ブラックアンドホワイ!?と@8
銀座の裏路地。
先程のフカヒレの名店の排気口から漂う贅沢な香りが、路上の湿り気と混ざり合う。
三姉妹は食後の余韻に浸りつつ、夜の闇に溶け込んでいた。
「……おい。そういえば、身分証、持ってるの?」
長女ラサが、スマホの画面を見つめたまま冷淡に問いかける。
「ミブン……ショウ?」
脳内に情強スキルによってデータが流れてくる。
『この世界において、身分を証明できぬ者は人にあらず。宿も職も、魔導端末すら手にできぬ……』
「持ち歩いてないが、何故ですか?」
「あー、妾達に近づくポンコツがどんなやつか知らんといけんやろ」
「そうですね、本当に持ち歩いてなく」
ポンコツが膝をつき、アスファルトに額をめり込ませようとしたその時。
ラサが、妖艶な……しかしどこか「支配者」の冷徹さを帯びた笑みを浮かべ、iPadを突きつけた。
「そこで相談なんだけど。……私たち、人手が足りないの。どう? 私たちの『執事』として働かない? お金は私たちが保証してあげるわ」
「執事……!?」
「ええ、ヒモより良いでしょう!? 条件を見て。……ブラックよ?」
(ヒモ!?ああそうか、そうだな!?そうかもな!?)
ポンコツは、iPadに表示された『雇用契約書』を、禁断の聖典を見るような目で見つめた。
「……ハチジからジュウハチジ勤務……? 土日、ヤスミ? なんだこれは! 安息日が週に二日も約束されているというのかッ!?」
「少ない!? 休憩も午前と午後に30分ずつ。お昼休みは1時間。実働8時間よ」
「なるほど……!(この世界ではデフォルトか!?) しかも……残業代、時給換算1.25倍だとッ!?(文化文明レベルが違いすぎる)!!」
「さらに賞与もあり。……やる?」
「やるッ! やらせてくれ! せめて俺はこの『ボーナス』もらうまでは!!」
ポンコツこと執事は震える指で画面にサインをした。
サキュバスである彼女たちが、実は人間を効率よく管理するための「搾取」のプロであるとも知らずに。
「決まりね。じゃあ最初の仕事。私たちがテイムした『富裕層』とのLINEのやりとりを、私になりきってやりなさい。あとランチとディナーの予約、最新スイーツの差し入れのピックアップ……全部よ。いい? 正体は絶対隠すのよ」
「心得た! 貴殿への『貢ぎ物』を管理する、後方支援任務だなッ! この俺が……いや、この名もなきマネージャーが、文字で敵軍を殲滅してみせようッ!!」
執事はさっそく、渡されたスマホに向かって猛烈な勢いで入力を始めた。
(『昨日は楽しかったよ♡』だと!? 貴殿のような卑しき者が、ラサ様に気安く声をかけるな! 次は首を洗って待っていろッ!!)……送信。
「……ちょっと、ポンコツ! 返信の内容が物そばすぎるわよ! ……って、ひゃんっ!? ちょっと……急に!? ……なにごと……っ!」
【警告:えろがる・15(共鳴)】
ポップアップが一瞬、視界の端に浮かび上がる。
「だ、から……っ! 事務作業中に……そんなに愚直に……っ! 体が、変に!というかライン送信取り消しなさい」
「それより見ろ、ラサ殿! 最新トレンドの『ドバイのチョコ』なる菓子の予約に成功したぞ! 喜ぶがいいッ!!」
銀座の路地裏。
勇者であることを隠した「最強執事」が、今、誕生した
が
めちゃくちゃ執事は怒られ
ラインのやりとりを朝までサービス残業していた




