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零点を統治せし者

傭兵達は、さっきから身体をおそう悪寒に必死に耐えていた。

何か、そう何か踏んではいけないものを踏んでしまった。

それが適切な表現だろう。


目の前にいるのはただの少女。

長い赤髪を風になびかせ、ひどく色の濁った双眸をこちらに向けている。

それだけでまるで大型の肉食獣の前に立っているような感覚に襲われる。

外見と中身が違うのではないか。

傭兵達は思った。


「まさか、そんなものを持ち出してくるとは思いませんでしたねー」

と、リティは傭兵達の持つ【神葬】【無為の宝珠】【黄昏】を見る。

あっさりとした言葉とは裏腹に、その眼差しは珍しく怒りの色があった。


リティ・A・シルヴァンスタインを知っているものなら驚くだろう。

彼女が怒るところを見たことがないのだから。


いや仲間達とのやり取りで感情豊かな表現をしているが、彼女は決して本気で怒るということはない。

感情を知らないというわけではないだろう。

どちらかといえば、感情を忘れているというニュアンスに近い。

だから、セシリアの意識がはっきりしていれば気付くだろう。

自分に似ているのではないかと――。




「あの時まとめて廃棄したはずですけど……、物好きさんがいるもんですねー」

戦場に似使わない彼女の間延びした声。

しかし、傭兵達にとっては恐怖以外なんでもなかった。


それでも傭兵の内1人が、彼女に向かっていったことは褒めることだろう。

手に持つ槍を振るう。

【神葬】は、文字通り神を葬送するための槍。

その特性ゆえに、蒼輝石を核とする生命体でなければただの鋭い槍でしかない。

だから、彼女には利かない。

そう傭兵達は思っていた。


だが――


槍はあっさりとリティの右腕に突き刺さりそこから出血がほとばしる。

「り、リティさんっ!?」

驚くグローリア。

リティは平然と、男を蹴り飛ばし槍をあさっての方へ投げ飛ばす。

そして己の血を口元にやりちろちろと傷跡をなめた。



「ふっ、は、ははははははっ!!!

おまえもそこの女と同存在というわけだっ!!

ならば怖くもなにもないっ!!」

傭兵のリーダーの笑い声に全員の目に生気の色が宿る。

先ほどまで彼らを縛っていた恐怖は今はない。

たった一突。

それで相手を殺せる。

イーガからは不殺の命を受けていたが、それよりも優先する事項に傭兵達の命がある。

自身の命が危うい時は、殺してもいい。

そう命を受けていた。

ゆえに、彼らは今ここに彼女の抹殺を心に決めた。




しかし。

彼らはまたも自ら死刑執行の紙にはんこを押したことを気付いていない。

最初に感じた空気。

それが真実だったのだ。




息を吹き返した彼らにリティは静かにつぶやいた。

「わたしの二つ名に【零点の統治者】というものがあるんですよ」

男達は訝しげな表情を浮かべる。

ここにきて現実逃避か、そう考えた傭兵もいた。

彼女は続ける。

「零点とは、基準点です。

物事には、基準があるから様々に分類できます。

あるか、ないか。それすらもその間に境界があるから分けられます。

そこがあいまいだとあるかないかすらも分けられません」

何を言っている?

傭兵達に困惑が広がる。

「某東の物語の、紫さんの能力とも似てますけど、つまりですね」

リティは嗤った。


その笑いに傭兵達は凍り付く。

「こういうこともできるんですよー」

そう言った瞬間。

傭兵達の顔色が一瞬に変わる。

正常な色合いから青色へと。

目を血ばらせ、空へと手を伸ばす様子は、まるで何かを求めているようであった。

真実、彼らは求めていた。

あるはずのものが彼らの周りだけなくなったのだ。

生きるための最大の要素が一つ、空気が。

悲鳴、嗚咽。

そんな様子の彼らに対して、一切の慈悲をもたずリティはただ静かに見ていた。

やがて、彼らは目を大きく見開き、突然咳き込み始めた。


「今は空気をなくしましたが、やっぱりこういうのは趣味じゃないですねー。」

ひょうひょうとした様子のリティに、1人の男が苦悶の表情を浮かべながら問いただした。

「くっ、貴様……なぜ、能力が使える!?

こちらには貴様の能力を封じる【無為の宝珠】があるのに……なぜだっ!!」

「あんなまがい物程度で、わたしの力を封じられるとでも思います?

ちゃんちゃらおかしいですねー。

まあ、でも今のウィナさん達にはキツいでしょうし。

早めに応援にいかないとまずいですから――」

ぺこりと一礼。

「お別れですね。――永遠に」

それが起動言語。

傭兵達はまばたきをする間もなく、氷像と化した。

「では、某吸血ロリっ子をまねまして――」

ぱちん。

指を鳴らす。

どどどどどどっ。

氷像に幾つもの切れ目が走り、砕け散った。

空中に氷の結晶が舞う。


「やっぱり、氷は綺麗でいいですねー。

全てを凍らせてくれますし」

何か懐かしいものを見るような眼差しを向け、リティは微笑んだ。





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