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真実の夜

商談は意外にもあっさりとまとまった。

こちらは男の捕縛。対価は10000ルミエ


ちなみにルミエはこの時代の大陸で統一された貨幣である。

1Rが、100円くらいなので、10000Rでは100万円というところだ。

いくらアーリィが古銭収集家で古銭をもっているからといってその金額は大してない。

古銭は未来においては価値のあるものだが、その時代においてはその金額以上の価値はないのだから。


それに前金として1000Rもらい、割と小金持ち状態である。

そうして帰路についていると――

「――ウィナ様」

「気づいている」

テリアの警戒にウィナは目を細くすることで答えた。

そう。

イーガ・ウエィの屋敷から出てからずっと何かの気配が追ってきている。

いわゆる一つの尾行。

その気配の消し方もうまく、熟練の傭兵や兵士、冒険者でなければ気づけないほど。

だが、

いくらうまく気配を消そうとしてもウィナの固有能力【領域探査】で位置はバレバレだった。


尾行者は3人。

後ろから追ってきているもの。

側面から追ってきているもの。

屋根づたいで追ってきているもの。


つかずはなれず。

一定の距離を保ってこちらの様子をうかがっている。

(「ここからはリティの念話で話すぞ」)

(「了解です」)

(「オッケイですー」)

(「とりあえずリティ。念話のやり方を教えてやってくれ。」)

(「それはいいですけど、あの子達はどうするんですか?」)

と聞いてきたのは最後尾を守っているアーリィとシア――ではなく。

その前でびくびくしている元奴隷の3人娘。

(「……とりあえず今はいい。」)

(「了解ですー」)


(「ウィナ様?」)

怪訝な表情を浮かべるテリアに、ウィナはただ黙ってため息をついた。




(「宿までは無事戻ってこれたか」)

宿泊予定の宿【竜宮亭】に無事、帰還しウィナ達は部屋の中でくつろいでいた。

(「……まだいますね」)

アーリィが窓をちらっと見る。

(「……ああ。だが、仕掛けるのが仕事というわけじゃないな。

尾行者も1人に減っている」)

そう。

宿につき、部屋に戻った時点で尾行者は3人から1人に減った。

【領域探査】でも確認済みで、2人は宿から随分と離れたところにいるようだ。

(位置的には、宿屋だな。

こことは別の。

……つまり、仕事をちゃんとやるのかどうかを確認するため――か?)

(「どうするの?

倒す?」)

何故か目を爛々とさせているシアに、ウィナは半眼で。

(「まだ仕掛けてこないならそれでいい。

おそらく今はこっちがちゃんと仕事をやるのかどうか、それだけを監視するだけだろう」)

(「動くのは、その男を捕まえてからかしら?」)

(「おそらく。

だが――」)

そこでウィナは眉を反り返す。

捕縛対象の男。

見覚えがあった。

いや、つい先日あったばかりのあの男である。

(やっぱり、何か知っているのか……。あいつは)

(「結界張りますか?」)

グローリアが目線をこちらに向け聞いてくる。

どうやら元奴隷である、セシリア、イーリ、ローザにつけられた奴隷の証である焼き印を消すことができたようだ。

3人ともびっくりした面持ちでしげしげと自分の肌を見ている。

――というか。

「アーリィ……」

「覗きませんよ」

さすがは紳士。

すでに背中を向けていた。

「そうそう。アーリィはわたししか興味ないから大丈夫なの」

と爆弾発言するは元帝国の女王シインディーム。

そんな発言するものだから、グローリアが目を真ん丸にしてキラキラ瞳を輝かせてしまっている。

当のアーリィはというと冷静で、「……陛下」と諦観が混ざった表情でたしなめていた。

さっきまでのシリアス雰囲気はどこへいったのか。


「とりあえず、軽く何かつまみながら話をするか」

ウィナの提案に全員が首を縦に振った。



深夜――。

あれから明日の予定を軽くたて、全員すぐ就寝という運びになった。

セシリア達3人娘も疲れていたが、こちらも立て続けに起きるイベントに肉体も精神も疲労していた。

久々のベッドということもありすぐに静寂が降りた。

薄暗い明かりを灯すランタンがゆらゆらと影を部屋の中に作っている。

ちなみにアーリィは椅子に座って眠っている。

さすがに同衾はまずいでしょうとの本人の弁だ。

一応1人分のベッドもあるにはあったのだが、今日のところは見張りをかねてここで寝ますと言われ、じゃあと頼んでおいた。

しかし、彼も疲れていたのだろう。

すぐにこっくりこっくりと船をこぎ――。


(――なるほど)

