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メンバー加入は唐突に

「といわけで、今日から新しく転入してきたセシリアさんだ。みんな仲良くするように」

「よ、よろしくお願いするわね」

若干顔を引きつらせながら、セシリアは頭を下げた。


「転校生ネタですかっ!?ウィナさんっ!!」

バンとテーブルを勢いよく叩くリティ。

テーブルの上にある料理が揺れ、その中のスープが跳ね、グローリアの服につく。

「ああー!?

白い服にコーンスープがっ!?

あ、洗わないとっ」

てこてことお手洗いの方に走っていく彼女を見ながら、

「じゃあ、わたしはその転校生とイジめるちょっとタカビーな女の子やればいいんですよね?」

「マテ。冗談を冗談で上乗せするな。収集がつかなくなる」

「つれないですねー。

あんなにも愛しあった仲ですのに」

「ひっ、そ、そうなのっ、貴女達!?

わ、わたしはノーマルだからっ」

思いっきりひいた様子のセシリアに、ウィナは額を抑え。

「リティ。後で宿の裏こようか」

「わあ、今日の朝食はわたしの大好きなサイコロパンですねー。」

思いっきりスルーするリティ・A・シルヴァンスタイン。

「話の概要は、先ほど説明をいただきましたから理解できましたが、しかし」

安易に信用は――と難しい表情をするアーリィに。

「信用と信頼は違うものだが、そもそも完全に信頼できる人間なんていうものはいないだろう。

それはおまえが一番知っていることじゃないのか?」

「……確かにそうですね。

人には様々な価値観がありますから、信用できればそれで問題はありませんね」

コーヒーを口するアーリィ。

その姿は妙にさまになっているが、

「目にくまできているな」

「……まあ、仕方ないでしょう。

今夜の見張りはお願いします。」

「わかった。おまえに倒れられると困るからな」

「そうそう。私が困るもの」

ぷっつんとボイルされたウィンナーを満足そうに味わいながらシアも同意する。

「ウィナ様。デザートはいかがですか?」

そう聞いてくるのは何故かいつものメイド服姿で、宿の調理場から姿を現すテリア。

「何があった?」

「何があったといわれれば、少しばかり趣味の悪いものを作る方がいましたので、少しばかり脅……ではなくお話をして調理場をお借りした次第であります」

「今、脅迫っていっただろ」

「そろそろ紅茶のできあがりですので、持ってきます」

「……苦労してるわね、マスター」

颯爽と調理場へと戻っていくテリアの背中を見ながらつぶやくのはセシリア。

その物言いが少し上から目線だった気もしたが。

「でもこういうのもいいな……」

すっと目尻をさげ、彼女は穏やかに微笑んだ。

「昨日よりも今の方が可愛いわ」

「へっ?あ、ありがとう……」

シアの言葉に顔を紅くし、答え――。

すぐさま両手を振って、

「わ、わたしノーマルだからっ!!そっちの趣味ないからっ!!」

「あら、私もそういう趣味はないわ。だから安心して」

にっこりと微笑み、

「でも」

ぷにっというよりはきりっとした唇が、横に広がり。

「可愛いものは好きかしら」

「ま、マスターっ!?」

「陛下……」

諦め口調でたしなめるアーリィ。

シアはくすくすと笑ってこっちの様子を見ていた。

「あまりからかわないでくれ、見た目は俺達よりも若いが、これでも100才以上なんだ」

「ウィナさん、それフォローになってないですよー」

「あれ?そうだな。すまん」

「……悪かったわね。100才で、純情で」

ぷいっと頬を膨らませて横を見るセシリア。

その姿に、リティが鼻をおさえた。


何を考えた。リティ。


「ウィナさんー。なんですかこの歩くMOE要素。ウィナさん2号って呼んでもいいですか?」

「マテ。そのMOE要素は置いておくとして、2号ってなんだ。いつのまに1号になったんだ?」

「リティ様。

ウィナ様と同等のMOE要素をはらんだ最終兵器が現れたとお聞きしましたが」

「っていつのまに戻って来た、テリア」

「……ん?何かあったんですか?」

「グロたん。ウィナさんとタメがはれるMOE女神が爆誕したんですよー」

「本当ですかっ!?ってたんとかつけないでください。リティさん」

「マテ。MOE女神ってなんだ」

「賑やかなのはいいことね。アーリィ」

「……そうですね。少しばかり賑やか過ぎる気もしますが」

