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夜の闇にて光るモノ

「何事もなくここまできたな」

手際よく、木を運びそして火を灯す。

制御はまだまだ甘いが、簡単に火をおこすといったくらいの魔法はなんとか使用できるようになっていたウィナである。

「そうですね。しかし――」

「何故か来ていないな」

ウィナも視線を鋭くし、自由都市マイラの方角を見る。

マイラから出発して、ここまでくるまで当然ながら見張りの者が尾行してくると踏んでいたのだが。

自由都市マイラの長、イーガ・ウエィは私兵をこちらにやるほど人がいないのか。

街を出るまでずっと様子をうかがっていた者達は完全にいなかった。

【領域探査】でも確認済みだ。

「狙いは何なのでしょうか?」

「街から出れば、問題なかったのかもしれないな」

「私達の都市追放が目的――ですか?

理由がわかりませんね」

「本当に、都市追放だけが目的なら、俺達があそこにいると邪魔になるとかそういう理由だろう」

ぴくっとアーリィの片眉が跳ね上がる。

「なるほど、私達が介入されると困るようなことをするという話ですか?」

「ご名答。

ま、その証明するものもないからただの妄想という話も可能性としてはあるが。

どっちにしても今は、あの黒いローブとフードの男を追う方向でいいだろう。

なぜ100年後の未来を知っているかということも聞いておきたいしな」

きちんと薪に火が灯り、すぐ火が消えないのを確認し、

「これでこっちは大丈夫だ。

そっちの準備は?」

「ローゼルさん、ハウンティーゼさんが陛下とともにやっています。

もうそろそろ終わる頃でしょう」

「なら今日は早いところ休んだらどうだ?

