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由無し一家  作者: しめ村
20/43

時給MP-10(推定)の家庭教師(臨時)

 願ってもないチャンス到来である!


 とりあえず晩ご飯の支度をするにあたって、水瓶の残量だけでは料理と後片付け用の水が足りなくなりそうだという理由でもって、私は桶を提げて外に出た。

 この時期はいつも雪を水瓶に詰めて室温で少しずつ水に変えていくのだが、今はそんな余裕ないので、小川まで水を汲みに行くという建前でいつもの小川まで足を伸ばす。

 小川はまだ岸沿いに凍っていて、水を得るには水の中まで踏み込まなければならない。それが面倒なので、この作業のために新調した木彫りのスコップで氷をべりべり剥がして、桶に放り込んでいく。あ、まだ足跡や落下物の痕跡のないきれいな根雪の塊発見。表面削いで、内側の雪を桶に投入。

 力の練習がてら、桶の中身を温めて融かして水をゲットするつもりだ。このために料理時には雑用役に回る敬清を押しのけ、私が水汲みを買って出た。

 今日はお兄さんがさりげなく荷物持ちに名乗りを挙げてくれたからね。いちいち桶を持って外と往復するのは骨だろうということで、中身を鍋に空けた水瓶を丸ごと担いでついて来てくれた。あの水瓶、ウルリカの腰までくらいある分厚い陶器なんだけどね。それを惚れ惚れするような安定感で担ぎ上げてよろめきもせず雪をかいて歩くのだ。イズリアルさんの言じゃないけど、この父子の身体能力はどうなっているんだろう。


「すまなかった。俺の言ったことが余計な心労を与えているのではないか」

 あっという間に桶をいっぱいにしたところで、斜め上から意外な言葉が滑り落ちてきた。

 おんぶ紐……じゃなかった、水瓶を背負うための縄を水瓶にセットして(さすがに水が入った水瓶を縦に担いで運ぶのは面倒らしい)雪の上に置いたお兄さんが、斜め左からこちらを見下ろしている。

 顎を深く引いて急な角度で首を曲げているせいで、灰色のおどろ髪が顔に濃い影を作っていて、薄い色の目が光源のようにくっきりと浮かび上がって見える。平静な顔つきと平板な声色で、内心は窺い知れないものの、労わってくれているのは間違いないようだ。『消えてなくなる』について言ってるんだろうと思われる。

「父からも言われたが、説明が足りなかったという自覚はある」

「そんなことはありません。恐らくお兄さんは事実しか言っていません。お兄さんが、私に、力は無暗に使うと私が危険だと警告しました。おじいさんにどういうことか訊ねたら、塗り替わるか消えるからと言われました。力の使い方に失敗するとか、魔物になるとか、そういうことを言おうとしたのですね?」

 ちなみに、珍しくおじいさんが補足をしてくれたと思ったら『おまえは幼く意志薄弱ゆえその警告は妥当だ』と、しばらく落ち込むような内容でございました。

 ではどうすれば危険なく『力』を使ってもよくなりますか? と尋ねたら『確固たれ』とのお答え。ええと、精神修養しろって思ってていいかな?

「他にも危険は考えられる。動植物と同調しすぎると、意図せずして変身するだとか、対象の動植物と精神が入れ替わって傍目には気が狂って見えるだとかな。そのつもりがあってするなら然るべき手順で解除すればいいだけだから何ら問題はないが、誤作動でそういった変化をしてしまうと元に戻るのは難しい。精神と記憶が徐々にその生き物に適した状態になるまで擦り切れていって、人であったことすら忘れてしまうからな」

 う、うおおお。

 お兄さんに、脅かそうというつもりはないんだろう。淡々と、変わらない表情で言われるから怖いだけで。

「そ、それが魔物になるということですか?」

「今話したのは力の失敗と暴走の結果考えられる可能性についてだ。よく間違えられるが、歪みに負けての魔物化とは異なる」

「あ、そうか。ええと、例えばトゥトゥと話している時に、トゥトゥとチャンネルを合わせすぎると……私とトゥトゥの境界がはっきりしなくなるということですよね。ああ、それでトゥトゥと私が混ざったり入れ替わったりするのですね。わかりました!」

