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だから、なに?  作者: 篠宮 楓
地球という名の星の日本という国です
5/22

5 やっぱ睡眠は大事だよね

再び長いです。

お時間のある時にお読み頂ければ嬉しいです^^

「……ねっむ」

ぼそっと一言つぶやいて、私は車から降りた。



昨日はあれから0時過ぎまで仕事をしていたけれど、先を見越した三宅さんからお怒りのメールが入って諦めた。

まぁ、さすがに深夜帯に残ってるのもある意味恐いし、ホント言えば会社的にも禁止はされてるんだよね。

されてたって、仕事が終わらなきゃどーにかしたいと思うのが人情だと思うけど。

慌ててごみやらを片づけて、書類仕事を持って自宅に戻った。


ワンルームの部屋は、はっきり言って物がない。

こっちに来てから揃えようと思った家電も、そんな時間が無くていまだに文明の機器というものが存在してない。

あるのは唯一のコンポくらいか。

冷蔵庫はアパートの目の前のコンビニが、その代り。


そしてさっさとシャワーを浴びて寝てしまえばいいんだけど、今日中に間に合わなかった明日のシフト表や売上未達成レポート等に少しでも手をつけなきゃいけない。

そう思った私が馬鹿だった。

ついつい気がのって……、気付いたら明け方の四時。

あと一時間もすれば起きる時間なんだけどどうしようかね。


考えた結果。





「マジ眠い」

貫徹と相成ったわけです。





眠気覚ましを飲んできたとはいえ、あれ、慣れちゃうんだよね。

まだ少し効いてるけど、多分すぐに眠気が来る。

そうならない様に、とにかく仕事をして……


そうぶつぶつ言いながら店の裏口を開けると。

「……わっほい」

間抜けな声が出た。

そびえたつ、段ボールの山。

その中、さながら抜け道の様な小道が一本。

昨日の比じゃないボール数に、思わず眩暈がした。


眉間を指先で軽くもんで、溜息をつく。

道理で昨日の配送、0時過ぎても来なかったわけだ。

荷物が多いと、どうしても時間食うからね。


かにさん歩きで小道を進みつつ、私達も大変だけどこれ一人で積み上げるトラックの運転手さんも大変だよな……そんな事をぼんやりと考える。

ある意味、完全に現実逃避。

やっとのこと休憩室にたどり着くと、私は早々にシフトを壁に貼って鞄をロッカーに突っ込んで、エプロンを身につけた。


現実逃避しても、あの荷物はなくなんないからね。

溜息にも似た息を深く吐き出すと、気持ちを入れ替える。

私の頭の中には昔からスイッチがあるようで、意識してスイッチをオンにするイメージをするだけで私の意識は入れ替えられる。

何時からだったかわからないけれど、いつの間にか出来るようになってた。


「……私は、自分で、居場所を作るんだから……」


思わずそうつぶやくと、カッターを持って荷物の山へと向かって行った。







とにかくパートさん達が来るまでに、もう少し小道を広げておいてあげないと危ないよね……。

いつもなら手前から切り崩していくのだけれど、せめて道幅を広めようと小道の傍から重点的に攻めていく。

ちびっこの私には高すぎる荷物の山を切り崩すのは、結構大変。

自分の身長以上の脚立を使って、上の方から少しずつ降ろして行かないと危ない。


「運転手さん、いい人だよなー」

一度会ったことのある運転手さんは私のちびっこ身長を覚えていてくれたのか、上の方には比較的小さくて軽いものをのせてくれる。

当たり前と言ってはそうなんだけど、小さいものだけまとめて大きい荷物をきっちり積み上げる人もいるからありがたいことこの上ない。

幾つか大き目の段ボールを降ろして、その上に小さいダンボールを降ろしていく。


その時、ポケットの中でスマホが音を立てた。

「……? こんな朝早く、誰から……」

一瞬実家からかなという考えを着信音で否定して、画面を覗くと。

「……三宅さんってば」

三宅さんからだった。

彼女は今日お休みの予定なんだけど。




メールには画像が添付されていて、そこには大きいケーキが写っていた。



宛先:店長

件名 三時のおやつ!