こうして朝の風景は過ぎていった。




食事を終えたウィナ達は、準備を整え都市の外へと出発した。

目的地は、あの荒れ果てた土地。

未来のシルヴァニア王国がある場所だ。

そこにあの男はいる。

「黒いフードに、黒いローブを纏った男か」

「最近、はやりのファッションなんですかねー」

ぽつりとつぶやく言葉に反応するのはリティ。

「流行りなの?歴史の流れを感じるわね……」

遠い目をするセシリア。



そんな流行りはあと100年後立ってもこないはずである。



「しかし、同一人物とかだったらイヤだな」

「誰と、誰がですか?」

きょとんとグローリア。

「いや、そのディーというヤツと、セシリアを実験したヤツと、あとはシルヴァニア予定地であったヤツが」

「……ディーはおじいさんだったかしら」

唇に人差し指をあて、シアは言う。

「お年寄りだったのは確かでしょう。

あまりお会いしたことはありませんが」

フォロー?するアーリィ。

「おじいさん?

だったら違うわね。少なくても若かったと思うわよ」

「ええっ!?若かったんですかー!!」



なぜそこで驚くリティ。



「ほら、結構年配にいった方が若い女性を無理矢理とかデフォですよね?」

「マスター……」

「諦めろ。

こいつはこういうやつだ。」

「ううっ。なんで変な子ばっかりいるのよ、このパーティ」

「「「失礼な」」」

と反論したのは、アーリィ、グローリア、ウィナである。

他のメンバーは誰のこと?といわんばかりの態度であった。



「目的地まではまだかかるの?」

一番先頭を歩いているウィナに、声をかけるセシリア。

「まだ1日、2日くらいはかかるな。

それも何事もなければの話だ」

鋪装された道路もあるのだが、まだ完全にできあがってはいなく、それに風が荒れ果てた地の砂や小石を運んでくるのでほこりっぽい。

ために口の中に入ったりするとじゃりじゃりいうしストレスケージはぎゅんぎゅん急上昇である。

こんな環境でもリティは元気で、時折、「王○○のマネいきまーす」とわけのわからんことをいい、グローリアを困らせ、シアを笑わせている。

黙っていれば常識人のテリアは、ただひたすらに何故かメイド服のまま颯爽と歩いている。

時折、思い出したかのように上を向いて鼻を押さえるのがなければ、本当にかっこいいのだが。

そんなことを考えていると、後方を警戒しているアーリィと目が合い、


大変ですね。

まあ、慣れだ。


みたいなやり取りがあったのは否定はしない。

「100年たっても、歩くのは変わらない、か」

「100年後の世界の感想は?」

「……思ったよりも変わらないかな。

もっと良くなっていると思っていたけど、こんなものなんだって」

「……人か?」

「……まあね」

苦笑するセシリア。

なにせ約100年間。

幽閉され、実験を受け続けきた彼女だ。

精神がとっくのとうにおかしくなっていても無理はないのに、未だ彼女は正常である。

(――いや、逆か。

この世界が異常だからこそ、彼女が正常なのか)


実際、何をもって正常とみるのかはその視点をどこにおくかで変わってくる。

戦争が良い例だろう。

平時は人を殺すことはタブーであるのに、戦争という大義名分がつくと人を殺すことが正しい行いであり、より多く敵兵を殺せば英雄となる。

平時でそんなことをしたら大量殺人者として処分されるのが当然であるのにも関わらず。


「でも、世界が綺麗なのは間違いないよ」

ぽつりとセシリアは言う。

そのアメジストの輝きは、遙か遠い空の彼方を見ているようで――。

「醜いとか、汚いとか。

そういうのがあるからこんなにも綺麗なものが際だって見られる。

もしも、何一つの汚れのない世界があったらそこじゃあ綺麗なものはわからないと思うよ」

「そうだな」

彼女が眺める空を見る。

うっすらと雲がその尾を伸ばしてはいるが、概ね天気は良好だ。

「気持ちいいわね」

そうセシリアは、天を仰ぎながら微笑を浮かべた。




午後――。

近くに水辺のある場所を発見し、そこでお昼ご飯という運びになった。

「ここは、俺が倒れた場所か?」

見覚えのある風景。

横にいたテリアは、はいと短く肯定した。

「野営をするにはもってこいの場所だな」

「ウィナさーん。

ご飯採りにいってきますねー」

事後承諾と言わんばかりに、リティは森の方へ走っていく。

「ちょ、り、リティさんっ!?

