ボタン連射
なし
先ほどからの
空中戦での
ジャブの応酬
まったくもって
二人は
どこでまちがったのだろうか
交わす会話は、
全くの平行線
離婚させたくない金持ち男と
自由を手に入れて離婚したい女
「なぜ、なぜなんだ那緒さん」
この問いが空中戦の
言葉とともに頭をまわる。
その応酬を何も参加できずに
呆然と眺め
再びの、
一語一句変わらない
ののしりを聞きながら
彼女は、本当に嫌となったら
とことん嫌いなんだと理解。
また一方で
金ではない生き方。
そんな那緒さんの氣っ風の良さにも
ほれぼれした。
しかしながら開始から半時
相手方には
フィアンセの役どころか
まったくもってこちらは
眼中にない
完全なアウェイ状態
やはり私はこうなる運命なのであろう
「もうあなたとは二度と会わない、
その書類にサインしなさいよ」
緑の
契約紙を那緒さん
床に投げつけ
捨てぜりふをはき
扉に向かう那緒さん
へらへらになった紙を
見ながら
そこに横たわる法律の壁の重さを
ひしひしと感じた。
ここまで来たんだ
私も何か言わなければと
必死に考え
そして放った一言が
「私、電撃結婚します!!」
言った自分もびっくりしてしまった。
たぶんに
お袋が見ていた
あの昼のメロドラマ。
よくある話。
最愛の相手に生き別れた悲劇のヒロイン
そこをねらう金持ち男
まさに相手の前恋につけいる手法
何事かと
状況を理解できない金持ち男
ところが
一瞬間をおいて
イタリー男、すごい形相。
向こうから
こちらにつかみかかんばかりで
突進してくる
急いできびすを返し
即退散。
そして、氣がつけば
エレベーターホールで
ボタンの連射
異常の人物。
扉がひらいて
間一髪
那緒さんの手をひいて
乗り込んだ。
かくいう
いったい私は何をしているんだか。
なし