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7 怪しい二人


 結論。

 門番達には見付からなかった。


『彼ら、持ち場に戻ったわ。もう出てきても大丈夫よ』


 上空から門番達の動向を見ていたアイヴィーが大きな声で呼びかける。

 暫くしてから、茂みに隠れていた二つの影が恐る恐る姿を現わした。


 男の悲鳴を聞きつけて駆けつけた門番の目を誤魔化す為、彼らは茂みの奥に伏せて外套を被りじっとしていた。門番の気配に慌てて逃げ出そうとした二人に、アイヴィーがそう指示を出したのだ。


 門番は屈強で、追いつかれれば無事では済まされない。暗闇の中で走って逃げるより、外套を被って茂みの影で大人しく伏せるよう進言した。勿論燭台の火は消させた。

 駆けつけた門番が持っていたのも燭台だった。燭台の光源は前世ほど優秀ではない。身を潜めじっとしていれば、茂みの奥に光は届かないだろう。

 茂みを探されても、伏せていれば黒い外套が影となり隠してくれる。それくらい燭台の灯りは手元しか照らさない。


 アイヴィーの読み通り、門番は不審な人物を探しはしたが、痕跡を見付けられず早々に配置に戻った。彼らの仕事は門の出入りの管理なので、目撃していない不審者を追いかけるのは彼らの管轄外だ。


(と言うのを、大体の人の耳には届かないのを承知でまくし立てたのがこの私!)


 聞こえていたのは、アイヴィーが見えていた青年だけ。

 その青年は、塀より高く上昇したアイヴィーを見上げて嫌そうに顔を顰めていた。


(もの凄く嫌そうな顔するじゃん……)


 表情を取り繕う貴族達の顔ばかり見てきたので、こんなに素直な感情表現久しぶりでなんだか楽しくなって来た。

 アイヴィーはワクワクする心を隠し、塀の上からひょっこり顔を出した。幽体なので壁により掛かれば手が沈むので、浮かせたまま手を添える。形だけだ。


『ごめんなさい。まさか私が見える人がまだ居るなんて思っていなくて、驚かせてしまったわ』

「まあ……確かに不意打ちだったけど、彷徨っている奴らってそういうものだし……逃げ切れたし、いいよ」


 ボソボソとした話し方だが、不思議と耳通りは良い。アイヴィーは思わずにっこり笑った。

 笑いながら、心の中で叫んでいた。


(ああー! もしかして想像以上に結構その辺に居るのかな!? 聖人って!)


 まさかのこの三日間で二人の目の、彷徨える魂が見える人。

 及び腰ながらアイヴィーを見上げる青年は、茂みから出る時に被っていた外套がズレその風貌が明らかになっていた。


 木の枝などが引っかかるくらいボサボサの銀髪は胸元まで長い。結ばずそのまま流しているので、髪のあちこちに葉っぱが絡まっていた。見上げてくる青い目は睨んでいるようだが、敵意は見当たらない。でも警戒心は強そう。

 猫背でわかりにくいが背は高く、肉付きは悪い。細長い手足から、見るからにインドアで出歩くのに消極的な様子が窺えた。


「なあ、魂魄はなんと言っているんだ? 灯りはもうつけて良いのか?」


 その隣に立つのは、青年より背は低いが明らかに鍛えた身体の青年。


 見事な赤毛は所々跳ねていて、耳が隠れるくらい短い。彼にアイヴィーは見えていないようで、焦げ茶色の目は灯りの消えた燭台を見ていた。

 そんな彼に、青年の言動を疑う様子は見られない。つまり、彼は同行者が霊を見る能力を持つ事を……聖人である事を知っている。


(これって偶然?)


 教会が喉から手が出るほどに欲している聖人が、この三日間で二人も見付かるなんて。

 しかも、この聖人を輩出したライコア侯爵家の周辺で。


『ねえ貴方たち、こんな所で何をしていたの?』

「それ、俺達を助けてから聞くんだ」

『さっきは急だったし、私が邪魔をしてしまったようなものだったから。つい助けてしまっただけよ。だってこんな夜更けに隠れて行動するなんて、人に言えない用事でしょ? ……でも安心して。私は幽霊だから、貴方たちが悪い人でも誰にも密告できないわ』


 ちょっとだけ話が聞こえていたので、悪人ではないだろうなと思いつつも怪しかったので挑発してみる。本気ではないが、実際怪しい。

 そんなアイヴィーの言葉に、青年はムッと唇を突き出した。とても不満そうだ。

 何度も思うが、なんとも表情豊かな青年だ。

 見たところ、身なりからして平民ではなく貴族。年齢も二十代半ばに見える。つまり貴族として当然のポーカーフェイスを躾けられているはずなのに、やたら素直だ。

 今のところ、見えるのは負の感情表現ばかりだけれど。


「どうした。魂魄はなんと言っている?」


 不満そうな顔を見て、会話が聞こえていない男は不思議そうに問いかけた。


「……俺達に、悪い事をしに来たのかと聞いている」

「なんだと。それはいけない」


 本気でびっくりした、という顔をした男が、勢いよく顔を上げた。青年の首の角度から上空にいると判断したのだろうが、視線はアイヴィーから逸れて明後日の方向を見ている。


「お初にお目にかかる大地を彷徨う魂よ! 私はペルデュラン男爵家嫡男オクトス! そしてこちら弟のミラノス。お察しの通り良い目をした男です!

「待ってなんで俺の名前も言ったの」

「我々はライコア侯爵家に仇為すつもりはありません! ただ、真実の元に彼女を解放して頂きたいだけなのです!」

「ちょっとは隠そう? ねえ」

(コントかな?)


 一瞬突っ込みが浮かんだが、それより気になる台詞があった。


 力強くて早口だった。

 力強いが全部小声だった。

 だけど滑舌がとても良くて、しっかり聞き取れた。

 姿勢正しくこちらの反応を(見えないし聞こえていないのに)待っているオクトスと名乗った男。その隣で、ミラノスと紹介された青年が頭を抱えている。


『……彼女を解放?』


 つい最後の言葉を復唱し、全ての発言を咀嚼する。


(はぁ――――――??)


 むかっとして塀から身を乗り出そうとしたアイヴィーだが、見えない壁に弾かれる。

 静電気のように散った青白い光に、ミラノスが驚いて顔を上げた。どうやら、聖人にはこれも見えているらしい。

 仕方がないので塀の上で頬杖をつくふりをして、上からじっとり睨め付ける。


『真実の元になんて、よく言えたわね』


 目が合ったミラノスは視線を彷徨わせたが、目の合わないオクトスは真っ直ぐ(ズレているが)こちらを見上げ続けていた。


ペルデュラン男爵家(あなたたち)が、あの子に偽る事を強要したのでしょう?』


 青年の名乗ったペルデュランは、クインティーナを養子にした男爵家。

 つまり、五人目の(逃げた)花嫁の家族。


 彼らは平民の侍女を貴族令嬢と主張して侯爵家に嫁がせた家の人間だった。



小声なのに力強い声を出せるオクトス。

誰かに見付からねぇかと心配でならないミラノス。

ポーズは大事だよねと空気椅子みたいに浮きながら頬杖ついたりしているアイヴィー。

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― 新着の感想 ―
 一応?関係者だったかー。だがしかし、アイヴィーの敵ではあるっぽいな。クインティーナが聖女もしくはそれに近い存在だと知ってて奪い返しに来たのであれば尚の事。ミラノスが聖人の分類ならば聖女がどういう扱い…
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