いくら疲れていてもこの身は【闘神】エイムワードの加護を受けている。

ゆえに暗闇に動く影に何かが混ざったのを見逃すウィナではなかった。


うっすらと廊下から明かりが部屋内に差し込む。

鍵はかかっているにもかかわらず。

外からなのか、内からなのか。

それもウィナの高速で思考する頭脳は答えを導き出していた。

答えは――

「!!」

その人物の足元に突き刺さる白銀の煌めき。

投擲してたのはもちろんウィナ。

そして狙った相手は、外からではなく内。

部屋から出て行こうとした人間の足元に突き刺したのだ。その投擲用のナイフを。

硬直したまま動かない人物に、ウィナは暗闇の中安定した足取りでその人物に近づく。

ゆらゆらと天井にかけられたランタンの薄暗い明かりが、その人物をうっすらと照らし出す。


年齢の頃は普通に学校にいっているくらいだろう。

色素がない灰色の髪を肩のところで無造作に切りそろえ、

ウィナと同じアメジストの輝きの双眸は動揺をしめしてはいるがこちらをしっかりと見据えていた。

服装は薄汚れた布ではなく、今日買った寝間着なのだろう。

黄色いデフォルトされた虎が模様として装飾されているもので、彼女を年相応以上に若く見せていた。

つまり、この人物は……。

「どこへ行くつもりだ。セシリア」

「……マスター」

そう。

3人娘のリーダー格の少女セシリアだった。

「マスターか。

そういう呼称はあまり好きじゃないんだが……」

頭を掻きながら、彼女を見る。

困っているのだろう。

ほんの少しだが、眼球が左へ右へと一往復した。

「もう一度聞こうか。どこへ行くつもりだ?」

「……遠くへ行こうかと思っています」

「遠くへ、か」

対峙する2人。

「理由は離してくれないのか?」

「……すみません」

謝ることで自分が悪いとそう言っているように思えた。

沈黙が続く。

セシリアは、それを肯定ととったのだろう。

背を向けて外へ出ようとドアノブに手をかけた。

「――奴隷は嘘だった。

違うか?」

ぴくっと彼女の手が動く。

「おかしいとは思った。

故郷の話も、この都市に来て、そしてついさっきあの長にあった時も……」

つじつまはあっていた。

だが、彼女の話し方にはリアリティがなかった。

まるで何か物語を話しているように聞こえたのだ。

最初は、いきなり奴隷となったということでショックを受けたのだと思った。

実際、焼き印は本物だったし、名前を奪われたというところも事実だった。

それゆえに語られた話を事実だと誤認した。

しかし、確証はなにもない。

「最大の決めては、あのイーガ・ウエィと相対したときのおびえ方だ」

「っ」

「人間不信。

言ってしまえばそうかもしれないが、数日も奴隷として経っていないのにあそこまでおびえを示すのはおかしい。

しかも知らない人間をな。

それにテリア達から聞いていたが、

都市でショッピングをしている時は普通に年頃の女の子をしていたと言っていたぞ?」

かああっとその言葉に顔を赤らめる彼女。

(……恥じらう美少女、か。)

ふっとニヒルに笑みを浮かべる。

(男だったら放っておかないんだがなー)