わたしもですかっっ!?」

「ほらグロちゃんは、最近インドア派みたいだから外にだしてあげないといけないとの親心です」

「インドア?意味がわからないですけど、間に合っていますっ!!」

「ほらほら、そんなことを言ってないで――えい」

「そ、そんなにひっぱったらこけちゃいます!!リティさんーっ!!」

「それはそれでおいしいですな」

「どういう意味ですかっ!?」




「……漫才コンビとして売り出せば売れるかもしれないな」

いい加減、リティの暴走に付き合っている身をすれば今更彼女をとがめようとも思い立たない。

とがめたとしてもそもそも聞く耳をもたないのが彼女、リティである。

「2人で大丈夫なの?

ただ単に森っていっても魔物や、獣とか普通にいるわよ」

心配そうに言うセシリアに、ウィナは肩をすくめ、

「問題ないだろ。

ああ見えてあれで結構2人ともやる。

……リティがついているからそれこそ魔王が来ても問題ないさ」

「魔王って」

それはないでしょっという顔でこっちをじろりと見る彼女。

「……まあ、たぶん事実だと思うけどな。

それにセシリアもリティ達のことは見ただろう?」

「まあ、ね」

他ならぬ盗賊達に追われていた彼女達を助けたのはウィナ達である。

確かにあの時、セシリアは倒れていたが他のイーリと、ローザは起きていた。

つまり、

「情報の共有化もできるんだな」

「そういうやり方はアイツに教えてもらったんだけどね……。

頼みもしてないのにね」

「――ところで、紫の目について聞いていいか?」

「さっきの話?

真偽のほどならたぶん間違いないと思うけど。

少なくてもアイツはそればっかり研究していたから。

そういうことで嘘をつくとは思えないと思うよ」

「蒼輝石……か」

「そう。

生命すらも生み出せるソレは、アイツにとっても研究せずにはいられないシロモノだったみたい。

おかげさまでこっちはいらぬとばっちりを受けたけど」

肩をすくめるセシリア。

「その身が心臓という人の証たる動力源では動いてはおらず、蒼輝石という核で動いている証明――か」

「わたし以外にも実験体はいて、全て目の色が変わったいたみたいだからまず間違いと思うけど」

「……いや疑っているわけじゃない。

そのことを偽ってもどっちにもメリットがない。

つまり、99%の確率でおそらく事実だろう。

だが、だとすると――」


自分はこの姿になってから目の色が変わったと思っていた。

いや実際そうだ。

それまでは漆黒の目だったはずである。

(仮説は2つほど立てられるか。

1つは、本当に自分も創られた存在であるということ。

つまり、自分にある記憶もまた創られたものである可能性が高い)


異世界に来た自分と、今の自分。

普通であれば等号が成り立つわけだが、これが不等号になるということだ。

これを証明できる方法は今のところ――ない。

冒険者として世界を巡ってきている自分だが、あまり人と関わらなかったせいもあり、

知り合いに聞くというのは難しい。

第一、自身の知り合いはみな風来坊気質の者が多く、1つのところにとどまるということをしない。

連絡手段がないのだ。


(2つ目は、創られた存在ではない。紫の目は加護によって生じたただの変化。

男性から女性へと姿を変えるくらいの変化だ。

それこそ瞳の色が変わるものくらいいるだろう。


ならば、何故瞳の色が変わる必要があるのか。

自分に加護を与えたのは【闘神】ミーディ・エイムワード。

彼女の瞳もまたアメジストだった。

何故、同じなのか。

加護を与えたという証とでも言うのか。

それとも別の意味があるのか。)


いずれにしても今、答えを出すには情報が少なすぎる。

「マスター?」

「いや、なんでもない。

ただの杞憂かもしれないからな」

口にだした言葉とは裏腹に、次第に頭の中で形になってきた加護の意味。

それを表に出すにはまだ早すぎる。

そう考えウィナは言葉を濁し、仲間達の方へ向かった。



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