沈黙と道標
沈黙が続いている。
未来のシルヴァニア王国がある場所にたどり着くと、そこは遺跡群が立ち並ぶ。
旧アスカード遺跡。
そう呼ばれた場所だった。
「何も……ないな」
「周囲にも人気はないそうです。ウィナ様」
ふわふわとテリアの元へ飛んできたエルからの連絡を聞き、そう彼女は答えた。
「……まだわからないことはあるが、
少しづつ見えてきたな。真相が」
「しかし、肝心の目的が見えていません」
「何かを生み出したいんだろう、あの男は。それが1つの目的なんだろう」
「1つ……?
ということは他にも目的があるということですか?ウィナ様」
「たぶんな。
……まあ予想はつくが。
もしもそうなら茶番劇もいいところかもしれない」
憂鬱そうに言うウィナに、テリアは何も言わず沈黙を守った。
「旧アスカード遺跡……」
黒いフードに、ローブの青年?を探しつつ、遺跡もしっかりと探索しているグローリアとリティとセシリア達、3人。
「こんなところに遺跡があるのは知らなかったよ」
「100年くらい引きこもっていたセシリアちゃんならわからなくても当然ですよー」
「せ、セシリアちゃん?
……あのね、これでも貴女よりわたしは年上よ。ちゃんをつけるとはやめて」
「ええ?
年上なら問題ないですよー。
わたしの方が年上です」
脳天気なリティの言葉に、セシリアは腰に手をあて、
「わたしは100才以上よ。
貴女は16くらい。
ならどっちが年上か、わかるでしょ?」
「わかりますよ」
「なら――」
「やっぱり、セシリアちゃんですね」
「って、どうしてそうなるのよっ」
「もう、セシリアさんもリティさんも言い争わないでください」
まあまあとグローリアがわって仲介する。
「今は人捜しです。
ほらもう少しで集合時間になりますから」
「むう。
さすがに何も見つからないとウィナさんに言ったら締められますから、わたしはあっちの方に行ってきますねー」
リティは、北側の方向へ走っていった。
「……貴女、あのリティっていう娘と長い?」
「え?
それはどういう意味ですか?」
「仲間として一緒にいた期間ということよ」
「そうですね……。
少なくても半年以上は」
「半年か……。
あの娘って何者なのか、わかる?」
セシリアの問いに、グローリアはぱちぱちと瞬きをした。
「な、何者って……。」
「いろいろ不思議でしょ?
おかしなくらいな魔法使ったり、たまに妙な知識をさらけだしたり……。
第三者として一緒にいるとなんで誰も突っ込まないのか不思議でしょうがないのよ。
けど、貴女や、メイド服、マスター達はあまり深くその辺のことを触らないでしょ?
何か事情でもあるのかって思ったの」
「事情……」
グローリアはふうむと唸りながらリティとの出会いを振り返ってみる。
「…………セシリアさん」
「何か思い出した?」
「振り回された記憶しかありません」
「そう。それは仕方がないわね」
「それってどういう意味ですかっ!?」
涙目で、グローリアはセシリアに詰め寄った。
「あまりショックじゃないの」
そう彼女は、2人で人捜しをし始めて時に言った。
あまりにも唐突で、あっさりとしたその物言いに、頭脳明晰である青年アーリィも一瞬、何をいっているのか理解できなかったほどだ。
「昨日の件ですか?」
「ええ。
予想はいろいろしていたわ。
帝国からここに来るまでの間」
「予想の範疇でした、か」
「そうね。
予想よりは斜め上の回答だったけど、それでもああ、やっぱりって思っただけ。
所詮、私にとってはささいなことなの」
「……そうですね。
私達は」
「そう。
私達は、自身の身を守るために権力を手に入れようとし、手に入れていた。
国民からしてみれば許されないことでしょう?」
「欺いていますからね。
しかし、国民にとっても利となるのであれば、それを歓迎もいたしましょう」
「そういうところが難しいところね。
1たす1は2になら、簡単なのだけど」
「……陛下は、今回の件に決着がついたらどうする予定ですか?」
「予定は未定。
でも希望はあるかしら。
大陸を歩いてまわってみたいの。
もちろん、その時にはあなたも一緒よ、アーリィ」
「無論です。
女王陛下」
アーリィは頭を垂れた。
その様子に、シアはくすっと笑う。
「……ん?」
ふと、視線の先に何かが写る。
「どうしました?」
「何か……あるわ」
シアの言葉にアーリィも表情を引き締め、彼女の前に一歩でる。
「どこに?」
「ほら、あそこ。
あの柱みたいな巨石の横」
指示を出すシアが指し示した先に、黒い何かが突き刺さっているようだ。
周囲を警戒しながら近寄ってみると、それは黒い棒のようなもの。
アーリィの持つ武器に似ているが、材質の面で違う。
注意深く観察し、アーリィは手で触れてみる。
一応、何があったときでも対応できるようにはしているが。
「……材質は金属みたいですね……。
しかし」
「?」
「特定はできないシロモノのようです。
少なくとも、私には見た覚えがないものです」
アーリィのお手上げ宣言に、シアの瞳がらんらんと輝く。
「それは興味深いわ。持って行けるかしら?」
「ちょっと待ってください――」
アーリィは、その黒い棒を両手で握り、引っこ抜く。
意外にもすぽんと大した力を入れずに抜け出たそれをシアは、
「……針?」
評した。
形状は先端にいくにつれて細くなっているからだ。
「杖みたいですが……、私達では鑑定できないのは確かですね。
ルーシュ達に見せてみましょう」
「そうね。
……あまり気にしていなければいいけど……」
「自身の件で、ですか?」
「そうなの。
ほら本人はあまり気にしていないのに、周りに気をつかわれるのは、ちょっとね」
苦笑いするシアに、アーリィは。
「確かにそうですが、
逆をいえば、それだけ気に掛けていただいてると思われるといいのではないですか?
……私達はそういう関係を誰とも築く場所にいなかったわけですから」
「そういうふうにも考えられる、か。
贅沢な悩みだったかしら」
ふふっとシアはにっこりと微笑んだのだった。