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だから、なに?  作者: 篠宮 楓
地球という名の星の日本という国です
4/22

4 閉店しました

長いです;;

お時間のある時に、お読み頂ければ嬉しいです^^

「店長、いつまで残ってるつもりですか」


そう声を掛けられて、びくりと肩を震わせた。

声のした方を見ると、紙袋を持った三宅さんの姿。

もうすでに帰宅したはずの、彼女。


「びっくりしたー。どうしたんです、三宅さん。もう帰ったんじゃ……」


閉店したのは、今からもう二時間近く前。

私は残りの商品の店出しを終えるべく、ひたっすらハンガーに商品をかけている最中なのですが。

三宅さんは荷物の隙間を通って、私の目の前にたどり着く。

そしておもむろに、紙袋を軽く持ち上げた。


「優しい私から、店長に差し入れー。ホントお疲れ様です」

勢いに押されるように紙袋を受け取れば、中にはハンバーガーとポテトと飲み物。

がっつりどこかのセットですね。

「店長お好きでしょ? 私にはこの時間だと、胃にもたれますけど」

「好きです! もたれはじめるまでは、がっつりいかせて頂きます!」

満面の笑みで頭を下げれば、三宅さんはちょいちょいと手のひらを振って私を呼ぶとそのまま休憩室に入っていく。

「これで帰ったら、店長ご飯食べながら仕事しそうですから。一緒に休憩しましょ」

「いや、さすがににおいついちゃうからしないよ」

油もの食べながらの衣料品扱うのは、さすがにまずい。

三宅さんは手慣れた風に電気ポットからマグカップにお湯を注ぐと、私が立っている向かい側のテーブルに置いた。

「書類仕事はできるでしょ。現に、店長ってば昼休憩の時に報告書書いてたりしますよね」

……ばれてら。

私は日本人の得意技、曖昧な笑顔を繰り出しながら椅子に腰を掛けた。

「ありがたいんですが、三宅さん、ご自宅大丈夫なんですか? 夕飯の支度とか……」

私の目の前に座った三宅さんが、マグカップを手に取りながらじとーっと私を見る。

「とっくに食べ終わってますし、主人に片づけは頼んできました。まー、主人からも見てこいって言われましたし」

「……重ね重ね申し訳ございません」


三宅さんのご主人にが仕事帰りに店の前を通って、中で作業してる私を見つけた事があって。

あの時は、三宅さん経由で怒られた。



そう、その時間は深夜一時だったのだ(笑



両親より少し下の年齢である三宅さん夫婦はご自身にも娘さんがいるからか、どうも子供に対する感覚になってしまうらしい。


もう一度謝ってから、ハンバーガーを取り出して食べ始める。

あまり感じてなかったけれど、体は正直だ。

一口食べ始めた途端、空腹が一気に最高潮に達したらしい。

お腹の虫が、盛大に鳴り響く。


「お腹の虫も、怒ってますよ。待たせすぎだって」

「あはははは……」


笑うしかない。


他愛もない会話をしながら、次々にポテトを口に運ぶ。

その時間は、とても温かくて。


「店長、親御さん心配してるでしょう? こんな遠い所に送り出すことになって」

「んぐ?」


口いっぱいにポテトを頬張っていた私は、きょとんとした視線を返す。

三宅さんはそんな私に笑いながら、ゆっくりゆっくりと手のひらを向けた。

それに頷いて口をもぐもぐさせると、飲み物で流し込んだ。


「うち、兄が一人いるんですけど」

「……?」

突然何の話だとでもいうように、三宅さんがぱちぱちと瞬きをする。

私は目尻を下げて、目を細める。

「凄く頭が良くて、勉強も出来て、めちゃくちゃ優等生なんです」

「凄いわね」

「はい、凄いんですよ。なので、まぁ心配してはくれてると思いますが、とりあえず兄が近くにいれば大丈夫かなって思ってます」


脳裏に浮かぶ、両親と兄の姿。

「個人塾を経営し始めて、やっと今軌道に乗ったらしくて。大変みたいですし」

兄の為に、建て替えられた実家。

私が応援で一か月間地方に出張している間に、いきなり決まっていた事後報告。