残念ながら性別は女性であった。

「話――聞かせてくれないか?」

「……わかり――」

「あと、そのしゃべり方も変えた方がいい。

本当はそんなしゃべり方してないだろう?」

「っ!!貴女どこまで……」

声音が変わる。

さっきまでを深窓の令嬢とするなら、こっちはツンデレ予備軍のおてんば少女といったところか。

これが本来の彼女なのだろう。

あまりにも姿と性格が一致していないが。

「わかった。ついてきて」

先ほどとはうって変わって冷たい口調で、指示を出す彼女。

どうやら廊下に出ろとのことらしい。

「他の2人はいいのか?」

そう聞くと、彼女は少しうつむき、

「……その話もする。

それでいいんでしょ?」

少し振り返りながらこちらを見るセシリアは、面白くなさそうにつぶやいた。




セシリアに連れられてやってきたのは、隣の部屋。

さいわい他の宿泊客はいないようで、部屋の真ん中までやってくるとセシリアはドアを閉めてと背中ごしでつぶやいた。

「……閉めたぞ」

「――そう、固有能力発動【聖域】」

室内にもかかわらず風が吹く。

同時に室内の雰囲気が変化する。

まるで神聖な神殿にいるかのように――。

「固有能力【聖域】?」

「ここはわたしの領域テリトリー

外界と隔絶した空間よ」

ぶっきらぼうに言うセシリア。

どことなく悪いことをしてそれが見つかった悪ガキのように思える。

「これだけのことができるなら、やっぱり奴隷ではない、か」

「それはあっているわよ。

奴隷でいたのは本当のこと。

この力は……生前持っていた能力じゃないけどね」

「生前?

……生き返ったということか?」

「……生き返った、か。

それなら美談なんでしょうね」

自嘲ぎみに笑う。

「わたしの立場から言わせてもらえれば、勝手に生き変えさせられたってこと。

あいつらの実験でね」

実験。

それが指すのはつまり――。

「人体実験か。最近、はやっているのかね」

「知らないわよ。

腹正しい。ようやく終わったかと思えばまた復活させられ、何度も何度も人の身体をいじくり回して――っ!!」

そう激情を表すセシリア。

気のせいか、彼女の身体からうっすらと蒼い燐光が発せられているように見えた。

「でもそれも最初のうちだけ。

次第に感情を表すこともおっくうになって、最後の方は息をするぐらいの感覚で実験に付き合っていた。

本当についてない人生よ」

吐き捨てるように言う彼女。

感情は理解できる。

この場合の理解は何故激情を示しているか、表面的に分かるという意味だ。

しかし、

やはり彼女とその性格は合っていない気がする。

まるで姿とは別の人間が彼女を動かしているみたいな。

「何個か聞いていいか?」

「いいでしょう。なに?」

「そうだな……最初に聞いておきたいんだが、その身体の持ち主とおまえは本当に同一なのか?

