第3話:薬師の少女と、呪いの霧
朝の陽光が、森の木漏れ日を優しく染める。
昨日の戦いの余韻が、まだ体に残っていた。
肩の傷は浅いが、赤黒い霧に触れた部分が妙に熱い。
エラが杖を地面に突き立て、淡い青い光を放つ。
「【治癒の息吹】……これで少しは楽になるはず」
光が傷を包む。
痛みが引くが、熱は消えない。
「これ……普通の傷じゃないな」
俺は呟く。
エラの表情が曇る。
「竜血の霧。古い文献にあったわ。
倒した竜の血が、霧となって残り……触れた者を蝕む。
放置すれば、体が竜化するって」
竜化。
想像しただけで背筋が凍る。
「治す方法は?」
エラが首を振る。
「普通の回復魔法じゃ無理。
特別な解毒薬……『竜血解毒剤』が必要。
材料は、竜の心臓の欠片と、特定の薬草」
「じゃあ……狩るしかないな」
俺は剣を握り直す。
エラが小さく笑う。
「あなた、意外と脳筋ね」
街に戻り、ギルドの掲示板を見る。
【薬草採取クエスト:危険度D】
【報酬:銅貨50枚+薬草専門の薬師紹介】
これだ。
受付でクエストを受けると、女性が微笑む。
「薬草担当のミアちゃんを紹介するわ。
彼女、ギルドの外れの小屋に住んでるの。
ちょっと変わってるけど……腕は確かよ」
森の外れ、小さな小屋。
扉を叩くと、中から小さな声。
「……誰?」
扉が開く。
そこに立っていたのは、
栗色の髪をポニーテールにした少女。
歳は16くらい。
白いエプロンに、薬瓶がたくさんぶら下がったベルト。
瞳は優しい緑色だが、どこか疲れた影がある。
「ギルドから……薬草採取の紹介で」
俺が言うと、少女――ミアは少し警戒したように俺たちを見る。
「あなたたち……竜の匂いがする」
エラが眉を上げる。
「匂い?」
ミアは頷く。
「私は……先駆者の末裔なの。
ミリア・ライトハートの血を引く家系。
だから、竜の血の臭いがわかる」
俺とエラは顔を見合わせる。
伝説の四天王の一人、癒しの聖女ミリア。
彼女の末裔が、こんな辺鄙な小屋に……。
ミアはため息をつく。
「祖先の代償よ。
先駆者たちが古龍を狩り尽くしたせいで、
竜は影に潜み、増え続けた。
そして……その血が大地に染みて、
変異した薬草が生まれた。
それが、私の仕事」
彼女は棚から古い本を取り出す。
ページには、先駆者たちの記録。
「竜血の呪い……解毒剤のレシピもここに」
俺は本を覗き込む。
必要な材料:
・小型火竜の心臓欠片
・月影草(夜にしか咲かない)
・銀葉の花(竜の血で変異したもの)
「これ……全部揃えなきゃ」
ミアが静かに言う。
「私も……手伝うわ。
祖先の過ちを、止めるために」
こうして、三番目の仲間が加わった。
リオン(俺)、エラ(魔法使い)、ミア(薬師)。
まだ三人。
でも、これで……少しずつ、伝説に近づける。
夜。
月影草を探すため、森の奥へ。
ミアが小さなランタンを掲げる。
「ここ……月影草の群生地」
青白い花が、月光に輝く。
だが、その周りを囲む影。
変異した狼――血鱗狼。
牙が赤く光り、群れで唸る。
「来る!」
エラが杖を構える。
【氷結の嵐】
青い吹雪が狼たちを凍らせる。
俺は剣を振り、飛び込む。
一匹の喉を斬る。
血が飛び散るが、霧は出ない。
「普通の狼だ……!」
ミアが叫ぶ。
「後ろ!」
振り向くと、巨大な影。
岩殻亀竜。
背中に小型の竜が巣食い、咆哮を上げる。
エラの魔法が炸裂。
氷の槍が亀竜の甲羅を削るが、貫通しない。
「硬すぎる……!」
ミアが薬瓶を投げる。
【酸性霧】
瓶が割れ、緑の霧が亀竜の甲羅を溶かす。
「今よ!」
俺は隙を突き、剣を振り下ろす。
亀竜の首が落ちる。
背中の小型竜が逃げようとするが、エラの鎖が絡め取る。
戦いが終わる。
息が荒い。
ミアが月影草を摘み、俺に渡す。
「これで……解毒剤の半分」
だが、俺の腕に……また赤黒い霧がまとわりつく。
熱が強くなる。
「まだ……呪いが」
ミアが俺の腕を見る。
「これは……普通の霧じゃない。
もっと強い……古龍の血の残滓かも」
エラが顔を上げる。
「文献にあったわ。
ヴォルガノス……最古の古龍王の血。
先駆者たちが封印したはずなのに……」
森の奥から、低い地響き。
まるで、何かが目覚めようとしているような。
俺は剣を握りしめる。
「なら……俺たちが、止める」
ミアが微笑む。
「三人で……伝説を超えましょう」
(次回予告:ギルドの緊急クエスト。
四天王の遺産が眠る遺跡へ。
そこで待つのは……新たな仲間、そして竜の影!?)




