4 とりあえず、飯を食いたいby茶髪青年
前話まで(改)がついてますが、サブタイに番号をふっただけですのでよろしくお願いします。
文章は、誤字脱字以外変えておりません^^
ハルは大きく頷いて、私の肩のあたりを見る。
「精霊が懐いていますし、何より私達と言葉が通じています。それはこの世界に受け入れられたという事。本当に巻き込まれて、こちらに来てしまっただけのようです」
「え、同じ言葉話してるんじゃないの?」
私の疑問に気付いたのか、ハルは幾分表情を和らげた。
「この世界には、多くはありませんが異世界の人が少なからずいます。それは偶然開いてしまった道を通ってこちらに来た人、また意図をもって呼び出された人、あなたの様に事故によって来てしまった人、それぞれの理由ですが一つだけ共通していることがあります」
「……それが、言葉?」
「えぇ、そうです。この世界の神は異世界の人に寛容です。今現在私達を守ってくださっている神は、元は異世界の存在だったと言われています。神はこの世界に降り立った際言葉の面で辛い思いをされたようで、この世界に害を持たない異世界の人は神の祝福により言葉に関しては最初から話せるようになると言われています」
思わず眉間に皺が寄る。
そんな便利な事、どうやって実行してるわけ?
「該当する相互の言葉に自動的に変換されて、聞こえるそうです。その代り、相手の常識にない言葉はエラーとして通じないようですが……」
「……だから、最初から話せたんだ」
そうです、とハルが頷く。
「これが例えばこの世界の何かを害する目的で召喚した人になると、一から言葉を学ばなければなりません」
「……そこまでいい神様なら、そんな人の召喚を弾き飛ばせばいいじゃない」
意図しない私の召喚を、邪魔してくれれば……
「神は人の営みに、直接かかわることはしません。ほんの少し手を貸してくれるだけです」
柔らかい笑みと私を通して何かを崇めるような眼差しに、少し解れはじめていた思考に言いようのない苦しさが戻ってくる。
ハルは神の存在を信じていて、その祝福を素直に素晴らしいものとして信じてる。
けれどこの神さまの事を都合がいいと思えてしまう私は、やはりここの世界の人間ではないのだと実感できる。
神さまが異世界から来たから?
その時に言葉が通じなくて苦労したから?
だから、言葉を最初から話せるようにしてくれる?
なにそれ。
祝福に、感謝しろって?
……でもさ。
言葉が通じるから安堵する反面、もしかしたら地球上のどこかかもしれないという期待を一瞬だけ抱かせてそしてどん底に落とされる気持ちがするのは、私がひねくれてるからなのかな。
まぁ、言葉が通じなかったら凄く辛いし苦しいけど。
神さまの存在が、本当なのだとしたら。
願いたいのは、言葉なんかじゃなくて、ただ一つだ。
言葉が通じるようになる、そんな事よりも。
ここに意図的以外に来てしまった人達が願うのは、言葉が通じる事じゃない。
その願いが叶うのか聞いてみたいと思いつつ躊躇している私を置いてけぼりに、ハルは話を進めていた。
「それにあなたは共に来た精霊に好かれている。そのことでも、今現在、私達に刃を向ける気はないということが証明されます」
今、現在でいえば。
ふと耳に入ってきた言葉に、瞬きを深くする。
それは。
――先の事は分からないけれど。……っていう、こと。
信じられているわけじゃない、精霊の存在がそれを信じさせているだけ。
精霊がいなくなったら、私は――
ぎゅっと再び両手に力が入ったその瞬間。
「……え、わっ?!」
ふわりと体が浮き上がった。
そして体に触れる体温。
驚いて顔を上げれば、すぐ真上に茶髪青年の顔。
「腹減ったって言ってんだろ。俺のこと無視してんじゃねーよ」
「だからって抱き上げなくてもいいよね」
呆れたようなハルの言葉に、自分の置かれた状況を把握する。
この部屋に来た時と同じ、茶髪青年に抱き上げられていた。
「ちょっと、おっ降ろしてっ。自分で立てるから!」
こいつ、絶対人おちょくって楽しんでる!
茶髪青年はニヤリと口端を上げると、私を見下ろした。
「子供抱き上げたって何とも思わねーよ。口は達者で生意気だけど」
その腕から降りようと体をよじった私をいっそう抱え込むように両腕に力を込めた茶髪青年のその言葉に、思わず動きを止めた。
……は? 子供?
「子供って誰よ」
「一人しかいないだろー」
一人?
「ハルのこと?」
茶髪青年は顔を横に向けて吹き出すと、ハルも驚いたようにソファから立ち上がった。
「確かにまだ十九歳ですけど、俺は子供じゃないですよ! 成人してますし」
「十九歳で成人してるなら、私も成人してるんだけど」
なんとなく、覚えのあるやり取り。
欧米人に比べて幼くみられる日本人の中でも、私はもっと幼く見られてた。
その所為で、「あなたが店長?」みたいによく言われてたし。
だから、欧米人に体格の似ているこの二人からすれば子供に見えるんだろうけど……!
「成人してるって、いやお前、なにも見栄はらなくても」
ほんの少し驚いたように目を見開いた茶髪青年を、下から睨み上げた。
「ここの暦が日本と同じかわからないけど、三百六十五日計算でいいなら私は二十三歳」
「うっそ」
口をあんぐりあけた茶髪青年は、やっぱり驚いたような表情のハルと共に私をじっと見つめやがりました。
これがあれですか。
異世界トリップものにおける「子供だと思ってたのに実は大人?!」な、日本人を見た光景。
私は小さくため息をついた。