なんというかズレているように感じるんだが」

「っ!貴女。

無駄にカンが鋭いわね……。そうよ。

貴女の思っているとおり。

わたしとこの身体は本来別のものよ」

「そうか。

なら原因は蒼輝石か?」

「っ!?貴女、ここについた時も思ったけど何者?」

「ということは肯定か。

つまり肉体の主は他界していて、おまえ自身は蒼輝石にさせられた――か」

「!!!????」

ついには言葉が出ないセシリア。

目を白黒させている。

彼女が少し落ち着いたところで、最初から話を聞くことにした。


「始まりは、黒いフードをかぶった男がわたし達の国にやってきたところから始まったのよ」


「今はもう地図上にはないけど、

わたしの国はそれなりに繁栄していた。

弱小国ではなかったけど、強国でもなかった。

中途半端な国だったからかもしれないけど、戦禍に巻き込まれることはなく惰性的な平和が続いていた」


「そんな中、その国一人の男が現れたのよ。

こいつが全ての元凶ね。

惰性的な平和が続けば、いわゆる防衛力という部分が確実に弱体化していく。

少しでも戦いがあればまた違ったんだけど、

あの国では戦いらしい戦いはおおよそ80年近くなかった。

だからどんどん国の内部から腐っていき、政をする人間は仕事を手抜きするようになり、

兵士もその義務を忘れ、朝から賭博などに走る。

商人達は、物をどんどん買わせようと、定期的に物が壊れるような魔法を研究、実行するようになって、

民衆はお金を着飾ることが、自身を表現する手段として確立していった。


そんな国になっていても、その国が戦禍に巻き込まれることはなかった。

その国は中途半端な国だった。

今考えれば、そんな中途半端な国がそこまで生き延びたことすらもしかすると、アイツの思惑だったのかもしれない。


なんにしてもアイツは、国王に絶対的防衛力を築く研究をやらせて欲しいと志願したのよ。

王はあっさりと了承した。

そしてアイツは国王直属の宰相扱い。

いきなり国のナンバー2よ。


その時点でおかしいんだけど、誰も気づかなかった。

そうしていつからか国内で失踪者が相継いだ。

最初は、あまりお金を持っていない貧民層から。

元々貧民層は、お金をあまりもっていないから国からしたらただのお邪魔虫でしかなかった。

だから守備隊や、治安維持隊も動かなかった。

そして、次に中流の家が狙われ、そして商人の中でも有数のお金持ちが失踪し始めてようやく国は動き始めた。

けどそれは遅すぎた――」


遅すぎた。

その結末は、その国が比喩の欠片もなく地図上から消滅したことが全てである。


「何が起きたんだ?」

「――実験の結果みたいよ。

具体的に何が起こったかまでは説明してくれなかったけど。

それで気がつくとわたしは男に捕まっていた。

地下の研究所とやらで四肢を金属の拘束具でとらえられたわたしに逃げ道はなかった。

それから100年。

ずっと男の実験道具だった。


その間にいろいろなことを聞いた。

故郷の国がどういう末路を通ったのか。

自分にどんなことをしたのか。

魔法の知識。

戦闘術の知識。

国政や、その他の知識を身につけられて――

身体には様々な魔法的刻印を刻まれ、そして殺され、また復活させられて――

そんなバカみたいなことが100年間ずっと続けられた。

そこまでいくともう感情なんてものが根こそぎそげおとされていくのよ。

最初の10年は、絶対アイツを殺そうと思っていたのに、ね。

最後の方は、もう誰でもいいから終わらせて欲しかった。

続くのが苦痛だった――」

セシリアの瞳は空虚だった。

「幾度にも続いた実験に終わりがきたのは、目が覚めた時知らない場所にいた時よ」

「知らない場所?」

「丘……みたいなところよ。

100年近くも外に出たことがなかったから、わからなくて当然だけど」

肩をすくめる。

「一応生きてくだけの知識は前もってあいつに叩き込まれていたから、偽の生い立ちを作って街で生活をするようにしたのはいいけど、

思った以上にこれくらいの年齢の女性が1人で生活しているのが目立つみたいで、いろいろ小細工はしたけど捕まったっていうところよ。

奴隷を扱っている業者にね」

「おまえなら捕まらないこともできたんじゃないのか?」

「……まあね。

けど、それこそ今更。

100年よ?

外見は若いかもしれないけど、わたしは年齢でいえば100をとっくに越えているのよ?

