ザギン大陸の三姉妹、銀座(ザギン)に立つ@1
少なくとも、魔族も人族も行き交いモンスターが襲う大陸ザこの「銀座」と呼ばれる、どこか人工的な匂いのする街にも、存在しない。
人族の間で古くから
かつて聖女と呼ばれた女は、異世界を行き来し
この街を「世界一美しい景色」として固定したらしい。
無機質なアスファルト、計算された街路樹、そして欲望を「品格」という名の包み紙で丁寧にラッピングした富裕層たち。
勇者の放った次元魔法との衝突の末、僕たちは――いや、僕の中に住まう三人の魔族たちは、そんな完成された世界に放り込まれた。
代わりに残されたのは「絶望的にダサいサイケな民族衣装」と、喉を焼くような、それでいてどこか官能的な「ニンニクへの渇望」だけだった。
「富裕層? ナニそれ? 美味しいの?」
銀髪を揺らしてラサがそう言ったとき、銀座の時計塔は静かに、そして無慈悲に時を刻んでいた。
ザギン大陸には人々が震える再狂の恐れる魔族がいた。
その中でも
異質の三姉妹のサキュバス!
数百万の軍勢を指先一つでエロがさせ跪かせる長女
ラサ。
一振りで理性を割り、ハートを砕く次女
ミーネ。
囁き一つで一つの集落を感情を鷲掴みさせる三女
ララァ。
そんな彼女たちと勇者の聖戦は、互いの強大すぎる魔力が臨界点を超え、パワーがぶつかり合い次元そのものを叩き割るという、あっけない幕切れを迎えた。
どれくらい経ってだろうか?
くっ
クソ
腐れ人族の勇者だがなんだが知らんが
どこにいる!?
!?
は!?
銀髪を揺らす彼女が纏うのは、女王のドレスではなく、どこかの民族衣装だった。
んんんん?
ラサは美しく整えられた眉を顰める。
ここはどこだ。!?
見たこともない直線的な景色
空を切り裂く巨大な建造物
そして無機質な顔で行き交う人族。
肺に流れ込む空気はひどく汚れ、目も皮膚も痒い!?
魔力を身体にこめようとするが
「……!?!?魔力が、練りづらいわ」
ラサが指先を鳴らすが、火花一つ飛ばない。
この街全体にマソも足りなく何やら
聖なる結界!?張り巡らされた、しかし強固な「聖女!?の結界」が、彼女たちの根源的な力を霧散させていた。
「お姉様、ここ、全然ダメだにゃん。魔力が足りず私たちの存在そのものがスラムの人族みたいなかんじ……。尻尾も羽根もないにゃん。ほら、見て」
ララァが指差した先。街行く人族たちは、彼女たちの絶世の美貌を、まるで道端の石ころでも見るかのような、薄ら寒い無関心で通り過ぎていく。
「この私が?」
三人は立ち尽くしていた
女王として、戦乙女として、魔女として君臨していた彼女たちが、この街では透明人間以下の扱い。
さらに、不意に脳内に浮かび上がったスキル「情報強者」が、残酷な現実を書き込んでくる。
【情報強者:ニュー・レジェンド LV1】
警告:現在のVP(注目度)が低すぎます。このままでは存在が消失します。
回復にはマナの摂取、そしてこの街には通貨が必要です。
現在地 銀座 4丁目交差点 み◯◯し前
なんなんだ
なんなんだ
なんなんだ
「とりあえず勇者だが襲ってきた人族いないみたいだしお腹、空いたにゃん……。魔力も、自尊心も、もう限界だにゃん……」
ララァが膝をつく。
空腹は、何よりも冷酷に彼女たちの理性を削り取っていった。
その時だった。
(……なんだ、この匂いは?)
