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だから、なに?  作者: 篠宮 楓
異世界に飛びまして。
16/22

11 年齢=見た目年齢が羨ましい。

あの後、暫く私から異世界の話を聞いていたシスは、呼びに来た魔術師に急き立てられるように連れて行かれてしまった。

どうやら何か会議が入っていたらしく、私の来訪が予定外だったわけだ。

それを聞いて慌てて頭を下げると、シスはにこりと髭に埋もれた顔を皺だらけにして私の頭を軽く撫でた。

曰く、家族に頭を下げる者などこの世界にはいない……と。


その言葉に一番驚いていたのは実は呼びに来た魔術師だったんだけど、私もぎこちない表情になってしまったのは否めない。

事情が事情とはいえ、”家族”という言葉で全てを通してしまおうとするシスの態度にほんの少し、ほんの少しだけちくりとした痛みを感じたから。


ハルも同じように仕事があるらしく、申し訳なさそうに頭を下げながらシスの後を追うように出て行った。



そして残ったのは。



「ラグは、いかなくていいの?」

護衛なんでしょ? そう続ければ、ラグは面倒くさそうにソファの背もたれに手をついた。

「護衛っつっても、それはハルが魔術を使う時とか外出する時とか、まぁ時間があれば傍にいるようにはしてるけど……」

「けど?」

先を促す様に言葉尻を捕えれば、ラグはその長い茶髪を片手でがしがしとかきまわしながら今まで座らなかったソファに腰かけた。

「シス長官もハルも身分のある立場だから、王城敷地内にいればおのずと護衛が付くんだ。多分、部屋の前に迎えに来てたと思うぜ」

「あぁ、そうなるとラグはやることがないと」

「んなわけねぇーよ。今日はやることがあるから任せただけ」

そう言いながらまだ手を付けていなかった紅茶を、一気に飲み干した。

ごくりと飲み干すその音が、妙に耳に響く。



やる事。それは要するに――



「私が仕事の邪魔になってるのね、ごめんなさい」

いつもなら護衛として行くのに今日はいかない理由、それはどう考えてもイレギュラーな私の所為だ。

ラグは少し驚いたように目を見開いたけれど、すぐに顔を逸らした。


「あんたさ、もう少し取り乱してもいいと思うけど」

「……は?」


取り乱せ?

何言ってんのこいつというそのままの表情をすると、ラグは苦虫をかみつぶしたような顔を晒しながら背もたれに上体を倒した。

背中でゆるく結ばれた胸よりも長い髪が、ふわりと遅れてその動きについていく。

意味もなくそれを視線で追っていた私は、ラグの溜息で顔をあげた。



「いやさ。俺がお前の立場だったら、もう少し取り乱すと思ったからさ。まだ二十三歳位だってのに、なんでそんな落ち着いてるわけ」

「位じゃなくて、二十三歳」

何でそこを曖昧にするかな。

そんなに見えませんかね、二十三歳に。

「っていうか、もうすぐ二十四歳になるけど」

「……俺と四歳しか違わねぇのかよ。どんな種族だあんた」

人間という種族です。


一応脳内で返答しつつ、思っていたことをそれは素直に口にしてみました。

「ラグは二十八歳に見えそうで見えないね。話すともっと見えないね」

「てめぇ、喧嘩売ってんのか」

「いいね、絶賛高価買取中」

即答すれば、少し視線を外したラグが何かを避けるように勢いをつけて立ち上がった。

「あんたにも護衛がいたんだったな、さて行くぞ」

護衛? そう首を傾げて思い出す。


「そっか、精霊さんが守ってくれてるわけね。ありがとありがと」


私には見えないけれど、肩のあたりにいるってシスやハルくんが言ってた。

ここらへんかなーと適当に手のひらを宛てると、微かに暖かく感じる。

少し驚いて目をぱちくりさせていると、私の背中がぐいっと引き寄せられた。


「へ?」


一瞬の後、視界が高くなったことに驚いて声を上げると、斜め下から意地の悪い笑い声が響く。

「シス長官から話はもう通っているだろうから、あんたの戸籍登録しに行くぞ」

そう言いながら歩き出すラグと同じ振動が伝わってきて、自分の状況を理解する。


再びの縦抱っこ!


「なんでまたこの体勢!! 一人で歩けるってば!」

左腕にひざ裏を押さえられていて、暴れようにもその不安定なその体勢はラグの肩に手を置いていないと体が仰け反りそうであまり無理が出来ない。

それでもこのまま連れて行かれるよりはましだと肩に手を置いて力任せに体を離してみたけれど、さすが騎士、腐っても騎士!

全く動じない。

そうか、騎士というのは筋肉発達野郎なわけか!


「あんた、興味惹かれるとふらふら~っと勝手に行動しそうだからな! 今日一日は、これが移動手段だと思え」

「はぁ? 何言ってんの、いい大人なんだからちゃんとついていくわよ。あんたの後ろ位!」

「大人ねぇ。あんた廊下でたらそう言ってみな、皆信じねーから」

ふふん、背後にと文字が見えそうなその顔が憎らしいくらいな笑みを浮かべて、ドアに手をかざす。


するとゆっくりとそのドアが開いて、ラグはするりと抜けるようにして廊下に出た。


「……?」


そこには、数人の男性がこちらを見て固まっていた。



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