しかもずっと殺され、復活されという特殊な体験込みで。

それと比べたら今更、奴隷を扱っている業者なんて可愛いものでしょ。

裏の情報を知るにはてっとりばやかったし」

「その後にイーリとローザに会って今に至るというわけか」

「少し違う。

イーリとローザはわたし自身よ」

「なに?」

「……そっか。そこまでは知らないのか。

あいつが100年近くもソレについて実験していたから、あいつ以上に知識を持っている人間はいないのか」

セシリアはぶつぶつと考え込み、

「イーリ、ローザおいで」

不意に彼女達の名前を呼ぶ。

と、セシリアの横で光が明滅したかと思うと2人の少女が現れる。

そして。

一瞬にして蒼い宝石へと姿を変えた。

「っ蒼輝石」

「戻って」

セシリアの言葉に従い、宝石はセシリアの身体に触れるとそのままずぶずぶと吸収されていった。

「なるほど、そういうことか」

「ある一定量の蒼輝石と、扱うものの能力でこういうふうに人格などを設定した人形を生み出すことができるって言っていたわね」

「ある一定量の蒼輝石、か……」

そこでふとウィナは思い出す。


輝光鉱石。

つまりは、生輝石リヴィリス根源石テラ、そして蒼輝石。

どうゆう製造過程を経たら、どの鉱石に変化するのか。

ウィナが読んだ書物などではあいまいなことしか書かれていなかったので、正確な数値などわかっていなかった。

それをセシリアに聞いてみると。


「……輝光鉱石は、主に量よりも質で変化するのよ。

生輝石、根源石で言えば魂の質。

こればっかりは実際、術式を展開してみないとわからないってあいつもいっていっていたわね。

あとはだいたい圧縮率50%~60%で生輝石。80%~100%で根源石になるみたい。

数値間で妙な空きがある部分は、どちらでもない中途半端な性質の石ができる。


蒼輝石は、精神と魂の質とあとは100%の圧縮率で蒼輝石になるみたいね。」

「――精神と肉体を圧縮した場合、蒼輝石になる確率はどれくらいなんだ?」

「精神と肉体?

ああ、仲間の子のことね。

……正直そういう事例はあったことないから、わたしにもわからない」

元帝国女王シインディームに残っていたのは、精神と肉体のみ。

蒼輝石の製造工程からいうと、蒼輝石になるための必須材料がないのだから蒼輝石にならないはず。

だが、あの辞典に書かれている蒼輝石と、彼女の蒼輝石は酷似していた。

(……今はここまで、か。そういえば……)

「ところで、どうしてイーガ・ウエィに会ったときあんなにもおびえた?あれは演技だったのか?」

「……においよ」

顔をそらし、ぽつりとセシリアはつぶやく。

「あいつと同じようなにおいがする。

……いくら感情をそぎ落としたって言っても、痛いものは痛いし、怖いものは怖いのよ……」

身体を抱きしめるように、両手にぎゅっと力をこめる彼女。

「人間としては当然だろ。

むしろ正常だといっていい。」

「ふっ、人間か……こんなわたしでも人間なんて言うのかな」

「セシリア」

「……わたしのこの身体。

本当はわたしの身体じゃないのよ。

さっき、貴女も疑問にしていたけどこの身体とわたしは別。

この身体はね、わたしの妹。

それなりにケンカはしたけど、それでもお姉ちゃんっていって……く…れて」

「……セシリア」

「でもっ……!!」

ウィナは静かにセシリアを抱きしめた。




「ごめん。取り乱した」

「いや別に構わない。それでこれからどうするつもりなんだ?」

「……あいつと関わりたくないから、本当はどこかに逃げようと思っていたけど。」

「けど?」

「貴女に興味が湧いた。

だからついていこうって思っているのよ。」

「そうか。こっちとしてもお願いしたいくらいだから、歓迎するぞ」

「……嫌がらないのね」

「何を?」

「……なんであいつがわたしを置いていったかわからないけど、あいつはまたわたしの前に現れるはずよ。

可能性の話……だけど。

その時、貴女達は巻き込まれる」

「その点は心配いらない。

こっちはすでに俺がその手の奴等に狙われている身だからな」

「そうなの?」

不思議そうに目を丸くするセシリア。

「お互い、ストーカーに狙われて大変だな」

「ストーカー?」

簡単に意味を説明すると、セシリアは笑った。

「そう、ストーカー……。

それいいかもね」

「それだけ笑えるなら、大丈夫だろ」

「ありがと。マスター」

「……マスターか。

その呼称やめないか?」

「これだけは無理。

一応、奴隷として買い取ったのは貴女だから。」

「焼き印は消したが」

「名前は与えたでしょ?

真名を剥奪したものに名前を与えることは、真っ白な赤ん坊に世界と契約を結ぶ意味で名を与えることに等しいのよ。」

「なら仕方ないか……。

リティあたりにいろいろツッコミをくらいそうだが、まあいいだろ。」

何かを言ってきたら、とりあえず物干し竿にでも干しておけばいい。

リティだし。

などと考えながら、

「じゃあ、コレ解いていい?」

「そうだな……って、その前にこれで最後なんだが」

「?」

「あのイーガ・ウエィという男。

俺やセシリア達、シアの目をやたら気にしていたと思うんだが、この紫色の目を持つ者は貴重なのか?」

ウィナの問いに、セシリアは何度かまばたきをし、

「知らなかったの?マスター。

紫の目は、人あらざるものの証よ。

その身が心臓という人の証たる動力源では動いてはおらず、蒼輝石という核で動いている証明――」





「マスターとわたしは同じ存在ということよ」





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