12 笑顔は武器、ですよねー♪
「リアン隊長……?」
恐る恐るとばかりに口にしたであろう言葉が、訝しげに疑問に変わる。
廊下に出た所に数人いた男たちが、口をぱかりと開けて私を見上げていた。
ラグが着ているものと同じ藍に染め抜かれた詰襟のその制服……上衣丈は脛位まであって横に深くスリットが入ってる……は、きっと騎士の制服の一種なんだろう。
なぜなら、その中に一人だけ臙脂色の制服がいるから。
ハルくんより上のでもラグよりは下ぐらいだろうその人を見ていたら、固まっていた藍色制服の一人がおずおずと疑問を口にした。
「何をなさってるんですか、隊長。そちらの御嬢ちゃんは……」
「お……っ」
御嬢ちゃんだと!
二十三歳に向けて御嬢”ちゃん”だと!
「……ふっ」
鼻で笑う声にぎろりとラグを見れば、それ見た事かというような表情で見返されて腹が立つ。
そんな私達を見ていた一人が、ぽつりと呟いた。
「隊長……噂通りロリコンだったんだ……」
「……」
「……」
思わず口を噤んで、呟いた男に視線を向ける。
信じられないものを見るようなその表情に、私の膝を支えるラグの腕に力が入ったのを見逃さなかった。
「……ラグ、ロリコンなんだ」
「なっ」
追い打ちをかけるように言えば、弾かれたように顔をあげたラグににんまりと笑って見せる。
はい、立ち場逆転ー♪
どうやってラグをいたぶってやろうかと思った私は、いきなり叫びだした男達の言葉にその出鼻をくじかれた。
「隊長を名前呼び!! うぁぁぁ、隊長にとうとうお相手が!」
「独り身を貫いてるから、もしかして男色かロリコンじゃないかって噂だったけど!! ロリコンの方だったのか!!」
「この子が大きくなるのを待ってたけど、もう我慢できなくなったとか!!!」
「きっとシス長官殿にお許しを得に!!!!」
「……え?」
一人ひとり叫ぶごとに、なんか変な方向に話が進んでるんですが……?!
「お前ら黙れ! 誰がロリコンだ!」
「え、隊長?」
「ふざけんな!」
ラグはいくら言ってもどうしようもないと諦めたのか、まだぎゃあぎゃあ言ってる騎士さん達を置いて歩き出した。
遠のいていく声と、足音高く歩くラグ。
そこにさっきの臙脂くんが駆け寄ってくる。
「あのリアン隊長。シス長官よりこれを……」
そう言って差し出されたのは、細長い封筒。
「必要なものはここにしたためてあるとの、シス長官からの伝言です」
差し出されたそれをラグは空いている右手で受け取って、制服の上着の中へと仕舞い込むと小さく息を吐いた。
「キリ、ちょうどいいから紹介しておく。……キリ?」
キリ? キリ・クリーm……じゃなかった! 私か!
「はいはい、何ですか隊長!」
「だれが隊長だ、ど阿呆」
えー、隊長なんでしょー、この茶髪野郎。
ラグって呼ぶとまた何か囃し立てられそうだから、気を使ってやったのに失礼な。
ラグは臙脂くんに向かい合うように体を動かすと、少し落ち着いた声で私の名前を呼んだ。
「キリ。こっちは魔術師棟の警備を受け持っている、第三騎士団の副長でアロニア=セドアス。主にシス長官の警護を担当しているから、今後も会う機会が多いと思う。アロニア、説明は省くがこいつはキリ。シス長官の身内と同じ様なもんだから、これから世話になると思う。よろしく頼む」
……二十八歳に見えるよ、茶髪野郎!
「何、呆けてやがる」
ついラグの年齢相応の態度に心の中で賛辞を送っていたら、ぎろりと睨まれてしまった。
超短気だな、ラグ。
私は改めてセドアスさんに顔を向けると、頭を下げた。
「こんな体勢で、本当に申し訳ございません。キリと申します。色々とご迷惑をおかけするかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」
ナイス社会人挨拶の第一声。
笑顔でそう伝えると、セドアスさんは少し驚いたように瞬きをしてから、同じように頭を下げて笑みを浮かべた。
「アロニア=セドアスと申します。どうぞアロニアとお呼び下さい、姫君」
一瞬、空気が凍った。
「……は?」
「ぶっ」
私とラグが、同時に発声した。
どっちがどっちかはわかるよね!
「ちょ、姫君ってやめてくださいそれ!」
「姫だって、姫ちゃま!」
「煩いなっ」
笑いこけるラグの太ももを蹴り飛ばすと、さすがに痛かったのかラグが一瞬で黙りやがりました。
私は、こほん、と空気を変えるように咳払いをすると、セドアスさんに視線を戻す。
「セドアス様、姫君はおやめください。キリと呼び捨てにして頂ければ嬉しいのですが……」
シス長官の身内”のようなもの”な私に、その呼び名は……。
セドアスは困ったようにラグを見上げた後、分かりましたと頷いてくれた。
「ならば私の事も、セドアスではなくアロニアと呼び捨てでお願いできますか?」
呼び捨て、は無理でしょう。
セドアスさんが私を呼び捨てにするのと、訳が違う……と思う……んですが。
にこにこ笑うセドアスさんの顔は、全くぶれない。
一度視線を外してもう一度見ても、やっぱりぶれない。
「……アロニアさん、で。お願いします」
「分かりました、キリさん」
――言い負かされました。
可愛い顔のいい人~とか思ったけど、全く違かった。
やっぱ本とかで出てくるように、王宮なる場所に勤める人達は一癖も二癖もあるんだろうか。
「……」
笑いをこらえてても振動で分かるんだよ、茶髪野郎!!
「ぐ……!!!」
イエスッ、クリーンヒット太腿蹴り!!
「……キリさん」
困ったようにラグと私を見遣るアロニアさんに、満面の笑みを向ける。
「はい、何か?」
もう一度、痛みに悶えている茶髪野郎に幸あれ……いや、無くてもいいや。
丁度キリがよかったので、今週はここまで更新^^
また来週~(*´∇`*)ノシ
しかし、怒鳴り合いが一番書いてて楽しい(笑




