなんとなく気づいていたから、どちらかがいなくなるまで、何かをしようとは思ってなかった。
でも今
私はすでに、死んでしまった
お通夜は今週末に開かれ、その次の日、私の体は燃えて消えるんだ。親友は悲しい表情をしたまま、あいつの肩に体を預け、寄り添っていた。きっと、もうすぐ。彼女は彼へ、想いを伝えるだろう。
そして彼も、私の想いは知ることもなく、彼女と、私を過去にして進んでいくんだろう。
親友なのに、っていうような、悔しい気持ちはなかった。ただ。
あぁ、これが時の流れなのだと思っていた
。現世にシロとして戻って2日ちょっと経って、私はすでに、自分が思い出になっていくのを実感することになった。
5日目、
6日目と過ぎていく。
私は6日目にしてとうとう、自分の体を本当に失った。私の部屋の机の上にある小さな箱は……
私だ。
にゃー…
本当に、なくなってしまったんだ。
幼馴染の家から、自宅に帰ってきていた私は落ち込んだままのお母さんのそばにいつもいて、猫ながらもできることを、一生懸命やった。だけど、彼女の心を本当に落ち着かせることができたのは……
私ではなく、生きている人間……
妹は、私の死で心を痛めているお母さんに寄り添い、話をする。こんなに大人だっけ?と思うくらい、冷静で、おとなしく、そして静かに語る妹。お互い悪口ばっかり言い合っていたのに、今では彼女の中に美化された自分がいる。
お父さんもお母さんを支えていた。仕事から帰ってきて、泣きだす彼女の肩をだき、お兄ちゃんと一緒に私の昔話をする。ここでもやっぱり、私はもういないのだ。
過去、なのだ
死、なのだ
こうして……
私は現世にきて7日目、再び神社の境内にいた。
「来たのね」
そういう烏摩は、私の思いが分かるのか。
「過去になるって、悲しいことよね」
彼女は、かつて経験した悲しい結末を、私に話してくれた。
――昔の昔のこと、巫女として働いていた烏摩は、1人の男に恋をした。
しかしそれは許されない恋だった。彼もまた、許されない想いを、烏摩に抱いた。
しかし彼女は、純潔でいなければならないーーというのに彼女は、1度だけ、彼とその気持ちを共有してしまう。
2人は愛し合っていた。でも、それを人々は許さない。
「巫女様は、男に襲われた」
そうでっちあげられた噂は地域全体に広がり、その襲った男を排除しようという活動が起こる。巫女であるのに、恋をしてしまったことーーそれは巫女にとって、決して否定できることのない真実だった。
男もそれを知っていた。だからこそ、2人が会った最期の日。
男は命を絶たれ、死に際、次の世で巫女でない彼女と再びめぐり合うことを強く望んだのだった。
「私は、巫女であっても、純潔ではなくなった」
巫女としてではなく、愛するものを失った悲しみで暴走した彼女は、村人に災いを起こし、巫女は、阿修羅神となる。
「だから、私はその後、烏に転生することになった」
真っ黒で、みなに忌み嫌われる存在になり、死ねばまた烏として生まれる。その輪廻は今も変わらず回り続けているそうだ。
私は烏摩が、普段はカラスの姿であることをそこで知った、そして烏摩はなんの因果か、転生しても記憶を持ったままなのだそうだ。
彼女が言うには、それは、彼女への罰だという。そんな罰、ひどすぎる……
たとえ、巫女であったとして、その掟を破ったとしても、転生しても、記憶はあったまま。人間に生まれ変わることを許されず、ただ忌み嫌われる生き物として生き続ける定めだなんて。
そうおもった私だったけど、烏摩はそれを否定した。
【掟は掟、破ったものには罰がくだる】と。
私は7日目、命というもの、掟というもの、そして転生というものの意味を考えさせられることになった。
「あなたは、いつまでここにいるのかしら」
さぁ、いつまでいるんだろう。
「貴女は私と違い、人間に、転生できることを祈っているわ」
彼女はそう言って立ち上がった。
ーー烏摩とは、それっきり会わないだろう……うん、きっと彼女はもう2度と現れない。私ももう、彼女とは会わないのだろう。
「じゃあ、元気でね」
にゃ~
別れ際に、直感でそう感じていた。