第2話:ギルドの門と、氷の視線
街の喧騒が耳に届く。
石畳の道は馬車の轍で抉れ、商人たちの呼び声が響き渡る。焦げ臭い記憶がまだ鼻腔に残る中、俺はギルドの重厚な扉を押し開けた。
中は意外に静かだった。
木のカウンターの向こうで、受付の女性が穏やかに微笑む。
「ようこそ、竜狩りギルドへ。新入りさんですね? 登録をお願いします」
彼女の言葉に、俺はステータス画面を呼び出す。
【リオン / レベル1 / 職業:なし / スキル:なし】
情けない数字の羅列。村の鉄剣を腰に差しただけの俺は、ただの雑魚だ。
「これから……ドラゴンスレイヤーになりたいんです」
言葉を絞り出すと、女性は優しく頷いた。
「素晴らしい志です。まずは登録料として銀貨5枚。それから、初心者向けのクエストから始めましょう」
登録を済ませ、俺はギルド内の掲示板に目を向けた。
依頼は山ほど貼られている。
【小型火竜の痕跡調査】
【村近郊の狼群退治】
【薬草採取】
どれも俺の腕じゃ死にに行くようなものばかりだ。
「新人にはこれがおすすめですよ」
受付の女性が指差したのは、【火竜の巣窟調査:危険度E】。
報酬は銅貨30枚。失敗してもペナルティなし。
「これで、竜の痕跡を探す経験が積めます。パーティを組むのもいいですよ」
パーティ……か。
一人で突っ込むつもりだったが、村を焼いたあのフレイムウィングを倒すには、仲間が必要かもしれない。
「誰か……おすすめは?」
女性が微笑む。
「ちょうどいい人がいますよ。あそこに」
視線の先。
ギルドの隅、窓辺に立つ一人の少女。
長い銀髪が陽光を反射し、青みがかった瞳が氷のように冷たい。
エルフだ。
細身のローブの下に、杖を携えている。
彼女は俺の視線に気づくと、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
「あなたが……新入り?」
声は澄んでいて、どこか遠い。
「エラ・シルヴァニア。魔法使いです。……竜の調査に興味があるんですか?」
俺は頷く。
「村を焼かれた。復讐したい」
ストレートに言うと、エラの瞳がわずかに揺れた。
「……そう。なら、一緒に行きましょう。
私も、古龍の痕跡を探しています。
先駆者たちが狩り尽くしたはずのものが、なぜ今も増えているのか……」
彼女の言葉に、俺の胸がざわついた。
先駆者。伝説の四天王。
ガルドの槍、セレナの氷……。
その名を口にするだけで、村の長老の話が蘇る。
「増えている……?」
エラは静かに頷く。
「ええ。竜は、賢いんです。
トップの古龍が『影に潜め、時を待て』と命じたなら……子孫は増え続けます」
その言葉が、俺の決意をさらに固くした。
「じゃあ……組もう」
俺は手を差し出す。
エラは一瞬迷ったように見えたが、細い指を重ねた。
「よろしく、リオン」
こうして、俺たちのパーティは始まった。
まだ二人だけ。
でも、これが最初の一歩だ。
クエストを受注し、俺たちは街を出た。
森の入り口。
木々の間から、熱い風が吹き抜ける。
エラが杖を構える。
「痕跡探知……【氷の視界】」
彼女の周囲に淡い青い光が広がる。
地面に残る黒い焦げ跡、折れた木の枝、熱で溶けた土。
「ここから……火竜の通り道です」
俺は鉄剣を握りしめる。
心臓が早鐘のように鳴る。
「来るぞ」
森の奥から、低い咆哮。
赤黒い鱗が木々の隙間から覗く。
小型火竜――フレイムウィングの幼体か?
でも、目が違う。
村を焼いたあの竜と同じ、復讐の炎を宿した瞳。
エラが呟く。
「弱点は喉と翼の付け根。
私が凍らせて、あなたが斬って」
俺は頷き、剣を構える。
竜が飛びかかる。
熱風が頰を焼く。
「今だ!」
エラの魔法が炸裂する。
【氷結の鎖】
青い鎖が竜の翼を絡め、動きを止める。
俺は地面を蹴り、飛び込む。
剣を振り上げ、喉元に叩きつける。
ガキン!
鱗が弾ける音。
血が噴き出す。
竜が苦悶の咆哮を上げ、倒れる。
息が荒い。
初めての勝利。
でも、喜びより先に、寒気が走った。
倒れた竜の体から、赤黒い霧が立ち上る。
エラの顔が青ざめる。
「……これは……竜血の呪い?」
霧が俺たちを包む。
視界が歪む。
そして、遠くから聞こえる……
もう一頭の咆哮。
「まだ……いる?」
エラが杖を握り直す。
「これは……ただの調査じゃ済まないかも」
俺は剣を握りしめ、笑った。
「いいさ。
これで……本当の始まりだ」
(次回予告:三番目の仲間、薬師の少女ミアとの出会い。
そして、伝説の遺産が少しずつ明らかになる……!?)




