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激闘

基本、人は群れを為す生物である。

このことは人だけではなく生きているもの全てに該当する言葉であるといえよう。

何故群れを為すのか。

それは単体として生きていくことが難しいからである。

人には脅威が多くある。

それは自然であったり、どう猛な肉食動物であったり、この世界で言えば魔物であったり、魔獣、神、魔族などなど。

肉体的なことで言えば、彼らは明らかに人よりも優秀である。

そもそもとして人は単体であり、肉体的強度だけでいうなら生命体の生存カテゴリの中で最下位とは言わないまでも、

その周りに位置する存在である。

しかし、

人には、群れを為す本能と、知がある。

それこそが種を今まで絶やすことなく続いていけることを示し――、

それこそがこの終わりのない破局を絶えず続けてきてしまったことを示している。


すでに物語は終わっている。

しかし、物語は続いている。


それこそが絶望というものであろう。


皮肉にも人に群れを為す本能と知があったがために、

最大の敵は同じく人であったのだ。




連綿と続く歴史。

人は生きた時代しか歴史を見ることができない。

しかし、

彼女には能力があった。

そして秘密もあった。

ゆえに、彼女はこの終わりのない物語の最大の傍観者として現在も生き続けている。

そう、彼女を知っているものは彼女を盟主と呼ぶ。




迫り来る槍の切っ先。

それを前髪を切らせる程度でかわし、空いた手を傭兵のみぞおちに軽くあてる。

同時に一瞬だけ自己の魔力を圧縮し、掌に乗せさらなる一歩を踏み出す。

そうすることで爆発的な衝撃となって内から外へと螺旋を描く波動となり、傭兵の身体の中を蹂躙する。

「がっ!?」

思いっきり血を吐き、そのまま倒れ込む兵士。

しゅっと、

わずかに足が止まった彼女の死角から鋭い音が。

しかし、予想していたのかウィナはわずかにかがむことでやはり紙一重でかわす。

銀閃が彼女がさきほどまで立っていた場所を勢いよく通り過ぎる。

見上げたウィナと、彼の視線が絡む。

お互いににやりと笑みを浮かべ、ウィナはそのままわざと体勢を崩し、ごろりと転がり起きざまにこちらを警戒している傭兵達に

懐から取り出した石を投げつける。

ごっ!!