 おじいさんが言った確固たれってのもこのことだな。そうかそうか。

「ちゃんねるというものが、形状や気配などの目に見えない在り方を表すものであるなら、そうだ」

「はい、そんな感じです」

 説明が面倒だったので、キリッとした顔で頷いて、そういうことにする。


「人間が魔物化すると、肉体が元の名残を留めぬまでに変貌する。精神については、一切の理性を失うものもあるが、かつての知性と記憶を留めた者も多い。それでいて本能は邪悪になるから性質が悪い」

 それは……敵に回したら厄介そうだ。

「魔法……じゃなかった、力は、どのくらい使ったら、魔物になりますか」

「ケイセイの今の練習量くらいならば、問題ないだろう。歪みの人体への影響は、人の体力を上回るくらい過剰に蓄積されて初めて起こる。逆に言えば、そうでなければさっきケイセイが言ったように行使者の体力で相殺できるし、疲労は休めば回復する。おまえもそうだったはずだ」

 確かにそうだ。練習しようとしてどっと疲れても、普通の疲労と一緒で、一晩よく眠れば普通に元気になった。たまに一晩じゃ疲れが抜けきらない時があっても、二晩でなんとかなっていた。

「じゃあ、大きな事をしなければ、大丈夫なのですね。敬清は、自分で使った力のせいで魔物になったりは、しないですね?」

「ああ」

 よかった。保証が完全なものじゃなくても、少しは気がかりが減った気がする。


 そこで私はふと、寓話集に頻出した、人間に似ていながら人間ではない姿をした種族のことを思い出した。

「イズリアルさんがくれた本に、毛なし猿とは外見が似ている妖霊人という種のことが書いてありました。魔物の一種……亜種? 変種? ……と、書いてありました。その人々とは別ですか?」

 どこそこの山や谷を根城に集団で暮らしていて、迷い込んだ旅人を取って食うとか、妖術で惑わせてしまうとか、戦いで勝利した人間が戦利品として角や毛皮や羽を剥いで奪って家宝にしたとか、そんなエピソードが大半だった。例外的に友好的な邂逅が一つ二つあったというくらいで、人間と彼らの関係は良好とはとてもいえない。

 おさらいをする気持ちで尋ねた内容だったそれは、お兄さんを渋面にした。眉根が寄り、目元から鼻にかけて皺が寄れば、この人の場合十分渋い顔と言えるだろう。

 この人、ウルリカと敬清相手ならよく笑うのに、私にはにこりともしないんだよなあ。微笑みと言えるものさえ、数えるほどしか記憶にない。出会ったばっかりの頃の方が、まだしも愛想がよかった気がする。やっぱり、私に同種の力があるとわかって、警戒されているんだろう。

「妖霊人たちは人間からは魔物と同一視されることがままあるが、魔物とは無関係だ。それだけは覚えておけ。彼らは人間との交流を嫌って人気のない秘境で暮らしている。もちろんこの辺境の森にも彼らの村がいくつもある。彼らは他の管理人の縄張りに入ってくることなどないしこちらから踏み込むこともないから機会があるかどうかわからんが、彼らの前でそんなことを言うな。彼らもまた人だ」

「……それは、聞くまでもなく、どうなるかわかるですね」

「彼らは人間に狩られた歴史があるし、人間の多くは彼らを下等な存在と見做しているからな。少なくとも、森の外部から彼らの縄張りに入り込んだ無断の侵入者がそうした素振りを見せれば、たいていは彼らの権限で処断されることになる。口出しをする権利は領主とてない。事によっては戦になる」

「ひいっ」

 そ、そうだよね。本に書いてあること全部が本当のことじゃないよね。

 お兄さんの言った妖霊人たちは、自然界の動植物の身体的特徴を人間に切り貼りしたような外見と、その動植物が自然環境下で備えている能力を併せ持つ、人間に準ずる知的生命的な扱いで書かれていた。こっちの世界式今昔物語集でも、なんか角とか羽とか牙とかあるその外見から、しばしば魔物と同一視され、毛なし猿の勢力と争いになることがたくさんあったそうだ。