どこからか漂ってきた、暴力的なまでに美味そうな匂い。
それは、銀座の高級な香水の香りを全てなぎ倒し、彼女たちの生存本能に直接語りかけてくる「脂の福音」。
匂いの源泉は、不自然なほど鮮やかな「黄色の看板」――家系ラーメン『オホホロ』だった。
「……ねぇ。あそこの並んでいる先頭の男。あれにしよう。最後尾に人族と一緒に並ばずに済むし、いい欲のあるマナを持ってそうじゃない?」
ラサの目が、獲物を定める魔族のそれに変わる。
もはや、プライドなんてどうでもいい。
あの看板の下へ辿り着くためなら、人族の足元に跪くことすら、今の彼女たちには惜しくなかった。
「……ねぇ、お待たせ。妾たちが一緒に食してもよくってよ?」
ラサは行列の先頭にいた男のネクタイを、古い手紙を整理するように細い指先で弄んだ。
それは、飢えた獣が最後に放つ、起死回生の誘惑。
「ただし――『ラ別1(ラベツイチ)』」
耳元で囁き、なけなしの魔力を込める。
ララァの精神干渉により、男の脳内ではそれが「容姿端麗な女性へのマナー」へと書き換えられる。
ラサは、差し出された万札3枚を、春の風を受け止めるように滑らかに受け取った。
店内に入ると、より美味しそうな匂いが充満して食欲をそそる。
先程の人族と同じテーブルにつき、メニューをみる。
人族が「接待」のつもりで、あれやこれやと説明しつつ店員を呼び、おすすめのチャーシュー麺を頼む。
「……ニンニク入れますか?」
店員の問いに、ラサが微笑む。
「全開で」
この匂いだけでも身体に絡み、微力ながら魔力が回復し始める。
そして、しばらく待つと。
供されたのは、もはや料理という概念を超越した、暴力的なまでの質量だった。
一言で言うなら山――。
そしてそれは茶褐色のスープの海にそびえ立つ、欲望の標高。
頂には、雲海のように真っ白な背脂が降り注ぎ、脇には刻み抜かれた生ニンニクが、劇薬のような異彩を放って鎮座している。
ラサが割り箸を割り、スープを一口掬った。
「――っ!!」
【状態異常!えろがる10】のポップアップが視界の端に
まじか?
その瞬間、彼女の脳内に雷鳴が轟いた。
醤油のキレと、豚骨の野性的なコクが、暴力的な塩分と共に舌の細胞一つ一つを蹂躙する。ドロリとした液体が喉を通るたび、結界に枯らされた魔力回路が、パチパチと火花を散らして再起動していく。
「あ、あぁ……! なに、この……野性的なまでの『雄』の咆哮は……!」
んあああああああああああ!
ララァが麺を啜り上げる。
ワシワシとした極太の縮れ麺。噛み締めるたびに、小麦の圧倒的な香りが鼻腔を突き抜け、濃縮されたスープの旨味が爆辞となって脳髄を直撃する。
くっ……!
「美味しい……! 魂が、銀座の空高くまで飛ばされていくようだわ……! あ、体が……勝手に……っ!」
ぱああああああああああ!
ミーネは無言で、厚さ数センチはあろうかという「豚」に食らいついた。
「……んんぅっ!!」
歯を立てた瞬間、ホロリと崩れる肉の繊維。閉じ込められていた濃厚な肉汁が、甘い脂と共に溢れ出す。
――それは、荒れ狂う魔人の軍勢に、全身を愛撫されているかのような背徳的な恍惚感。
「ニンニク……! この強烈な香りが、私の血を、魔族の誇りを呼び覚ます……! 身体が、熱い……溶けてしまいそうだわ……!」
三人が同時に麺を啜る。
「「「!!!」」」
ズズッ、ズズズッ! という下俗で、しかし生命力に満ちた音が店内に響き渡る。
店内の空気が、真空パックを切り裂いたように震え始めた。
パッ、と鮮やかな閃光が弾ける。
安っぽいサイケ衣装が内側からの魔力の膨張に耐えきれず、パァァァン!と弾け飛んだ。
露出した白い肌に、再構築された漆黒の鎧と銀白の魔導ドレスが、吸い寄せられるように吸着していく。
「な、なんだ今の神業マジックは……!?撮影か?」
店内の人族が腰を抜かす中、三人は本来の最強の姿を取り戻し、堂々と箸を置いた。
「決まりね」
ラサが、吐息にニンニクの残り香を纏わせながら、確信した。
勇者や聖女と戦っている場合じゃない。
「まずはこの街を喰らい尽くし、あの聖女の結界をぶち壊すわよ。行くわよ、妹たち」
「「「!!!」」」
最後までお読みいただき、ありがとうございます♪
彼女たちの欲にまみれたストーリーは、まだ始まったばかりです
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次回の更新予定は……勇者が銀座の静寂を守るサイドストーリーも執筆中!?




