3 営業中です
今回、長いです><
お時間のある時にご覧いただければうれしいですm--m
「あわねぇ……どーやってもあわねぇよ、この七万二千円」
検収リストと入荷予定帳簿を交互に見ながら、シャーペンで机をたたく。
その小刻みな音さえもイライラさせるけれど、どこかで発散したいと指先が止まらない。
予定通り午前中に終わらせた検収にホッとしたのも束の間、金額が合わずにリストを見比べる。
検収している時点で大体の品物は頭に入ってるから、入荷予定に載っているかどうかをざっと見て行く。
「店長、口悪すぎ」
椅子にも座らず長机にリストを置いて確認していた私の後ろを、昼休憩から出てきた三宅さんが通り過ぎていく。
「だって合わないんですよ、なんでこんな大きい金額合わないわけ。三宅さんご飯食べ終わったの」
「金額相違と同じ感覚できかないで下さいよ。あとは店長だけですよ、早く食べないとお昼が夕飯になっちゃう。……あ、そうそう。お勧めの乾物屋さんのふりかけ。あれ美味しいですねぇ」
後ろに積んである段ボールの中を覗きながら、三宅さんがぽんっと手を叩いた。
私は頷きながら、でしょう? と笑う。
「声かけられて買ってみたんだけど、これがおいしくて。一袋四百円だけど、三袋一緒に買えば千円! お買い得~」
「近所なのに気付かなかった私も私ですけど、気付く店長も店長だと思う。お店の回し者ですか」
「あはは、販売職は天職です」
そう笑いながら壁に掛けてある時計を見れば、午後三時。
お腹は空いたけど、休憩に入ってる暇は……
その時、バックヤードの呼び出し音が短く鳴り響いた。
それは店長を呼び出すための、緊急用。
「うげ、何かあったかな」
いやーな感じとぶつぶつ言いながら、確認を終えた箇所に印をつけてリストを長机に放り投げる。
「ちょっと行ってくるから。三宅さん、店出し引き続きお願い」
振り返って軽く手を上げると、三宅さんは分かってるとでもいうようにひらひらと手を振りかえしてくれる。
それを目の端にとらえながら、バックヤードから出てカウンターへと向かう。
危なくない程度の駆け足で。
1.お客様からクレームがあったと思われる場合は、必ず誠意を見せましょう☆ by私ルール
のんびり歩いていたら、誠意は見せられん。
かといって他のお客さんにぶち当たったら困るから、そこはさじ加減☆
小走りで駆け込んだカウンターには、広げた服を前にパートさんとお客さんが私を待っていた。
2.お客様をお待たせしたことについて、最初に謝りましょう☆ by私ルール
「お待たせいたしまして、大変申し訳ございません。如何なさいましたでしょうか」
あとは、臨機応変!
気付かれない様に息を整えてから、軽く頭を下げて慇懃無礼にならない様に。
何か悩んでいる表情のお客さんと、困ったように私を見ているパートさん。
パートさんが状況を説明しようと口を開いたのを、お客さんが遮った。
「あなたが店長?」
……あー、よく言われるんだよね。
内心苦笑を浮かべながらも、表情に出すことなく頷く。
「はい、店長の八坂と申します。いつもご利用いただき、ありがとうございます」
他の人より一番若い人間が店長とか、本当は信用ならないよねぇ。
お客さんからしたら。
「何かございましたでしょうか」
パートさんに聞こうとしていた状況説明を、お客さんに促す。
人にもよるけれど、自分で説明したい人は意外と多い。
まぁ、何度も言わせるなって怒る人もいるけれど。
お客さんはぴらりとその品物を手に取ると、自分の体に当てた。
「これ、短すぎると思うのよ。同じ商品で、もっと丈の長いのないの?」
……丈の長いの……
お客さんが体に当てているもの。
それは、シャツワンピース。
うーん、でも確かにお客様がワンピースとして着るには短い。
細身のお客様だから、サイズ下で大きさはあっても身丈が合わないわけか……。
「そうですね、こちらはこのサイズですとどうしても丈は決まってきてしまうんですよね」
「でも私細いから、Lサイズだとぶかぶかになっちゃうのよ」
言いにくい事は、お客様に言わせる。これ鉄則。
ちなみにホントはスタイルの事は口にしちゃダメ。
でもそこは臨機応変。
お客様本人が口にしたら、雰囲気で大丈夫か考える。
このお客様は、多分大丈夫。
「私にしてみたら羨ましい限りですが、お洋服を選ぶときは困ってしまいますよね。私なんて身長に合わせたらSサイズですけど、体に合わせたらLサイズですよ」
少しお客さんの反応を窺う。
反応によって、マジメに対応するか少し雰囲気を和らげて対応するか判断するのだ。
「そうなの? そんな風には見えないけど」
少し目元が和らいだ!