 天地開闢の後、自然に親しみそれに則した在り様に変わっていった的な伝説レベルの一節が序盤にちらっとあったくらいで、現在世界中に溢れている動植物は彼らが生み出し分化させていったとされている。発祥は人間より古いことになる。

 しかしながら、今の会話で本の中身を丸ごと信じるのは危険だと思い知ったので、ガセとまでは言わないがほどほどに覚えておいた方がよさそうだ。

「まれに、人間社会に出てきて生活している者もいるが」

 そうした者は非常に変わり者か、やむを得ない事情を抱えた少数派なんだそうな。うん、まあ、そうだろうね。

 お兄さんの言葉は、そうした少数派の知人でもいるかのような口ぶりだった。


「そうだ、お兄さん。私は力の使い方を練習するために、この桶の氷と雪を温めて水にします。それを水瓶に入れます」

 私はしゃがみ込んだまま、桶の縁を叩いた。

「練習します。見張ってください」

「指導か」

 私の言い間違いを大真面目に言い直し、お兄さんは桶を挟んだ向かいにヤンキー座りをした。うわ、似合うわーこういう柄の悪いポーズ。体がやたらでかいので私の体はお兄さんの陰にすっぽり入ってしまった。私が背を丸めてるとはいえ私の肩と同じ高さにお兄さんの膝がある。

「おまえなら、まずどうする?」

 シベリアンハスキーみたいな感情の読み取りにくい薄青の瞳がこちらを見下ろす。試すような挑発的な色さえない。単純に私のやり方を確認しようとしているのだろう。

「空気と、温めたい物質をじっと見て、あったかくなれと念じます」

「それから?」

「何度もあったかくなれと念じます」

「それだけか」

「……そうです」

 居た堪れなくなって目を伏せる。自分がすごく間違ったことをしている気になる。

「それは要領が悪い。一度で成果を挙げねば消耗の方が大きいだろう。それなら川に踏み込んで桶で水を汲む方がはるかに効率がいい」

 ごもっともです。でも一度で明らかな結果を出せるほど効果が挙がらないんだもん。一度念じたくらいじゃ氷も雪も溶けてくれない。季節柄か、冷やすより温める方が難しいのだ。だから立て続けにあったかくなれ思念をぶつけて波状攻撃で効果を蓄積させていく感じで融かすのだ。それくらいしか思いつけないんだい。

「頭の中で氷が溶けて水が湯に変わる様子を思い描いて、それを桶の中身に当てはめてみろ。現実を変容させるすべは、全てこのやり方で通る」

 お兄さんは言うべきことは言った、と言わんばかりに口を閉ざす。さあやれ、ということらしい。


 私は桶の中で冷たいきらめきを放つ雪と氷の結晶をじっと見る。頭の中で、片手鍋に放り込んだ雪が火にかけられ形を失って崩れていく様を思い浮かべる。桶の中身に変化はない。

 もどかしさに、眉毛が八の字になっているのが自分でもわかる。

 呆れの溜息とともに見かねたような声が私のつむじに降ってくる。

「ただ睨んでいてもどうにもならん。この桶の中身をどういう状態にしたいのか、しっかり思い描いたか?」

 私は返事が出来なかった。言葉を発すると研ぎ澄ませた集中がぶっちぎれる。辛うじて、顎を引いて小さく頷く仕草をしてみせた。

「それを現実の光景に重ねる。重ねたら挿げ替える」

 私の視界の中で、桶の中の氷と雪が、金属製の片手鍋の水になった。あたたかく。あっためる。もっとあつく。溶けた雪はすっかり色を失って、無色透明の水に。頭の中で片手鍋を熱し続けると程なく水面がぽこぽこと泡立ち始め、やがてぐつぐつと弾け波打ち、煮え滾る。

 ここだ!

