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『暖かな涙の帰る場所』

作者: 遊ぶ人
掲載日:2026/07/14

『暖かな涙の帰る場所』

 『暖かな涙の帰る場所』


 「僕は夢だ」


 そう名乗るのは、少し気恥ずかしい。


 なぜなら、どんなに良い夢であっても、父親に詳細を報告できるような内容ではないからだ。


 僕は夢だ。


 それなのに、夢の中でどうしようもないくらい、一人の女性のことを気にかけていた。


 それは、一郎いちろうが以前に交際していた彼女だった。


 夢の中の彼女は、どんな姿であっても懸命に頑張っていた。


 一郎のポケットの中には、彼女が好きだった音楽や、愛しい記憶が詰め込まれている。


 それなのに、一郎の涙腺は決壊したように涙を溢れさせ、止まることを知らなかった。


「おい、どうしたんだよ」


 近くにいた友人が、突然泣き出した一郎に困惑している。


 僕は夢だ。夢のくせに、夢の中で一郎を泣かせてしまう自分がもどかしかった。


 いっそのこと、この胸を締め付ける夢から一郎を叩き起こし、現実の大粒の涙で顔をグシャグシャにしてやろう。


 そう思って、僕は一郎の意識を現実へと突き動かした。思惑通り、一郎は目を覚ました。しかし、現実はもっと残酷だった。


 かつての一郎は、病院の白い小部屋で、何十分も彼女の名前を呼び、愛していると叫び続けていたのだから。


 今日の目覚めは、それに比べれば静かだった。


 大粒の涙は頬を伝うけれど、もう叫ぶことはない。


 ただ、心静かに後悔を受け入れるだけだ。


 一郎はベッドの上で、ただただ、病気がちだった彼女のことを思い出していた。


 3年間の交際期間。


 婚約指輪を選んだこと、二人で手作りしたウェディングボード。


 当時はすべて、無邪気な彼女の「いたずら」や「おまじない」のようなものだと思っていた。


 一郎の父親は、二人の結婚に猛烈に反対していた。


 彼女がその事実を知っていたのか、それとも気づかない振りをしていたのかはわからない。


 ただ、彼女はたびたび「結婚してね」と微笑み、一郎はただ、言葉にならないまま頷くことしかできなかった。


 別れてから2年。


 一郎がこれほど激しく泣いたのは、これで2度目だ。


 一郎の心は、自分でも気づかないうちに、ボロボロに傷ついていた。


 あの時、繋いだ手を離すべきではなかった。


 僕の手――いや、一郎の手は、ハリウッド映画の『タイタニック』のどんな名シーンよりも、千倍も暖かな手だったはずなのに。


 ポケットの中の、もうどうすることもできない彼女の幻影を意識しながら、一郎はそっと涙を拭った。


 この夢は、悲しい。


 けれど、どこまでも暖かく、静かな涙とともに、終わりを迎えた。


(了)

気楽に読んで。

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