よっし、これは笑わせ方向ね。
対応の仕方を決めた私は、にっこりと笑って肩を竦める。
「うちは、着やせに対してだけは能力を発揮する家系なんです」
「あらら、素敵な能力。私と反対なのね」
「ホント、お客様と足して二で割れたらいいです」
「出来る事ならそうしたいわね」
お客さんと笑いあう。
そのままパートさんに店内作業に戻るよう伝えて、お客さんの持ったままだったワンピースを手に売り場へと移動していく。
「例えばなんですが、他のワンピースでお気に召したものはございましたか?」
幾つかハンガーのまま取り出して、お客さまに見て頂く。
「あまりないのよ。だからこれがいいなって思って無理を言ってたんだけど……」
「そうですか……。お客様のご要望にお応えしたいのですが、どうしてもメーカーから入ってくるものを販売している私達としては、中々ご期待に沿えることが出来ずに、本当に申し訳ございません」
そう申し訳なさそうに伝えれば、頭を横に振って笑ってくれた。
「ごめんなさいね、こちらこそ無理言っちゃって。分かってはいたんだけど、どうしても諦めきれなくて」
「お客さまからのご要望として、本社に必ずお伝えいたしますので」
「そうね。こんな意見もあるって、そう知ってもらえれば嬉しいかな」
よし、とりあえずワンピースへのクレームは終了。これからが私の見せ場。
「それでですね、お客様。もしよろしければ、お時間を少し頂いてもよろしいですか?」
「え? 大丈夫だけど」
その答えに、ありがとうございますと頭を下げる。
そして普段どういった服装を着ているのか、どういったシチュエーションでこの服を着るつもりだったのかを軽くきいていく。
どうも休日の外出用だったらしい。
仕事用じゃないのであれば、やりようはある。
「では、少しお待ちいただけますか?」
そう言って集めてきたのは、シャツワンピースを羽織りものとしてコーディネートした場合の服。
ワンピースとしてみるとお客様には短いけれど、羽織りものとしてパンツとあわせれば、背の高さもあってカッコいい。
大き目ベルトでウェストをマークして、じゃらりとしたアクリルビーズのロングネックレスは大きさの割に軽くて結構人気。
「もし暑かったらベルト外してボタンを開けてればいいですし、使い回しがきくんです」
「いろいろ使いようがあるのねぇ」
「はい。中のコーデも、羽織物を変えるだけでオンオフ切り替えられるので、一着あると組み合わせることができて便利なんです」
あらお得、そう呟いてまじまじと服を見る。
「じゃぁ、せっかくだから頂こうかしら」
「あ、お気になさらないで下さい。お客様のご要望に沿えなかったので、例えばと思ってご紹介させて頂いただけですので」
「うん、でも気に入ったから。私の我儘に時間貰ってごめんなさいね」
そう言って笑うお客さんに、さっきまでの暗い雰囲気はない。
私は深々と頭を下げた。
「とんでもないことです。それどころか、とても嬉しいお言葉ありがとうございます」
「色々勉強になったわ」
コーディネート一式をレジに持っていって、丁寧に袋詰めする。
「私の方こそです、お客様。本当にありがとうございました」
袋を持ってお客様の真正面に立つ。
私の言葉に、渡した紙袋を持ったお客様は少し悪戯そうに微笑んだ。
「もっと勉強して、いろいろ教えてね。本当にありがとう」
「頑張ります! この度はご意見を頂き、ありがとうございました」
そして、斜め四十五度。
綺麗にお辞儀をして、お客様を送り出す。
駐車場からその姿が消えるのを確認して、ほっと息を吐き出した。
「お見事」
レジに入っていた角田さんが、小さくつぶやく。
それに目を細める事で応えて、バックヤードへ戻る。
そしてドアを開けた途端、
「あざとい店長! さすが店長! よっ、口八丁手八丁!」
三宅さんと、さっき対応していたパートさんの賛辞なんだか貶しなんだかに見舞われました。
「あざといとかうるさいよ、いいじゃん、お客様は気持ちよく帰ってくださったんだし」
さっきまで見ていたリストを手にしながら言えば、三宅さんがうんうんと頷く。
「お客さん、凄く嬉しそうだったですよ。あれだけごねてたのが嘘みたい」
「クレーム処理した上に元々の金額以上買わせるとか、店長あざとい」
「流れる様に営業トークが出てくるよね。さすがだよね」
「よっ、嘘で塗り固めた営業トーク!」
二人で楽しそうに言い合ってますが、私的に嬉しくない言葉ばかりですよ。
「ちょっと達成感に浸ってるんだから、嘘嘘言わないでよ。あんなに喜んでもらえて、本当に似合うと思う洋服を紹介させてもらえて、凄く嬉しかったよ」
だから、別に嘘じゃないってば。
でも、まー。
「人を貶めるものではない嘘は、必要悪でしょ」
正直に突き進むだけじゃ、障害だらけだよ。