帰宅後に言われた時の驚きは、言い表すことが出来ないほどの衝撃だった。

見せられた図面を、食い入る様に見る。

言葉もなかった。



……あったはずの私の部屋は図面上から消え、そこは塾の一部となっていた。

申し訳程度の部屋を、建物の隅で見つける。

元、納戸の場所が畳を入れて私の部屋になる予定だと告げられた。


元々、兄が塾を経営したいと言っていたのは知っていたけれど。



――協力してくれるよね? 家族だもの。



さも当たり前のように両親に言われた言葉に、私は頷くしかなかった。






私の存在は、何なんだろうね。






「……店長?」

「あ」



思い出してしまった記憶に、つい捕まっていた。

黙ってしまった私を不思議そうに、三宅さんがこっちを見ている。

私は意図的に笑みを浮かべて、笑い声をあげた。


「ごめんなさい、ちょっとしたホームシック! そうそう、自慢の兄なんですよ」

「そうなのねー。お兄さんも頑張り屋さんで店長も頑張り屋さんで。ご両親は自慢でしょうね」

「そうならいいですけどね」


ニコリと笑って、立ち上がる。


「ホントありがとうございました。これで、もう少し頑張れそうです」

「まだやるんですか」

困ったように眉根を寄せる三宅さんに、肩を竦めてみせる。

「仕方ないですよ。でもあれですね、私が店長の間に、もう少し人員が使えるように売上あげますよ!」

「それは頼もしい。でも、あまり無理しないで下さいね」

「大丈夫ですよ。それに、結構口にすると出来ちゃったりするんですよね。頑張ります!」

早口になりかける口調を意図的に遅めて、三宅さんを送り出す。

手伝うと申し出てくれた三宅さんの好意を気持ちだけ頂いて、帰っていく彼女の車を見送った。



「……」



そのまま中に入って、施錠する。

もう少しすると配送トラックが来る。

早く、今日分の荷物片づけなきゃ。


シフトも書かなきゃ、報告書も手を付けないと……。


やらなきゃいけないことが頭の中を、ぐるぐる回る。

手一杯の自分に、もう一つ、やらなきゃいけないことが思い浮かんでため息をつく。

腕時計を見ると、すでに二十二時半。

兄の塾も、もうすぐ終わる。

ということは……




案の定、スマホがポケットの中で振動を始めた。


「……」


黙り込んだまま、スマホを取り出して画面を見る。


はは


はは……母親からの、電話。

取りたくないと思っても、そう言うわけにはいかない。

小さく息を吐いてから、ロックを解除した。


「はい」

『桐子?』


自分の声の後にすぐに名前を呼ばれて、そうだよ、と呟く。

そのまま壁に背を持たせて、母親の声を聞く。


『もう家に戻ってるの?』

「……うん、戻ってる」

『忙しかったでしょう』

「大丈夫だよ」

『疲れてるんじゃないの?』

「正月に比べたら、全然大丈夫」


定型文の様な、会話。

いつも交わす内容は、ほとんど変わらない。

心配させない様に、自分の本当の生活は伝えない。



『そう、それならいいんだけど。今日、おにーちゃんが……』


あぁ、始まってしまった。


毎日毎日、言う事が良く尽きないなって思う。

母親だけじゃない、父親からもかかってくる電話。

おざなりな私への労いもそこそこに、兄の話になってしまう。

それは愚痴だったり、兄への賛辞だったり。


一度疲れて嫌な声を出してしまったら、物凄く落ち込まれて悲しまれて。

それ以来、私は、黙って話を聞くことにした。

話している間は娘じゃなくて友達なんだって言われて、そっかて笑った。


兄に、言うことが出来ない両親。

あんなに頑張ってる兄に、余計な負担をかけたくないと殊勝な事を言う両親。



ねぇ。



……なら、私は?

次の更新は来月に入ってからと考えていますが、中途半端なのでこつこつ次話かけたら更新します(๑ÒωÓ๑)

はっきりせずにすみませんです

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