本文 三時のおやつに持って行きますよ! 待っててくださいね!

   きっともう店にいるんでしょうから、無理しちゃダメですよ!




旦那さんと一緒にケーキに向って手を広げる三宅さん。

三宅さんの旦那さんは、ケーキ屋さんをやっていて。

いわゆる、パティシエさん。


思わず涙が出そうになる。


少し震える指先で、ありがとうとメールを返信した。



優しさが嬉しい。

自分に向けられるその手が、本当に嬉しい。



自分の居場所の為に、私は頑張るんだから。



遅くまで仕事をするのだって徹夜だって、辛い事は辛い。

それでも私を受け入れてくれる皆の為に、頑張りたい。

偽善だろうかごますりだろうが、仕事の鬼と言われ様がそれが私の真実なんだから。



「っしゃ、元気出た!」


気合を入れ直して、腕で涙を拭う。

両手は段ボールを触っているから、真っ黒に変わっていて。

本当は軍手をしなきゃいけないんだけど、手の小さな私には配布される軍手だと中で手が泳いでしまう。

それならばと手が荒れるのも構わず、素手でやってるんだけど。


こーいうとき、やっぱ不便だよね。


もう一度腕で顔を拭うと、まだまだある荷物の山を見上げた。


「……あれ?」


荷物の山の、向こう。

壁に作りつけられている棚の一番上に、段ボールの角が見える。

段ボールの山より低い位置だけど、真下からはその全貌が見えない。

私は一度脚立から降りて反対側の壁際まで行って見上げると、その側面に書いてあるのは児童服のメーカー。

見覚えのあるその名前に、私は大きな声を出して手を叩いた。


「昨日の七万二千円!」


入荷予定帳簿とあわなかった金額のメーカー名に、私は駆け寄るように脚立に戻った。

きっと何かの拍子に棚の上に転がっちゃったのね。

内心納得しながら脚立を上って、近くにある荷物を降ろしていく。

棚の奥にあるから、頑張らないと手が届かないかな……。



なんとか指先が届くくらい荷物をどかして、手前の荷物に手をついて体を伸ばす。


「……も、少し……」

全部荷物を降ろしてからよりは、取りやすい……はず……っ。

少し後悔しつつ、もう少しだからと言ってのばしたその指先が段ボールの角に引っかかった。

「やった」

後はそれを引き寄せるだけ……


「……?」


指先が、唐突に段ボールから逸れた。

疑問に思うよりも先に、本能が状況を察した。

重力に従って体が傾いでいくその瞬間、私はとっさに近くにあった段ボールに手を伸ばす。

それを掴んだと思った瞬間、当たり前だけど積み上がっていた段ボールは崩れ落ち。


「……っ」


息を飲んで強張った体が脚立から離れるのを、スローモーションで見ていた。

そして上から落ちてくる段ボールを。



高さ的に落ちても痛く無いけど、段ボールに埋もれたら……


とっさに頭を抱え込んでぎゅっと目を瞑る。

脳裏に浮かぶのは、ここに来てすぐに書いた始末書。

こんなんで怪我したとか、ばれたら始末書もんだ……!

時間外労働、脚立使用の際は二人以上、あぁ、あと幾つ違反項目が……









「……何してんのお前」






けれど、体に感じる衝撃はいつになってもやってくることなく。

聞こえてきたのは、荷物が床に落ちる音でもなく。





「いや、俺の所為じゃないだろ……。え、俺の所為?」





呆れた声と焦った声と。

聞き慣れない男性二人の声。


そして――




「は?」




脚立と荷物が散乱した場所に浮いている、私の間抜けな声だった。



これにて今月の更新はいったん終了します。

夏の納品を乗り越えたら、来月更新したいと思います^^

日にちを頂いてしまいますが、申し訳ございませんm--m

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