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過ぎた力

予想はしていた。

だが外れて欲しいと願っていた。


しかし、そういうとき大抵思っていることと逆のことが起きてしまう。

全くもってままならない。

ウィナはため息をこぼしながら、イーガ・ウエィを見た。


「で、俺達を襲うのは輝光鉱石にするため……か」

「それもあるが、それよりも彼女の方が興味深い。

君たちがセシリアと呼んでいる彼女だ」

「理由は?」

「いまさらそれを言うのか?」

わかっているのだろうと。

「……やれやれ、一つ聞こうか。

おまえの目的はなんだ?」

ウィナは、目を細めイーガを見据える。

彼はふむと一呼吸おくと、

「少なくとも世界平和、その逆である世界征服どちらでもない。」

「それは、僥倖。

じゃあ、なんだ?」

イーガは肩をすくめ、

「簡単なことだ。

私が今治めている自由都市を守る。

ただそれだけだ」


――嘘は言っていない。

心底そう思っているのだろう。

つまり、この男は自身の街である自由都市マイラを守るためならどんな禁忌も、

どんな手段も講じるとそう言っているのだ。

総じて、こういう相手はやりにくい。

なぜなら、自身と目的、現実と理想、それらの距離感を間違えず一歩一歩進んでいく

忍耐強さを持っている場合が多いからだ。

自滅をしないような、注意深さもあるのだろう。

でなければとうの昔に輝光鉱石の事故を起こしているはずだ。


輝光鉱石は、ウィナ自身も研究していてわかったことだが非常に危ない。

バランスが絶妙といったところであろうか。

固形化したエネルギー結晶ではあるが、少しでもバランスを崩すようなことをすれば、

一瞬にして気体化、つまり昇華、相転移現象が起こり周囲全てを巻き込み大事故へと発展してしまう。


「大国に挟まれているゆえに力を求めるのはわかるが、な。

それにしては過ぎた力だと思わないか?」

「どんな力、どんなものであっても正負、両方の側面がある。

君が言っているのはその一面に過ぎない。

違うかな?

ウィナ・ルーシュ」

動揺もせずに切り返してくるイーガに、ウィナは片目をつぶってみせ、

「まあ、間違ってはいないと思うがね。

ただ、それにしては犠牲者が出すぎだと思うがな」

「……苦しまなかったとでも思っているのか?」

表情が消える。

「なるほど、すでに煩悶は通りこしていた、か」

「当然だ。

私は地獄に落ちる。

その覚悟はすでに済ませている。

しかし、私が生きている間に自由都市マイラをおとさせはしない。

たとえそれが神であっても」

まっすぐな眼差しを向けている。

その瞳は、濁ってはおらず透明。

恐ろしいまでに自身というものがいない目をしていた。

ウィナはやれやれと胸中でため息をつく。

(……こういう輩は嫌いではないんだがな)

あの自身の研究のために村人や旅人などを人体実験をおこなったジルダと比べても雲泥の差だ。

あの男は自分のことのみしか考えていなかった。

自身は手を汚さず、相手をおとしめる。

そんな人間をウィナは許すほど人間できていない。

某漫画のライバル的存在の言葉ではないが、

基本、悪・即・斬の信念に生きている。


人は生まれながらにして悪である。

ゆえに教育しだいで善にもなるし、また逆に悪でもある。

何もしないのであれば、それは間違いなく悪であろう。


理性ではなく本能が勝つのだから。




「……気にいった人間を倒さなければいけないのは、正直、気がめいるな」

赤錆の魔刀を構える。

相手はこちらの力に干渉するすべを持っている。

ゆえに赤錆の魔刀が力を発揮することは難しいだろう。

だが、

それでも牽制や、捌きなど手の内を増やす手段には使える。

空手には巨石から削り取った石。

こちらの雰囲気に気がついたか、イーガの周りにいた兵士達が後ずさる。

それを彼はとがめることもせず、

一歩、前へと踏み出した。

「そういうのならこちらの手伝いをしてもらいたいのだが」

「そうはいかないのもわかっているだろう?