となかなかいい音がし、男達はみぞおちを抑えながらそのまま昏倒した。

「なかなかやる」

「お褒めの言葉、ありがとうっていうところか」

立て膝状態からゆっくりと立ち上がり、周囲を見るウィナ。

今までの攻防で傭兵達は全て地面に這いつくばっている。

意識はない。

立っているのは、自由都市マイラの統治者であり守護者も兼ねるイーガ・ウエィただ1人。

「能力は封じているのだがな」

「残念だったな。

もともと能力はあればいいくらいの感覚で使っている。

こういう事態であっても問題はないさ」

「なるほど、さすが……。

しかし」

そこでイーガの顔が怪訝な表情になる。

「その力。

おそらくは自身のものだけではないな。

おまえの蒼輝石――コアにいる誘導者ナビゲーターのおかげだろう。

誰だ?」

「誰、ね」

ここは過去の世界。

まだシルヴァニア王国は存在していない。

ゆえに彼女の名前をかたったところで彼がわかるはずもない。

ウィナは肩をすくめ、

「さて。今決着をつけるのにそんなことを気にしても仕方ないだろ?」

「もっともな意見だ。」

うなずくと、イーガは何もない空間からナタのような片刃の剣を出す。

装飾はほとんどなく、ただ武器として作られた。

そう殺傷するだけの意識しか、その剣から読み取れない。

いわゆる一つの妖刀、もしくは魔剣というたぐいのものであろう。

今まで、イーガは傭兵達が使っている、【神葬】という槍を獲物として使っていた。

あれはいわゆる神や、魔族といった蒼輝石をコアとして生体活動をしている生命体に対して必殺の威力を持っている。

しかし、人にとってはただの少しばかり鋭い武器程度であるので、ただの人間にはそれほど脅威なものではない。

問題になるのは、ここで蒼輝石をコアとする生命体に、シアやセシリア、そして何故か自分も入るかもしれないということだ。

現に能力を封じる力を持つらしい、【無為の宝珠】はその力を発揮しているため、【領域探査】が使えない。

ただ圧縮は大規模なものでなければ使えるようで、先ほども少し使用ができた。

固有武具、赤錆の魔刀も鞘を抜いている状態にもかかわらず、傭兵達の防具を突破できない。

突破できないだけだから、盾に使っている状態であるが。


自身の身体が一体なんなのか、確証はないが人ではない可能性が高い。

その辺の真相というのもこの戦いに生き残ることができればわかってくるものだろうと思う。

まずはこの場を制すること。

これが最優先事項だ。

それは、相手もそう思っているだろう。

「……それがおまえの固有武具か」

「固有武具……なるほど、そういう言い方もあるか。

そんなものだ」

半身に身体を動かし、ナタっぽい剣を構える。

「行くぞ」

いって駆け出すイーガ。

鞘はない。

抜き身のまま握られるナタっぽい剣。

(特殊能力があると見るべきだろうな)

こちらの能力が通用しないから、イーガもまた使用できないなどと楽観的に考えない方がいいだろう。

となると、かわすか、はじくか。

(まずはできる限りかわす)

さいわい、イーガの腕前はそれほど高くはない。

ウィナは身のこなしだけでかわしてのけた。

そしてうまれた隙に礫を投擲することで、打倒できればと思ったが。

「そうはうまくいかないかっ」

舌打ち鳴らし、始めて相手の剣撃を赤錆の魔刀で受け止めた。

「書類仕事で身体がなまっているということはないんだな」

「ふっ、自由都市を統治に頭だけでどうにかしていると思ったかな?

そんなわけがない」

ぐっと力を込めるイーガ。

「荒れくれもの達を束ねるためには、時には力も必要だ。

弱いままではいられない。

強くなければ、ただ喰い殺されるのみっ!!」

「それは同感だがなっ!!」

キンっ。

互いの武器が衝突し、金属音を鳴らせる。

「力に力で対抗していれば、結局、それ以上の力によって喰い殺される。

さっきもいったがなっ!!」

「そんなわかりきったことなど今更っ!!」

ぎしぎしっとイーガはナタに更なる力を込める。

筋力だけなら向こうの方は上。

ウィナは瞬時に判断し、わざと拮抗していた力を弱める。

とイーガはその弱まったところへ更なる力をもってそのナタを振るう。

が、わかりやすくなった力の方向性をウィナは見誤らなかった。

相手のナタを振るう力に利用し、イーガの側面を移動そして脇腹をだんと蹴りその反動で宙空に舞う。

わずかに体勢を崩すイーガ。

チャンスといわんばかりに、赤錆の魔刀をイーガの脳天めがけてなげつけた。

こちらの攻撃を防御する特殊防御膜【黄昏】が発動するが、

衝撃くらいは通るのは先ほどの傭兵達との戦闘で理解していた。

しかし、

これくらいで決まるなどとはウィナも考えてはいない。

空中を一瞬だけ生み出した魔力障壁を足場にくるりと回転し、先ほど放った刀とは別方向から蹴撃の強襲。

「ふっ!!」

力強い呼気とともにイーガは迷いなく、刀をナタの腹で受け止め、空いた手を大地につきそのままウィナの足裏に合わせるように蹴撃を放つっ。

「!」

ウィナの目が見開かれる。

この展開は予想していなかった。

だが、すぐに動揺を消しイーガの足が自分の足裏に合わさると同時に膝を折り曲げ、衝撃を和らげる。

飛ぶ。

くるりと宙空を回転し、そのまま大地に立つ。

「っ」

わずかにウィナの顔がゆがむ。

ゆっくりとイーガもまた体勢を整え、構えをとる。

「……足をやったか」

「おかげさまでな」

イーガの問いにあっさりうなずくウィナ。

「悪いが、手加減はしない」

「当然だ。

逆にここで手加減されると罠を疑うがな」

にやりと笑うウィナに、イーガはふっと微笑で返した。

場所がこんなところで、殺し合いなどしていなければオープンテラスで語り合う彼氏彼女のようである。

と。

ぱりんっ!