 ぶれていた視界に叩きつけるように脳内イメージを重ね合わせると、焦点を結んで一つになる。

 ここに結構力が要るな。正気に返ると同時にたちまち分離しそうになる二つの視界を無理やり一つになるよう押し付け重ね合わせ、元の状態に戻ろうとする現実の抵抗を抑え込み、こっちの要求を押し付ける。ええい、融けろ、お前は鍋の中の湯だ、熱いんだよ!

 唐突に、じゅわっと猛烈な音と蒸気を噴き上げて、桶の中身が沸騰した。氷と雪が私のごり押しに屈し、そうか自分は湯だったんだと思い違いをし、その状態を変えたのだ。


「……お、おおーっ」

 ぷしゅう、と空気の抜けていくちゃりんこのタイヤさながらに我が身から何かが漏れ出していくのと、かわりに侵食してくる脱力感を覚えながら、私は感動の雄叫びを上げた。いささか元気なく聞こえるのは若干ぼーぜんとしているからだ。

 でも、今まで試した時々と比べればなんてことのない疲労感だった。やっぱり相当無駄な力の使い方をしていたんだな。

 ただちょっと温めすぎた。溶けるを通り越して熱湯である。桶の中に新たに雪を投入して埋め立てよう。

「力技じゃないか」

 できたと喜ぶ私の静かな感動に水をさすように言ったお兄さんは、完全に呆れ返っている。もっとスマートにできるだろうと言わんばかりだ。

「歪みはしっかり自分で受け止めろ。あらぬ方向へ流れ出しているぞ」

「ふえ? あ、ああっ、申し訳ございません!」

 桶の中に注がれた力の流れと変化した桶の中身との隙間がねじれて、ねじれた雑巾から零れ落ちた泥水みたいなものが歪みだ。見えないけどはっきり感じ取ることができた。

 隙間から滲み出てきた歪みはそのまま真下には滴り落ちず、風に吹き寄せられる砂のように素直に北へ向かって流れていこうとするのを、お兄さんが私の代わりに絡め取って自分の中に引き寄せたのも。眉間に皺が寄ったのは、視覚でも捉えられた。

「だだだ、大丈夫ですか、お兄さん! けつまくってぬぐうなどなんという申し訳なし! さぞやきっとお疲れでしょう!」

「まず落ち着け。言っている意味がわからん」

 そうだ、落ち着こう。尻拭いをしてもらうなど申し訳ないと言いたかったのに、とんずらこくみたいになっている。

「この程度、大した負担にはならん。力の行使は、歪みの処理が済むまでが一巡だ。そこまで気を抜くな」

 遠足は帰るまでが遠足みたいな?

「はい」

「それと、現実の変容の瞬間の挿げ替えは、もっと滑らかに、滑り込ませるように入れ替えろ。おまえのやり方では無駄に力が要るし時間もかかる。空間の軋む音が聞こえてくるほどだった。あんな強引なやり方、森の外のモグリ魔術師でもやらんぞ」

 ええー……自分的にはここ一番の大成功だったんだけどな。この寸評は、かなりこき下ろされてるよね?


 湯に雪を投入して嵩を増し水瓶に移すと、もう一度桶の中身を融かした。

 さっきよりはスムーズにできたけど、やっぱりぶれる視界を同じ枠の中に押し込めようとするかのごとく力づくになったし、温度の微調節が難しくて、また一気に熱湯に変わってしまった。そしてまたもや、漏れ出る歪みを自分の内に留められずに、お兄さんに後処理をしてもらった。

「申し訳ございません、申し訳ございません」

 雪の上で土下座したのは、本当に申し訳ないと思ってもいるが、みじめで顔を上げられないからという理由もある。

「落ち着け。それから平伏をやめろ」

 お兄さんは苦々しい声で私を諌めた。付け加えるように怪訝そうに呟く。

「人並みの想像力があればできるはずなんだが……」

 それはつまり、私に人並みの想像力もないと仰るか?


