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正史

始まりの神【α(アルファ)】(世界神話より抜粋)

種族神として、最初に誕生した神。

その風貌等については記述されたものは全て消失しているため、どのような姿、形をしていたかは現在でも不明。

しかし、その誕生には人が絡んでいるという。



「神を生み出したのは人、か。

だが、神を生み出すつまりは【蒼輝石】を使う必要がある。それだけの技術を当時の人が持っていたのか?」

そのウィナの問いにミーディは首を振る。

「いいえ、当時の人にその技術も知識もないわ。

技術と知識は流出したのよ。


ある魔族が人にね。」

「理由は――自身の存在意義について悩んでいた……とかか?」

「!

そうよ。

眷属が生み出した魔族、魔王は人にとってみればその姿と力は脅威であり恐怖だったわ。

だから自然と忌み嫌い、衝突していくのは当然の流れだった。

魔族、魔王からしてみれば、自分達は世界の調整という大義があった。

世界を存続させるために不必要な力の集約を嫌った。

そのため、ある一定以上の人口集約した街は魔族によって狙われ、陥落していった。


そんなことをしていれば人が自分達にどんな感情を抱くか、その時魔族達は気付いていなかった。

人にとってみれば普通に生活しているだけなのにこちらを攻撃してくる彼らが理解できなかった。

理解できなかったがために、人は、彼らがこちらを殲滅させようとする悪であると認定し、敵として相対するようになっていった。


これが人と魔族達の戦争の始まり。


人は、圧倒的すぎる魔族、魔王を打倒するために魔法などの研究に力を入れ始めた。

その研究の中で生み出されたのが【生輝石】【根源石】と呼ばれる輝光鉱石技術。


相手の圧倒的なエネルギーに真っ向勝負を挑んでも勝てない。

だからといって不意をついてからといって相手の防御障壁を突破できない。


ならまずはその防御障壁を突破できるだけのエネルギーを生み出すことを人は考えた。

打倒魔族、魔王のために死んでいった勇者、兵士。またそのどさくさにまぎれて犯罪を犯そうとする人などを実験材料にし【生輝石】、【根源石】は精製することができた。

それにより障壁を突破させ相手に手傷を負わせることは可能になったわ。


でも相手を戦闘不能にまで持ち込むことは難しく、人は更なる力を求め、そして魔族側も人が侮れない存在になっていくことに恐怖を持ち、大義を忘れ人を淘汰していった。

長い戦争状態が続き、その状態に慣れてしまった次世代の人や、魔族へと移り変わる頃、一つの事件が起きた。


それが魔族である女性と、人の男性の恋愛。

魔族の中でも有数の力を持つ女性と、片や人の中で研究者として高い地位にいる男性。

なれそめまではわからないけど、2人は互いに惹かれ恋し、愛し合っていったわ。


当然周囲はそれを許さない。

2人は話し合いが必要だと訴えたものの、もう戦争は止めるに止められない状態に陥っていた。

2人の意見は通ることなく、そして悲劇が起きた。



魔族の女性は人によって殺され、その亡骸を実験して成果をだせと恋人だった男に渡された。

結果だけ言えば、男はその実験にて【蒼輝石】を発見し、その構築技術をもって始まりの神【α(アルファ)】を生み出した。


それから戦争は一気に人優位に進んだ。

蒼輝石を核として生み出された存在――【神】を旗に、怒濤のごとく魔族を蹴散らした。

いつのまにか、魔族はその勢力を半分にし、ついには人と同じくらいの数しか存在しないところまで淘汰されていったわ。

このままではまずいと、魔王はここいらで手打ちにするべきだと人に打診した。

しかし、

人はとりあうことなく、魔族、魔王を全て駆逐しなければ人は生きてはいけない。

そんな脅迫観念に支配され、戦争は殲滅戦へと次第に姿を変えていった。


戦争が終結したのは、それから1年後。

始まりの神αの暴走による、統一国家の壊滅。

これにより人はかっての人口の9割を失うことになり、多くの技術、知識も失うことになる。

魔族側もその個体数を激減させ、魔王もまたその力の大半をなくしていた。

両者がそんな状態であったため、必然的に人によって生み出された神々が人と魔族を支配するようになった。

魔族と人の住む領域を分け、魔族からは魔王を人質にし、人からは崇め奉るように刷り込みを行った。


そして、現在に至る――。これがこの世界の正史よ」

「なんとも、報われない話だな」

肩をすくめるウィナに、ミーディはそうねと同意した。

「……その研究者の男は、その後どうなったんだ?」

「彼は、蒼輝石を核として作る生命体技術を構築した後、姿を消したと言われているわ。

あとはその生み出した最初の神、αの容貌は愛し合っていた魔族の女性に酷似していたと言われているわね」

「……そうか」

ため息をつく。


「で、どうしてそんなことまで知っている?」

「それはまだ言えないわね。

でももう少しでわかるわよ」

(……話す気はない、か)

