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だから、なに?  作者: 篠宮 楓
異世界に飛びまして。
13/22

8 家族。

張り詰めたような雰囲気が和らいだのを感じて、私は体から力を抜いた。



謝られるのも、気を遣われるのも、私には苦痛だ。

それに今は、自分の頭があまり機能してない。

事実を事実として聞いているだけで、これからの事とかそんなの考えられないというよりもどうしていいのか分からない。


突然、知らない世界で。

突然、知らない人達がいて。

自分の気持ちが追い付かないまま、時間が過ぎ話が進む。

けれど駄々を捏ねるほど、子供でもない。

泣きわめいて噛みついて、すべてを否定することも出来ない。



目を伏せて、膝に視線を落とす。

ベストを合わせたプリーツキュロット。

パンストを穿いた足先には、黒のナースサンダル。

七分袖のブラウスは、背の小さい私にとって長袖とイコールのモノで。


自分は変わらないのに。

自分以外がすべて違う。


異質な私は、これからどうなるんだろう――




その時、耳元で微かに風が動いた。

不思議に思う前にこっそりと耳打ちされた声は、茶髪野郎のもの。


「あのな、長官は無類の異世界好きなんだよ。オタクなんだよ。お前、相手すんの大変だぜー。頑張んな……うおっと!」

途端、ぐんっと体を反らした。

「へ?」

いきなり海老反り?

驚いて後ろを見れば、ちょうど茶髪野郎は後ろに向って数歩飛びずさったところで、あっぶねー、と呟いた。

それを見たシーダスが、目を細めて笑う。

「トーコは精霊に好かれておるの。近過ぎるって怒っておるよ」

「……あ、ハルが喚んだ精霊さん?」

私には見えないけど……


「ずっとトーコの肩に座っておる。あまりおいたをすると、悪戯されるぞ? 今は勘で避けたんだろうが、そうも毎回上手くいくとは思わぬことじゃな」

最初は私に向って、最後は茶髪野郎に向けてシーダスは言うとそのまま話を続けた。

「食事はまだだろう? 良ければここでとろう」

「あ、ありがとうございます」

正直、茶髪野郎の言う食堂に行くのは気が引けた。

大勢人がいる場所に行くのは、今の私にはきつい。

シーダスはそれに気づいてくれたのだろう。

さすがおじーちゃん、さすが長官。

茶髪野郎とは大違い。


「では、そのように侍女に伝えて参ります」


そう言って踵を返そうとした茶髪野郎は、シーダスがぱちりと指を鳴らした途端、後頭部を叩かれたような状態で前のめりに転びそこなった。

それを踏ん張って体勢を直すと、振り向いてシーダスを見る。

「長官! 何するんですか!」

後頭部を片手で押さえているところを見ると、結構痛かったようだ。

若干の涙目の筋肉男……うん、萌えない。


シーダスは目を細めると、名前、と呟いた。



「お主だけ名乗っておらん」

「あぁ、いいですよ茶髪野郎で。ね?」

「よくねぇよ!」


私の言葉を食い気味に否定しながら足音高く戻ってきた茶髪野郎は、そのまま私を見下ろした。


「ラグ。茶髪野郎じゃねぇよ」

「……敷物?」

「なんだそれ」


だって、ラグって。


脳裏に自室に敷いていたラグを思い浮かべながら言うと、茶髪野郎はがしっと私の頭を掴んだ。


「絨毯じゃねーよ、敷物でもねぇよ! ラグルス=リアン。ラグって呼べ」

「うっわ命令系。上から目線の自己紹介どーも!」


なんでこの人と話すと、喧嘩腰になるんだろう?

普通にだって話せるのに。



ラグはちらりとシーダスに視線を向けると、あのな、と私に話しかけた。


「実際は、本名って教え合わないんだよ。家族とか、配偶者とか、そういう間柄だけ。だからシーダス長官の名前も外で言うなよ」

初めて聞くことに、驚いてシーダスを見る。

シーダスは頷くと、にこにこと笑った。


「儂はこちらの世界での、トーコの親になるんだからの。本名を知っていてもらいたいのだよ。他ではシスと呼んでくれるとありがたい」

「親……ですか」




すぅっと、気持ちが冷えた気がした。


シーダス……ううん、シス長官が私の親代わり。

きっと保護するうえで必要な措置なんだろうけれど。



親。

――親、か。



「俺は、ハーライルです。トーコさん」



思わず口を噤んだ私の横から、ハルが身をを乗り出した。

「元の世界のご家族以上の存在になれるとは思いませんが、それでもこちらでの家族だと思って下さい」

黙り込んだ私が、自分たちを受け入れたくない様に見えたらしい。

ハルは、勢いをつけるように一気に言い放った。





家族。


こちらでの……元の世界のご家族以上の存在……。



思わず、自嘲気味な笑みが浮かぶ。




「トーコさん?」





不思議そうなハルの声に、表情を作り上げて小さく頭をふった。




「ううん、何でもないよ。ハーライル……くん、よろしくね」





作り笑いは大得意。







――この世界に来て、まだほんの少しだけど。




家族。






その言葉も存在も、言われなきゃ欠片も思い出さなかった自分が、酷く冷たい人間だと、思えた。




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