 あまりにもみじめなので、もう一回だけ、やってみることにした。

 三度目の正直というやつがあるかもしれない。これでも駄目だったら、残りは普通に小川の水汲んで水瓶を満たそう。

 桶に雪を詰め込もうとした私を、お兄さんが桶を取り上げて止めた。

「もう普通に水を汲め。明らかにおまえは動揺している。先程と同等の成果を挙げるのも難しいだろう。失敗するのが関の山だ」

 そ、そうかなあ。

「一度目より二度目、二度目より今の方が肩に力が入っている。湯を作るだけならばできるだろうが、勢い余って桶を焼くなり壊すなりしては言い繕えんぞ」

 うっ。

「おまえが力を持っていることはもうイズリアルも疑っていないが、力の程度に関してはまだだ。それがこんな初歩的な練習で暴走するような不安定なものとわかれば、即座にカクリ……森の外に連れて行かれてよくて訓練漬け、悪くて軟禁の上飼殺しだ」

 ひいい! 嫌だ! 嫌だよう!

「お、お兄しゃんっ、イズリアルさんには……」

 なんか焦って舌が縺れたが、構ってられるか。私はお代官様に慈悲を乞う追い詰められた町民みたいに跪いたまま拝み、頭を下げ、縋った。

「とにかく落ち着け。拝むな。平伏するな。安心しろ、俺が黙っていて誤魔化せるうちは言わない。だが猶予を過ぎれば庇いだてできないぞ」



 私がもう十歳小さい子ならしくしく泣いていたかもしれない心境で、空っぽの桶を提げて家に帰ると、玄関先で敬清が待っていた。

「おかえり。何かあった? 水汲みにしちゃ遅かったがな」

 弟は心配と不審をありありと顔に乗っけている。

 しまったな。思っていたより時間をくってしまったか。

「お兄ちゃんにわからんことを訊いてみた。教えてくれたけど、理解できなんだ」

「なん、それ」

「魔法の負荷で魔物化した人間がどうなるかについて、俺が知っていることを話した。今まで何度か戦ったことがあったのでな。おまえが魔法を使いすぎて魔物にならないかと心配していた。姉弟でよく話し合ってはどうだ」

 日本語での会話だったにも拘らず、水で満杯の水瓶を背負ったお兄さんがさらっと尤もらしいことを言いながら、虚を衝かれた顔で口を噤んだ敬清の横をすたすたと通り過ぎる。表情に何の変化も出ない所が憎らしい。

「ああ、そうだ」

 お兄さんは足を止め、斜めに振り返って敬清を見下ろした。

「ケイセイ、妖霊人(ルシュクル)について聞いたことはあるか?」

「ルシュ……? いいえ、聞きません」

「……どうやら、オルソンどのはお前の指導に際して、基礎部分を大分省略されているようだとわかった。イズリアルと父に話しておくから、これからは剣と魔法の訓練だけではなく、勉強もするようにな」

 お兄さんは溜息をついて、一足先に家の中に入っていった。なんか、この30分くらいで姉弟揃ってすっかり呆れられてしまったなあ。

 勉強という言葉にちょっと怯んだ弟は、再度私を見る。出迎えた時より気まずそうなのは気のせいじゃないだろう。次の言葉が出てこないという感じだ。

 私も、突然話し合えと言われてすんなり出てくる話題なんて用意してない。

「他にわかったことちゅうたら、私ゃ想像力もセンスも皆無らしいってこっちゃな。どーせ美術は1じゃったけんな」

 おどけてお茶を濁す私の日本語での自重気味な悪態に、弟は何かを察したのか突っ込んではこなかった。

 ゲーム知識というテンプレートに基づいて自分の力をうまく整理している敬清は、想像力とやらが力を使うための重要な役割を果たすものであることを知っているんだろう。

 もちろん、私に絵心がないこともよーっく知っている。

 私が、私の『魔法』について悩んでいるとも、知ってしまったに違いない。

「……もうちょい、考えさせてもらえっかな。時間くれる?」

「……ん」

 うまくウルリカとイズリアルさんに知られないように、敬清との知識のすり合わせをできるように、何をどこまで話して、共有していいのかを考えておこう。


 私の名誉のために言い訳させていただくが、美術と一口に言っても、その学期のメインが工作とか版画作りだった時とかはむしろ好成績だった。苦手なのは絵画だけなんだからね!

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