どのみち、敗者は勝者に従わなければならない。

俺に言うことを聞かせるなら、俺を倒してからいうんだな」

「なるほど……なら、君を倒して私のモノにするとしよう」

気配が変わる。

イーガ・ウエィを中心に、風が螺旋を描いて小石や砂などを吹き上げていく。

ウィナは、視界に入るものは手で振り払うようにしながら彼からは目を離さず、凝視する。



「……なるほど、自分をも実験対象としたのか――」

ウィナの視線の先、イーガ・ウエィはにやりと笑みを浮かべる。

自嘲した笑いのようにも思えた。



「生身の人間が輝光鉱石――蒼輝石を制御するには、それを制御する術式だけでは不完全だった」

イーガ・ウエィの肌に奇怪な文様が浮かび上がる。

「魔族、そして神。

高位生命体に、人でいう心臓はない。

彼らにあるのは核。

そしてその核が、輝光鉱石――その中でももっともわかっていないことが多い蒼輝石でできている。


蒼輝石はそれ一つで膨大なエネルギーを秘めている。

それこそ不自然なほどに。

ゆえにそれを核とする彼らの力はすさまじい。

人があらがえぬほどの力を制御できるその生体構造。


まずはそれを知る必要があった――」

何もない空間から生まれでる【槍】。

装飾は質素。

その鏃の中央には、目が覚めるような蒼色の宝石が埋め込まれていた。


「人は、【肉体】【精神】【魂】の3要素からなる生命体なのは誰でも知っている。

しかし、魔族や神といった高位生命体にその理屈は存在しない。


いや一見すれば同じ要素を持った生命体には見えるが、事実は違う。

彼らは【精神】【核】によって成り立っている生命体。

【肉体】がない。

だが、それでも何かを食べることもできれば、何かを触ることもできる。


では彼らの【肉体】に当たるものは何なのか?

それこそが、【精神】だった。


そして、精神ばかりではなく、総じてエネルギーというものは収束すればするほど実体化し固体化する。

高位生命体は、精神の一部を固形化することで肉体の役割をさせている。

これを【殻】と私は言っている」

イーガ・ウエィは、空間から出現した【槍】を手に持ち、切っ先をこちらに向ける。


「蒼輝石を人という器が制御するのは不可能だ。

ならばその器を広げてしまえば問題ない。


幸い、蒼輝石は精神と魂を結晶化したもの。

ゆえにその石には人格が宿る。

宿主に蒼輝石を埋め込むことで人という器の容量を広げ、

広まった分の容量が暴走しないように、石に宿った人格――【守護者】に管理してもらう。

これこそが、人の身で神や魔族と闘うための知恵の結晶だ」


「……おいおい、それは――」

つつっと綺麗に整ったウィナのあごの先から雫がしたたりおちる。


イーガ・ウエィの言っていること。

それはすなわち現代の【加護】のシステム他ならなかった。


「もっともそれだけでは不完全だ。

魔族や、神が持つのは蒼輝石の膨大なエネルギーだけではない。

彼らはそのエネルギーを人が決して越えるどころか、対等にも追いつけないほどの演算処理能力を有している。


つまり、1対1では勝ち目は5割。

それでも十分な戦果だが、私の都市を守るにはまだ不十分だ。

99%の勝算がなければ、意味がない。

そして作り出したのがこれだ」


槍をずいっと前に突き出す。

「対蒼輝石をコアにもつ生命体に対しての切り札――【神葬】。

神や魔族に対して、文字通り触れただけで致命的なダメージを与えることができる。

そして、神や、魔族の特殊能力に対応するために造った間接的な妨害機能を持つ【無為の宝珠】。

直接的な防御膜を形成する【黄昏】。

これらがあれば、普通の人間であっても高位生命体を駆逐することができる」


「まさに、過ぎた力だな」

肩をすくめるウィナに、イーガは、

「否定はしない。

それでも、都市を、そこに住むものを守るには力が必要だ。

いくら理想を口にしたところで、それを為す力がなければ、ただの妄言。

理想を口にしていいのは、それを叶える力をもつものだけだ」

迷いのない眼差し。

このイーガ・ウエィという男はもう止まらないだろう。

とっくのとうに境界を越えてしまっている。

いわゆる1つの信念というものを男は持っている。

だからといって、このまま黙ってやられようとは思わないが。

「……力による防衛は、またその力によって駆逐される。

強い力はより強い力で蹂躙される。

同じ性質のもの同士の対決は、決着がつくことはない。

それでも続けるのか?」

「無論。

一瞬でも、都市の住民にとって平和な時が築けるなら、それが偽りであろうとも問題ない」

揺るがない彼を見、ウィナはため息をつく。

「……始めるか。

お互い引くつもりはないだろうし、な」

「もちろんだ。ウィナ・ルーシュ」


そして闘いが始まった――。




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