1 逆さのままは辛いので、さっさとおろしてください切実に。
異世界に飛びました(笑
ねぇねぇ皆さん、一つ聞いていい?
ほこりくさーいバックヤードで脚立から落ちたら、目の前に銀髪の男……って言っても私より年下かな……がいるとかさ、この状況誰か説明してくれる?
しかも銀髪で長髪。
着てる物はずるずるの服。
その隣にいるもう一人はね、本能が拒否しない見てくれしてくれてるんだけど見てくれだけで。
この人、かなり面倒くさい人だと直感が告げてくるんだよね。
でも、濃い茶色の髪に同じような土色の瞳は、目の前に立つ銀髪紫目の人よりかなり親近感がわく。
なぜこの二人の見てくれが、反対じゃないんだ!
は、置いといて。
どう考えても、ここ日本じゃないよね……。
テレポーテーショーンだっけ?
突如超能力者になって、ヨーロッパのどこかに瞬間移動したとか?
でも、目の前で浮いてるのに、そこに驚かないこの二人とかどうなわけ……?
……パニックに陥って、反対に冷静になっている自分がいる。
なんか、微妙に落ち込む……。
目の前の銀髪少年は、信じられないものを視たような顔で私をガン見してるし。
茶髪青年は、確実に面倒くさいと思ってるだろうこの野郎!
暫くそんな感じでお互い観察していたけれど、私は恐る恐る口を開いた。
「とりあえず……逆さのままは辛いので、さっさとおろしてください切実に」
内容は、全く恐れてませんけどね。
私の言葉に驚いたように、銀髪少年がびくりと飛び上がった。
驚いて飛び上がる。
体現してくれてありがとう、とりあえず降ろしてください。
そう、私は脚立から落ちた格好のまま、頭を床に向けてずっと浮かんでいるのですよ!
頭に血が上る!
「あっ、あのっ! 俺、魔術師のハルっていいま……っ」
「いや、自己紹介より先に下してやれよ。なんでお前がテンパるんだ」
そう言いながら、仕方ない面倒くさいという表情を貼り付けたまま私の側に来た茶髪青年は、その両腕を私の下で広げた。
どうやら受け止めてくれるらしい。
「そしてあんたはもう少しテンパれ。なんであんたの方が冷静なんだ」
……なんでいきなり怒られなきゃいけないんだ。
「……驚きすぎて、逆に冷静になったというか。言葉通じるから、とりあえずOKかなとか」
「……それでOKとか思えるあんたを、俺はどう受け止めればいいんだろうな。精神的に」
そんなの私の知ったことじゃない。
ハルと名乗った銀髪少年は茶髪青年の声に一層慌て始めて、杖を取り落してもっと怒られてる。
何だこの子、ドジっ子か。
この状況で、どうやって私にテンパれというのだろう。
一緒にいる人が焦れば焦るほど、冷静になるよね。
「あ、じゃ……あのすみません。降ろしますので」
「はい、よろしくお願いします」
「……馬鹿な会話」
茶髪青年は、とりあえず私の重さに呻けばいいと思う。
ハルが杖をカツンと床に打ち鳴らすと、呼応した様に床に描かれていたらしい線描が銀色に光った。
けれどそれは一瞬で、次の瞬間、私の体は重力に従って茶髪青年の腕の中。
がしりと支えられた肩とひざ裏に当たる人の手の感触に、思わず体が強張る。
「……」
なんていうか、とりあえず女子高上がりをなめるなよ!
口は達者かもしれないけれど、男の人とのスキンシップはあまり慣れてないんだ!
けれどそれを茶髪青年に気付かれたくなかった私は、何でもないような表情を保ちながらその腕から降りようとした。
ら。
「……」
「……」
なんだろう、この寒気。
「あんたさ。冷静な振りして、今かなり照れてんだろ」
……この人は、初対面の人にこういう事言うわけか?
本音言い当てられて頭に来たのもあるけれど、はっきり言ったら脊髄反射で即答してました。
「あははその顔に?」
「……あんた、目、腐ってんじゃないの? 」
「うっわ、自意識過剰」
「あんたに言われたくないね」
ぐぬぬ……とにらみ合い始めた私達を止めたのは、ハルだった。
「とりあえず、そのまま隣の部屋に行こうよ。ここじゃ話も出来ないし」
「……」
……ごめん、存在忘れてた。