近いところから何かが割れるような音が聞こえてきた

「――リティ……か?」

「どうやら時間があまりないようだ。ここで決着をつけよう」

イーガの眼光が鋭くこちらを捕らえる。

ウィナは無言で赤錆の魔刀を構える。


勝算は五分。

やはりこちらの能力が通じないのが相当痛い。

相手を戦闘不能にするのに必ずしも武器が必要というわけではない。

しかし、徒手空拳で自身と同じくらいの剣技の技量をもつ相手と闘ってそれを為すのは困難。

(こんなことならもう少し武術とかそういうのを習っておくべきだったな)

今更後悔してもしょうがない。

唯一の勝機といえば、相手はこちらを殺すのではなく捕らえるというところか。

それにしても結果的にうまくいけばという程度だろう。


じりっと重心を移動させながら、相手の隙をうかがう。

隙なんて見つかる相手ではないが。

(まいったな。

こっちからせめてその間に相手が隙を見せたら撃つ。

ってくらいしかないぞ)

「来ないのか。ならこっちからいこうか」

好戦的なことを言いつつ、先手はイーガがとった。

ナタを構え、いきなりそれを投げてきた。

「なっ!」

先ほどの意趣返しとでもいうのか、イーガは武器を投擲し、なおかつこちらにむかって駆けてくる。

(ナタの軌道は……読めたっ)

紙一重でかわし、体勢を崩さずこのまま迎撃を――

「――【大剣】と為せ」

「っ」

変化は顕著に起きた。

飛来していたナタが、いきなり両手剣クラスの大きさへと形態を変化させたのだ。

しかもこちらはすでに紙一重で回避中。

つまり――。

「ちっ!」

首を刈るようにせまる死神の鎌とかした大剣の一撃を赤錆の魔刀で受け止める。

足が止まる。

その決定的隙をイーガが見逃すはずがなかった。

握りしめた拳が顔へと迫る。

(みえみえすぎるっ!!本命はこっちかっ)

ただ殴りかかってくるには不自然な体勢。

そう、イーガは右手でこちらの顔を狙いつつ、左手でこちらのみぞおちへと狙い定めていたのだ。

(――どっちかは喰らう。

なら)

顔の方を防ぐ。

脳震盪など喰らうとその後が続かない。

といっても鳩尾に一撃を食らっても続くとは限らないが。

空いた手で顔に迫ってくる拳の一撃を払う。

そして、お腹に力を込め一撃に備える――。

「くっかはっ……っ」

視界が暗転しそうになる。

思った以上に容赦がない。

けど、意識はなんとか保っている。

ナタの一撃はすでに受け止め、ナタも彼方へと飛んでいっている。

柄をぎゅっと握り、手首をかえして逆袈裟にイーガを斬ろうとした時っ。

「な――に?」

腹部に突然襲う灼熱感。

ちらっと見ると、深々とそう槍が突き刺さっていた。

紛れもなくそれは神葬――。

倒れ込みそうになるところをなんとか足を踏ん張ることでこらえた。

「これで終わりだ――」

いつのまにかイーガの手にあるのは先ほど放ったはずのナタ。

いや。

ここでウィナはあることに気付く。

足元からほのかなな光。

土の大地だったはずのその場所に、光の軌跡。

そういつのまにか足元に魔方陣が展開されていたのだ。

そして、近くに槍を打ち出す機構を持った投擲器具が存在していた。

「神を殺すには、神葬、無為の宝珠、黄昏だけでは足りないというわけだ。

一番、確実なのは相手を束縛し無力化してから一撃で仕留める。

それがもっとも安全で、適切な対処方法だ」

「まさか、束縛の魔方陣とは驚いたな……。

いつ張った?」

余裕の笑みを浮かべてみせるウィナ。

本当のところ余裕など欠片もない。

神葬で貫かれたせいか、体内の魔力が霧散し意識が朦朧としていた。

(まずいな……、このままじゃ確実に捕まる。

俺が捕まれば、後はリティ頼みになるが……)

あいつの目的がいまいちわからない。

しかし、

あいつの目的が自分が生きていることが前提であれば、リティは救援にやってくるだろう。

(……ま、それは本当に最後の手段だな)

一太刀。

あと一太刀、赤錆の魔刀を振るうだけの力くらいは残っている。

不用意に近づいてくるものなら渾身の力を持って打倒する。

腹部から出血が止まらないのにも関わらず、いまだ闘志が衰えないウィナに、イーガはナタの柄を再度握りしめる。

「……まるで手負いの獣だな。ウィナ・ルーシュ」

「敬称はやめたのか?」

「似合う敬称が頭に思い浮かばないな。」

イーガは近づかない。

そう、すでに決着はついている。

このまま時間が経てばウィナ・ルーシュは出血多量で昏倒する。

突き刺さった神葬は、核には当たってはいないが構成している魔力を霧散させているため、

蒼輝石を核とする生命体の持つ驚異的な回復力、もしくは復元力は使えない。

だからあとはただ待っていればいい。

手負いの獣が一番危険だ。

現に彼女の双眸は凄惨な輝きを帯びている。

ゆえに、イーガ・ウエィはその場から動くことはない。




(……さすがだな)

