遺跡への道
「で、結局あの男は誰も見つけられなかったと」
地にレンジャーシートのようなものを敷き、一同は介していた。
「こういうのは見つけたわ」
シア達が持ってきた謎の物体を受け取り、ふうむとうなりウィナはそれをリティへと押しつけた。
「わかるか?」
「解析魔法でもかけてみましょうかー。」
むむっと唸りながらリティはその物体に解析魔法をかける。
「便利ね、その魔法」
「そうでもないのよ」
シアの感想に、珍しくセシリアが否定の言葉を投げつける。
「そうなの?」
「そうなのよ。
今の時代はどうかは知らないけど、この魔法の解析はあくまでもその術者個人の頭の中に依存するのよ。
簡単な例を言うと、たとえばこのお菓子」
セシリアは、テリアが持ってきた非常食のクッキーを手に取る。
「これを知らない人間がこれに解析魔法をかけたとする。
もしも、その人間がそういう方面の知識を持っていれば、使用されている材料から、調理法、味の要素そういう具体的な情報を引き出せる。
けどそういう方面に疎い術者が使えば、甘い物終わりといったふざけた解析結果が出るの。」
「解析魔法なのに?」
「解析魔法なのに」
「術式は非常に簡単。
子供にだって使えるけど、その実効効果はその人間がどれだけ知識を有しているかで決まる――力量が試される魔法ね」
「わたしも魔法関係なら割と精度の高い情報を引き出せますけど……」
はあとグローリアはため息をつく。
「オールマイティな知識を持っている人間がかければそれだけ情報を引き出せる可能性が高い、か。
テリアも使えるのか?」
「一応、扱えますが。
わたしの知識は偏っていますので察してください」
「「「何を?」」」
ウィナと、グローリア、セシリアの声が被る。
「わかりましたよー」
どうやら解析結果が出たようだ。
リティはぶんぶんとその黒い棒を振り回しながら、
「で、なんだったんだ?」
「これは、道具ですね。
一種の魔法道具、儀式道具のようです」
「儀式道具?」
「……儀式道具というのは、多人数、もしくは術者以外の何かに干渉することで魔法を多角的、拡大化して行う魔法触媒の一種よ。
主に用途としては国などを覆う結界とか、対軍であれば広範囲殲滅魔法とかそういう時に使用するわね」
「それがあの遺跡にあったと。
どういうことができるか、わかるか?」
「【時間】の概念を秘めているようですねー。
使用方法は解析できたのでわかりますけど、どこで使用するかまではわかりませんねー」
「やっぱり見つかった場所じゃないんですか?」
と、グローリア。
「まあ、普通に考えればそうだな」
「……もしかするとあそこかもしれないですね」
「どこか思い当たるところがあるのか?」
「ええ、以前帝国の古文書の類を紐解いた時に読んだのですが、
この旧アスカード遺跡から北東、現在のゴルトスの丘に近い場所に、アインシュビッツ巨石群というところがあります」
「アインシュビッツ巨石群?」
「おそらくそこも旧アスカード遺跡を造った、アルヴァナ族が造った遺跡の一種だとされています。
他の遺跡群と違い、そのアインシュビッツ巨石群には現在も稼働中の魔方陣が存在しています。
アルヴァナ族が造ったものだと考えられていますが、用途は不明です。
調査自体も帝国領からも離れていますし、聖都側もそれほど熱心に行っていないため、
無所属の発掘隊からの調査からしかわかってはいません」
「その稼働中の魔方陣とやらに関係がある――と?」
「断言はできませんが、同じアルヴァナ族の遺跡から見つかったものならば、可能性は高いでしょう」
「……行ってみるか。
どのみち現状、てがかりはないし」
ウィナのGOサインに、全員行動を開始した。
アインシュビッツ巨石群。
名の通り、円柱状の巨石や、直方体の巨石があちこちに突き刺さっている。
法則性など見当たらないが、それでもここに魔方陣とやらがあるのであれば、何かしらの法則性に基づいて設置しているのであろう。
「……兵士ですね」
息をひそめ、アーリィはつぶやく。
ウィナ達は、巨石の影に隠れながらこの遺跡に在中している守備兵の数を確認していた。
「ウィナ様、魔方陣があるとされる場所は遺跡の中央のようです。
ただそこまでいくにはどうしても兵士の前を通らねばいけないかと」
「……数は?」
「2人ペアで、15組といったところです」
「――多くないか?
いくら今も稼働している遺跡だとしても、その数はおかしい」
首を傾げる。
その仕草に、何故か女性陣の頬に朱色がはしる。
「確かに重要な遺跡なのかもしれませんが、この数はまるで――」
アーリィはそこで口をつぐむ。
言いたいことは理解できた。
そう、まるでそれ以上の価値がある。
もしくは現在狙われている。
そのどちらかであると。
「ウィナさん、どうしますか?」
「さいわい、こっちには相手の位置を知る手がかりがある。
今日のところは出方をみるか」
「ですねー。
じゃあ、セシリアたんよろしくー」
「た、たんとかつけないでよっ!!
……ったく。固有能力発動【聖域】」
リティに文句を言いつつ、固有能力を発動させるセシリア。
一瞬にして、内と外とは時間的にも空間的にも切り離される。
始めて体感したグローリアは、目を丸くしすぐさま術式の解析をし始めた。
「ここまできっちり境界を引ける結界魔法も珍しいですね」
アーリィも感嘆の声をあげる。
「幻術で見たけど、体感するとこんな感じなのね」
シアもぺたぺたと外と内の境界線らしい場所を触っている。
「ちょっとあんまり触らないでよ?
解ける……ことは万が一にもないと思うけど、100%ないってことはないんだから」
腰に手をあててセシリアは落ち着きのない人達へ忠告したのだった。
「ふむ、なるほど……な」
こういうときに、固有能力【領域探査】は役に立つ。
手持ちの古紙に、テリアから聞いた遺跡の略図に、自分の能力から得た守備兵の勤務割りなどを書き込んでいく。
2、3時間というところか。
朝方、現在のシルヴァニア王国地に行き、そしてそこからアインシュビッツ巨石群というなかなかハードな道のりであったためか、
結界内で寝息が聞こえてきたりする。
今現在起きているのは――
巨石に背中をあずけ、古めかしい本を読んでいるアーリィと、
珍しくグローリアに術式の説明をしているリティ。
あとは少し離れた場所から、遺跡を見つめているセシリアである。
「…………」
瞬きすらせず、ただじいっと遺跡を見つめているセシリアの胸中はいかほどなのだろうか。
アイツとやらがここにいるかといえば、果たして疑問だが。
どっちにしてもやみくもに探して見つかるというわけでもない。
「……どうしたの、マスター」
視線を集中させていたのを肌で感じたのだろう、セシリアはこちらに視線をうつした。
「様子はどうだ?」
「そうね。
……思ったよりも静かだと思う」
「思ったよりも……か」
「マスター」
何故か、セシリアの声が耳元でささやかれているかのように聞こえた。
セシリアは元の位置からは動いてはおらず、遺跡へと目をやっているままで、
「わたし、万が一の事態を想定するのがクセなの。
世の中に絶対なんてない、幸せなんて薄氷の上で歩いている危うさの中にあるものって理解している。
……だからマスター。
もしも、わたしがマスターと一緒に歩くことができなくなったら――」
彼女はその望みを口にした。