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5/11

最低評価の下僕@5

銀座八丁目の夜。ネオンが刺すように輝く大通りを、三人の美女が歩いていた。



 ラサ、ミーネ、ララァ。彼女たちは現在、人族に扮している。

 尻尾も翼も魔力も、人族の限界ギリギリまで圧縮し、隠蔽していた。


「……勇者がこの街に紛れ込んでいる可能性があるにゃん。不用意に魔力を垂れ流して、変な聖域の結界に引っかかるのはタイパが悪いからにゃん」


 ララァの提案は合理的だった。だが、魔力を隠しても「オーラ」までは隠しきれない。


「ねぇねぇ君たち、すみませーん!ちょっと良いですか? 僕、スカウトマンなんだけど、夜系興味ない!? 時給3以上出るよ!」


 背後から、安っぽい香水を漂わせた男が声をかけてくる。ラサは足を止めず、冷徹な視線だけを横に流した。


「……やれやれ。私の価値を見積もるなんて。あなた、終わってるわよ」

「ヒッ……!? せ、せめてラインだけでも!」


 男は一万円札を差し出しながら食い下がるが、ラサの氷のような眼光に射抜かれ、蛇に睨まれた蛙のように硬直した。三姉妹はその哀れな男を一蹴し、さらに夜の深みへと進む。


 ---


 一方、その数メートル先。

 一人の男が、今にも力尽きそうな足取りで歩いていた。

 泥にまみれ、マントを失い、ボロ布のような服を纏った勇者である。


(……腹が減った。マナが……マナが足りぬ。魔装した武器も、フルフェイスの兜も、鎧も消えた……。)


 勇者もまた、魔力を完全に抑え込んでいた。この未知の世界で「勇者」として検知されるリスクを避けるためだ。しかしその結果、今の彼は銀座の煌びやかな景色の中で、完全に「見窄らしいスラム出身者」と化していた。


 勇者は、すぐ側を通り過ぎる三人の美女に気づかない。

 あまりの空腹に、視界がチカチカして、美女の顔より道端に落ちているポップコーンの方が輝いて見えていた。


「ねぇ、お姉様」


 ララァが、ふと足を止めて勇者を指差した。


「明日のパーティー、スマートに振る舞うため。荷物持ち兼、会場の空気を汚さない程度の『盾』になる下僕が必要だにゃん。あそこの見窄らしいの、どうにゃん?」


 ミーネが、ゴミを見るような目で勇者を一瞥する。


「……生命力が極限まで削られているが使い捨てにちょうど良いし奴隷としての根性を感じる。何より、スキルや魔法使わなくても堕ちるだろ」


「いいわね。人族の底辺を飼い慣らすのも、悪くない余興よ」


 ラサが優雅に歩み寄り、空腹で膝をつきそうになっていた勇者の前に立った。

 勇者の視界に、最高級のピンヒールと、すらりと伸びた白い脚が入る。


「……おい、お前」

「……ッ!?」


 勇者が顔を上げると、そこには見下ろすような視線の美女。


 かつての宿敵・ラサが、完璧な「人族の女王」のスマイルを浮かべていたが勇者は気づかない


「お前、私に付き従いなさい。報酬は……お前が今一番欲しがっているものを言ってみなさい」

「……あ……ああ。……すまぬ。その……食事を、お願いできるか……」


【警告:勇者が軍門に降りました】

【現在の関係:雇用主と、最低賃金の雑用】

【勇者のVP:0.5(※銀座の迷い犬として認知)】


一瞬

ステータスにポップアップ出るが消える


 銀座の月夜の下、絶対に交わってはいけない二組が、最悪の「再契約」を果たした。


「まずはその服装、どうにかしないとだにゃん!」


 彼女たちは『情強スキル』で得たデータを元に、◯ークマンと◯ニクロへ勇者を連行し、服や靴を買い与えた。


「……なんだ、この『フリース』という服は……!? 軽い、温かい、そしてこの……マナが循環するような着心地……! 感謝する、三人の乙女よ!」


 勇者は新しい服の着心地に感激し、宿敵とも知らずに頭を下げる。


『ふんw』



 そして三姉妹が次に向かったのは、中央通りから一本入った中華料理店。


 そこは、フカヒレの専門店だった。


 個室に案内され、慣れた様子で注文する三姉妹。

 勇者は、今まで嗅いだことのない芳醇な香りに、さらにお腹を鳴らす。

 隠しているが、三姉妹もまた、運ばれてくる絶品の匂いにキラキラとした表情を浮かべていた。


「本当に何から何までありがとうございます! こんな高そうなご飯屋さん、よく来るんですか!?」

「気安く話しかけるでない! まぁ……今日は気分が良いから許すが。……ん、ここには、た、たまに、だな(※初めて)」


 見栄を張るサキュバスと、フカヒレを魔道具か何かと勘違いしている勇者。

 銀座の夜は、まだ始まったばかりだ。

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