敵ながらもあっぱれだと、ウィナは胸中でつぶやく。

槍を抜こうにも力がまるっきり入らない。

血は今もだらだら流れている。

意識が朦朧とする時間が増えている。

もう30分ももたないだろう。

そして、そうなった自分に彼はとどめを刺すことなく、蒼輝石へと変化させそのまま実験材料として使うだろう。

まさに八方手詰まり。

手はない。

が、

にやりと嗤う。

手が出ないなら足を出せばいい。

足が出ないなら、頭を出せばいい。

手段が一つだと思うから、可能性に限界が生じる。

求めるのは結果。

その結果に対して自分が今払える最大のコストは――

(……命だな)

自分だけが倒れてしまうのならそれほど問題はない。

問題なのは、自分が倒れることで仲間まで被害が被るということだ。

それだけは絶対許せないことだった。

ならば、払う。

この命を代価に、奇蹟を起こす。

奇蹟は願うものではなく、自分で起こすものなのだから――

だから。

そうウィナ・ルーシュは言葉を紡いだ。




「――我が身、我が魂を対価として我が本体・・に願い奉る」

これは呪文でも、願いでもない。

ただの言葉。

しかし、ただの言葉であるこの言葉が絶対届くものだとウィナは確信していた。


ここに来るまでいろいろと考えた。

自分は一体、何なのかと――


地球と呼ばれる星で生まれた、XY染色体を持つ生命体。

しかし、今はXXの染色体を持つ生命体として生きている。

その理由は、加護。

人以上の力を求め、その対価に己の身体を捧げた。

そうして得たこの力。


力を使えば使うほど、疑惑が浮かぶ。

限界のない力。

心の中の壁を越えることで使用できる力の増加。

その先にあるものは何なのか?


セシリアの蒼輝石の使い方と、イーガの話で確信した。

加護は、力を得るものではない。

加護の本来の役目は、高位存在を破滅させないための保険。

つまり、高位存在に何かあった場合に成り代わるための生け贄。

そのために器を選び、自身の核と分け与えることで力を授け、器に自身を憑依させても問題ないように器の強化、拡大を浸食という形で行っている。

それが加護の一つの正体だろう。

(……違うか?ミーディ・エイムワード)

胸中の問いかけ。

同時に視界が反転する。




いつもの白い世界。

自分の目の前に、腕を組みこちらをじいっと見ている女性がいる。

言わずもがなミーディ・エイムワード。

「久しぶりか」

「そうね。

……さっきの問いだけど、一部分はあっているわ。

この世界における加護の仕組みはおおよそその推測通りよ」

憮然とした表情で言うミーディ。

「この世界における本当の神は、創造神とその眷属のみ。

種族としての神は、彼らと違いその能力、および身体、全てにおいて大幅に劣る。

でも彼らはこの世界の覇権をとれるほどに強い生命体。

創造神の眷属が一柱――既知と未知を司りし者は、いずれこの世界に"神"が生まれることがわかっていた。

そして、彼らが何を求めるかも知っていた。

そんな彼らに対抗できるものは、やはり神のみ。

眷属である自分達は、世界を生存させるために法則を体現しなければいけないがために、対抗することができない。

ならば、生み出すのみ。

そうして【魔族】、【魔王】が生まれた。

彼らに与えられた使命は、後に生まれてくる種族としての神の牽制と、世界の均衡を保つための調整。

本当なら【神】を生み出させないようにできればいいのだけど、既知未知を司りし者にとっても【神】を生み出させない筋道を視ることができなかった。


苦肉の策として対抗手段として生み出された【魔族】と【魔王】だけど……」

「今や、【魔王】は破れ、種族としての神々に拘束、軟禁。

魔族は、魔王を助けるために、神々によって提示された条件をこなすように現在動いている、か」

「種族としての神々は、狡猾で強かった。

しかし、既知と未知を司りし者はこの事態を想定していないわけではなかった。

ただ、想定として最悪の事態ではあった。


既知と未知を司りし者は一つの預言書を残した。

自身の持つ、既知と未知を合わせた本【真なる預言書】。

すでに法則として体現していた眷属達に、今の状況を好転させることはできない。

だから、彼女達はこの世界に生きる人に未来を託した。


……思考放棄に、責任放棄といえるけどね」

「まったくだな」

「でもある意味で、それは正しいわ。

――なぜなら種族としての神を生み出したのは人よ」




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