昨日ほとんど寝ていないだろう」

「……そうですね。

いささか疲れが残っているようです。お言葉に甘えます」

と不意に笑顔を見せるアーリィにウィナは珍しいものを見たと、反応した。

「疲れすぎたか?」

「いえ、こういうのも悪くないと思いまして」

「?」

「帝国にいた時は、こうして人に背を任せられることがなかったですからね」

「部下はいただろ?」

「部下はいましたが、対等につきあえる人は、ルーシュ。貴女方が初めてです。

こうも違うとは思いませんでしたね。

自分以外にも守ることのできる人が身近にいるというのは」

「……まあ、何でもかんでも1人で背負っていれば、いずれどこかで倒れるからな。

人間、どんなに優れていようがそこは変わらない。

だが、周囲の人間にとってはそういう優れた人物というのは、英雄みたいなものだろう。

盲目的に信頼し、勝手に自身の理想を投影する。

そして、それが損なわれるやいなや、そういう人間ではない。と勝手な思い込みで切り捨てる。

他人に理想を見いだすのは勝手だが、それを相手の価値観全てをないがしろに押しつけるのはどうかと思うがね」

「何かあったのですか?」

「……少し、遠い記憶だ。」

ばぢっと炎がはぜた。





深夜――。

夕食も無事すませ各人リティ特製のテントのようなものの中、静かに寝息をたてている。

このメンバーの中で唯一、男であるアーリィもリティ特製の個人テントのようなものを授与されゆっくりと休んでいる。

相変わらず火の番は、自分――ウィナ・ルーシュが務めている。

【領域探査】を常時展開し、視覚的に侵入者をとらえ、そして六感を研ぎ澄ませ感覚的に察知できるようにした状態で、

静かに呼吸を繰り返していた。

意図的に複式呼吸を繰り返すことで、肉体と精神、両方を休ませているのだ。

「……セシリアか」

片目を開けると、少し驚いた表情の彼女がそこに立っていた。

「よくわかったわね。驚いた」

「気配察知は得意分野でね。

だからこうして野営の番をしているというわけだ。

で、眠れないのか?」

その問いに、セシリアは罰が悪そうに、

「ちょっとね……。

まあこういう身体だから寝なくても大丈夫なのよ。

肉体的には。」

そう言って、対面するように彼女は腰を下ろす。

しばらくお互い何も発することなく、ただ炎がはぜる音と、時折吠える狼?のような声が聞こえてくる以外は静かであった。

シルヴァニア王国にいるときは、割と不自然なほど発展しているせいで気づかなかったが、

この時代の夜は暗い。

夜が暗いのは当然かもしれないが、そういう意味ではない。

街灯も、そして近くに建物もない外における夜の深さはそれこそ人に原初の恐怖を思い出させる。

暗闇の中にこちらを伺っている何か。

自身の生命を脅かす何か。

いるかいないかに関わらず、そんなことを考えて無意識に警戒してしまう。

人は、単体で強い生命ではない。

確かに、頭脳という武器もあるがそれもたかが1人では獣の群れに襲われれば何の役にも立たない。

魔法という力がこの世界にはあるが、それも絶対安全を保証するものではない。

この世界には、魔族、魔物、神、エルフ、魔獣といった元の世界よりも手に負えない相手が普通に生活している世界である。

魔法が使える、剣が使える程度で一生生きていけることが約束されるほど優しい世界ではないのだ。

だから、人は群れるし自分たちが安全に暮らせる領域テリトリーを作り出す。

そしてその領域テリトリーを侵そうとするものを排除する。

排除されるものは、人以外の種族ばかりではない。

人すらもその条件に入ってしまえば、同種族にあるにも関わらず排除する。

排除された側は、さらに自分達を守るために新たな領域テリトリーを作り出す。

その繰り返し。

それが今の人の世界にはびこる歪みへとつながっていく。

「……今でもなんでアイツがわたしを選んだのかわからないのよ」

「……」

セシリアは、ぽつりとつぶやく。

「アイツは、たまたま目に止まっただけなんてふざけたこと言っていたけど……。

それが本当だとは思えなかった。

なんでわたしだったのか。

再三聞いたけど、それを最後まで教えてくれることはなかったわね――」

「……俺達が会ったヤツがセシリアの探している者かもしれないが」

「探しているわけじゃないのよ。

別にアイツを見つけて、どうしようかって考えていない。

そもそもアイツを自分のどのカテゴリーにいれていいのかわからない。


普通なら、復讐とか、殺してやりたいとか思うんだろうけど……。

その感情を持ち続けるにはわたしの場合は、長すぎた――」

膝を抱え込むように座っているその手にぎゅっと力がこもる。

「たぶん、わたしの中じゃ決着ついていないんだよね。

最初の頃であれば、アイツを殺してそれで全て終わらせることができたかもしれない。

でも100年。

100年だよ。

今アイツを殺したところで、わたしには何の感慨も残らないし、何も変わらない。

確信できるのよ」

「それだけのことができる力もあるし、か」

「……そうね。

蒼輝石のエネルギーはたった一つでも膨大よ。

それこそ普通の魔法使いが魔力切れに困らないくらいにね。

それがわたしの中には数百以上ある。

どういうことかわかる?」

自嘲気味に笑うセシリアに、ウィナは首を横にふった。

「どんな無理難題でも無理矢理、法則すらねじ伏せて行使できるのよ。

魔法という暴力で。

傷をつけられても自身の思うがままに再生することもできるし、

剣を向けられても、その剣を持つ者に呪いが降りかかるようにすることも即興でできてしまう。

イメージがそのまま現実化してしまうのよ。

だから常に制御していないと暴走する。

わたしも最初の頃は、その力を暴走させてしまって街一つ大穴をあけてしまったこともある。

あの時は3日3晩、食事が喉に通らなかったな……。

自分のせいで街の人の全てを奪ったんだから」

「セシリアのせいじゃないだろう?」

「それは違う。

間違い無くわたしのせいよ。

それがどれだけ望んでいなかったとしても、力あったのはアイツじゃなくてわたしだから。」

それは覚悟なのだろう。

望まず力をえて、しかしそれでも力におぼれることなく今も制御し続けている。

その在り方は人の器ではとうてい不可能なことに思えた。

(だからこそ、そいつはセシリアを選んだのかもしれないな……)

研究者にとって、その研究がちゃんと成果として残ることが何よりも重要なはずである。

可能性が高いのであれば、そこにためらう理由はない。

そいつは、セシリアの芯を見て決めたのだろう。

でなければ、そんな責め苦を100年も受け続けていられるわけがない。

燃える焔の明かりに照らされたセシリアは綺麗だった――。




そんな静かな夜はたった1つの音と光によって破られる。

「「!?」」

常人では感じることのできない何かを感じ取り、セシリアとウィナは同時に立ち上がった。

「あれは……」

空を仰ぐ。

闇の帳が落ちた夜の時間。

空を闇よりも暗い何かがもうもうと煙立つ。

そして、その発生点には不自然なほど朱い何かが揺らいでいた。


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