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激闘の行方

それはまさしく激闘だった――




ひゅっ!!

無数の風切り音とともに人の肉体など紙切れのごと貫く不可視の槍が、空を支配したと思えば、


キィンっ!!

空中にある水成分を"力"によって凍結させ、自然の凶器ツララとして、

一度に数十発放つことができる近代兵器のまねごとをし、空を縦横無尽に蹂躙する。


これが軍対軍であれば理解できるであろうが、

奇妙なことにこの光景を生み出しているのは、個人対個人。

しかし、人としての器を越えたもの同士の闘いであった。


(……やりおる。さすが【零点の統治者】、か)

眉を少しばかり跳ね上げるエルダム。


彼は未だ全力を出していない。

いないがここまでの力を行使できてもつ存在など大陸で5本の指に入る程度しかいない。

間違い無く、彼女はこのランキングの中でも上位に入るだろう。

いくら彼とて油断などしてしまえば、一瞬にして敗北へとつながるであろう闘いの中、

彼の脳裏にあったのは2つの対立する事柄であった。


彼女を殺すか、それとも当初の予定通り時間を稼ぐだけで終わらせるか。

つまり、彼、エルダム・ウィル・ウィダートは命を賭け金としている戦闘であろうことか、考え事をしているのだ。


ばしゅっ!!

そんな中一際大きな音が彼の聴覚はとらえた。

目前にせまる先ほどの氷の杭の5倍はあるだろう大きさの物体が、いつのまにかこちらを囲むかの如く展開されていた。

隙間から見えた彼女は、

にやりと笑い、親指を下にし「くたばれ」といったポーズをする。


全くもって品がない。

エルダムはため息をつき、

――【絶炎断壁ファイアウォール


そう口ずさむ。

同時に、ぼおっと焔の壁がエルダムの周囲を囲むようにして展開、そして拡大していく。

放たれた氷杭は拡大化した焔の壁によって一瞬にして蒸発した。


「無駄だ。

この【盾】は破ることはできん」

「それを負けフラグっていうんですよ、ちまたでは」

投擲っ!!


跳躍し、大きく振りかぶって放たれた彼女の槍は迫り来る炎の壁をあっさりと貫き、エルダムの心臓目がけて突き進んだっ。

「!」

始めて表情が他者にわかるくらいに歪むエルダム。

だが、

「ふんっ!!」

かけ声とともに手に持つ何かで槍の矛先を防ぐっ。


拮抗する槍の貫く力と、エルダムの防り。

「!」

四肢に力を込め、弾き返そうとするも彼の目の前に蒼い光が見えた。

それは、対象に絶対的な死を与えようとする彼女独自の魔法――



「母なる海司る星【海王星ネプチューン】、邪なるもの、悪心抱きしもの、全てを浄化する蒼海と為せ――【惑星魔法プラネットマジック海王星ネプチューン】!!」



大津波。

陸地では見ることができないはずの天災が、リティの言葉を持って具現する。

エルダムの両目が大きく見開かれる。

彼の身長の何倍すら数えることすら馬鹿らしい高さの波が陸地であるこの場に突如出現したのだ。

並みの神経なら、これは幻術だろうと思い込もうとするだろう。

しかし、

仮にも聖都フィーリアの守護者であるエルダム・ウィル・ウィダート。

こんな状況にも関わらず冷静に判断し、断言した。


これは本物であると――。

ただし。


そうただし、これは自身の【絶炎断壁ファイアウォール】と本質的に同質であると推断する。

絶炎断壁ファイアウォール】は、魔法であって魔法ではない。


己の魔力を編み、世界に対して働きかけて現象を起こすのが魔法である。

この部分は一般的な魔法と同じだ。


ロウソクに火をつけたい。

ならば火属性の魔法を使う。

これが通常の魔法の考え方である。


これをもう少しつっこんで考えてみる。

ロウソクに火をつけたい。

ここは問題ない。

火属性の魔法を使う。

ここを深く考えてみる。


ロウソクに火をつけることができれば、火属性であろうがなかろうが関係ないと思わないだろうか?

氷でも燃やすことができれば何も問題がない。

ここでの火を付けることは、ロウソクという物体を【燃やす】という概念の顕在化に他ならない。

【燃やす】という概念を発現できれば、属性に縛られる必要はないということだ。


では実際に氷属性、水属性などで火をつけることができるかと言えば、それはできない。

なぜなら世界基盤で規制されているからだ。

もしも水で火をつけることが可能になってしまえば、

朝、顔を洗おうと水をかけると焔がでるとドリフもびっくりな現象が起きてしまうのだ。

世界基盤は融通が利かない。

変化させるとなると全て適応されてしまう。

0か1しかないのだ。


ならば、

その0か1をうまい具合に使用して、部分的に世界改変できるように新たな【法】を敷いたものがいた。

それこそ管理者。

魔法の本質である基盤操作ができる者達である。

しかし、彼らはそのことを知らない。

自身が管理者であることを理解していない。

ゆえに管理者たりうる。


それは世界が我が身を守るための防衛行動の一つといえる。


閑話休題。


管理者のように万能ではないが、彼らに次ぐ基盤操作を許可されたもの――魔法体現者マジックユーザー

それこそが、リティと、エルダムの共通する能力であった。


基盤操作の真価の一つが概念操作。

既存の常識から離れた現象を、魔法の延長線上にて使用ができるものである。


エルダムの【絶炎断壁ファイアウォール】は【侵入禁止】。

その視覚化で焔が発現するというもの。


リティ・A・シルヴァンスタインが使用したこの【惑星魔法プラネットマジック海王星ネプチューン】。

この視覚化された波がもつ概念が問題になる。


概念に対抗するには反対属性の概念を持ってこなければいけない。

それか概念自体を強制的に否定できる神具が必要になる。


前者は時間的に不可能。

後者は――。


エルダムは嗤った。

そして――彼が嗤った直後だった。




「【解析アナライズ】、対象【惑星魔法プラネットマジック海王星ネプチューン】」

少女の声が、天高く響き渡ったのは。


「【解析結果リザルト】、対【惑星魔法プラネットマジック海王星ネプチューン】【術式検索】、【検索結果リザルト】――」




「【対抗術式レジストマジック】、対象【惑星魔法プラネットマジック海王星ネプチューン】」

剛雷。




極太な雷がエルダム目がけて落ちると、放射線状に雷光が拡散し、その光に触れた波は消失していく。

ぶすぶすと鎧の部分から黒煙をあげながら、彼は不満げに空の少女を見上げた。


「ついにぼけましたかな?聖女殿。

私の記憶が確かなら、我々は味方同士であったはずですが?」

「ぼけてなどおりません。

どうやら神具の調子が悪いようです。

怪我がないようで安心しました、エルダム・ウィル・ウィダート」

「ええ、先ほどまでほとんど無傷でしたが」

ふっふっふと黒い笑みを浮かべて、両者は嗤っていた。



「あれ、わたし空気?」

リティの言葉はむなしく宙に解け消えた。

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