「俺が生きていれば、わかるということか」

「あなたは死なないわよ」

「妙に断言するな。

俺はただあんたの加護を持つだけの人間だ。

現にこうして死にそうになっているんだが」

長い昔話で忘れそうになっていたが、現在自由都市の王イーガ・ウエィと戦闘中である。

しかも腹部には槍を貫かれ、身動きすることも敵わないという。

じろりとみるウィナに、ミーディは苦笑した。

「それでも、こんなところであなたは死なない。」

すっと指先をこちらに向ける。

と、ウィナの身体の中から赤錆の魔刀が現れ、空中に静止した。

「これを使いこなしなさい。

それができれば、彼ごときあなたが敵う人間ではないわ」

「相手はこちらの能力を抑制する宝珠や、武器、防具を持っていて現在進行中で脅威だが、それでもか?」

「そうよ。

そんなことくらいで、あなたは死なない。

あなたはわたしを――のだから」

「――」

彼女の瞳をみる。

アメジストの輝きを持つその双眸に、曇りはない。

歪んでもいない。

だからこそ、彼女その願いをふざけていったわけではないと確信した。

「……それが、あんたの願いか」

「最終的な願いならそうね。

それまでに何ステップかはあるけど」

やれやれとウィナは胸中で嘆息する。

個人的に納得はできないが、それでもやらざるを得ないのだろう。

今の段階では。

「――まずは、今の現状を打開することだな」

「そうよ。

あなたには死んでもらうわけにはいかないのだから。

自分の力でどうにかすることね」

「厳しい言葉をありがとうってな」

空中に静止している愛刀の柄を握る。

そしてくるりときびす返す。

その背中に、ミーディの声がかかった。

「この闘いが終わった後、もう一度ここに来なさい。

そして全ての扉を開けてもらうわ」

彼女の宣言に、ウィナは空いた手を上げることで了承した――




覚醒する。

靄がかかったような頭の中がクリアになる。

状況を確認。

敵は一体。

天気は若干、雨が降っている程度。

しかし、空模様は不安定。現在も雷が鳴り響いている。

さいわいなことに地面はぬかるんではいない。

自身の身体。

腹部には突き刺さった槍。

魔力を霧散させる性質を持っている。

だがそれも問題ない。

体内魔力が霧散するというのであれば、体外魔力へと固定していけばいい。

「……気を失ったか?」

イーガはぴくりとも動かなくなったウィナを注意深く観察する。

少しでもおかしな動作をすれば、命すら奪う覚悟でじりじりと近寄っていく。

一歩。

また一歩。

ついに、ウィナとの距離は100メートルをきった。

そこでイーガは立ち止まる。

これ以上は危険だと、身体が警告を発したからだ。

ぎりっとナタの柄を持つ手に力を入れる。

「芝居か?」

「――似たようなものだ」

顔を上げにやりと笑うウィナ。

それが合図。

ウィナの姿がかき消える。

「っ!」

イーガの脳裏閃く言葉――転移。

実験体の中でそのような能力を持つものがいたのを想起し、対処方法を模索する。

その間、わずか数秒。

ばっと後ろを振り返り、迎撃をしようとするが――。

「っまさか!!」

後ろには誰もいない。

その代わり、先ほどまでみていた方向――つまりはウィナがいた場所に気配が生まれる。

赤錆の魔刀を構え、そのまま切り伏せようと駆けてくる彼女。


背後に回るには、あまりに血を流しすぎていたし、魔力を使いすぎていた。

魔力の制御が苦手なウィナにぶっつけ本番でそれを為すには難易度が高すぎたのだ。

それゆえに彼女の行動は、イーガのもくろみをいともあっさり崩した――。


目前にせまる脅威。

先手はとれない。

ならば自身のナタで受け止め、そこから基点として相手を制圧する。

すぐさま思考を切替、イーガはカマイタチのように鋭い斬撃をナタで抑えようとし――

「!!?」

驚愕する。

先ほどまでは普通に受け止めていたのにも関わらず、彼女の斬撃はバターを斬るようにしてナタを切り裂いた。

まずい。

そう判断し、後ろへ跳躍しようとする。

だが。

刀を振り切ったはずなのに、彼女の次の斬撃が側面からやってくる。

「――速いっ!!」

先ほどとは比べものにならない速度の斬撃に、イーガはナタを再び生み出し、前へ踏み出した。

避けることはもう無理。

ならば相打ちするまで。

彼女の斬撃は自らを覆っている防御障壁には通じない。

衝撃にさえ気をつければ、なんとかなる。

そう思って渾身の力をもってナタを振り下ろしたっ!!




決着は――。




「がはっ……っ」

イーガは血を吐き、そのまま前のめりに倒れる。

どろりと。

大地に紅い液が水たまりをつくる。


斬り合うあの瞬間。

イーガの斬撃がウィナを斬るよりも早く、ウィナの赤錆の魔刀が彼の身体を切った。

ただそれだけのこと。

イーガは流れ出る血を気にすることなく、勝者となった彼女を見上げる。

「……その刀は、まさか……神剣レティウスかっ!?

カディアガルド皇国時代に造られた、作り手が不明の聖剣をなぜ……っ」

「そんなことは俺にもわからないが、

とりあえず俺の勝ちだ。イーガ・ウエィ」

にやりとウィナは笑みを浮かべた。

満身創痍での勝利だった。



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