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自由都市の長

夕食は、階下の食堂でとることになった。

夕食時ということもあり、酒場兼食堂である1階には冒険者や旅人、傭兵などといった男女比率8対2ぐらいの割合で占められている。

そんな場所にウィナ達――男女比率1対8が降りていったのだから、注目されるのは当然で――


「よお姉ちゃん達、べっぴさんぞろいだな」

とからまれるのは致し方のないことかもしれない。

「やっぱり部屋でとるべきだったか」

少しばかり後悔しながらも、現実は今ここにあるわけで。

「悪いがおっさん、こっちは食事中なんだ。

あっちいってくれないか」

非常にストレートな物言いでウィナは言い放った。

「な、なんだとっ!?」

よく見れば、顔が紅い。

息も酒臭い。

(……酔っ払うのは勝手だが、人に迷惑かけるの是となるのはどうかね)

ウィナの辞書に、酔っ払いであれば全ておおらかに許されるという文面はない。

しかし、だからといってこのまま勢いにまかせてこれをのせば、この食堂に騒ぎがおこるのは明白で、

下手をすれば宿から追い出される可能性もある。

こんな時間、外に出されても空いている宿などほとんどないだろう。

つまりは野宿。

野宿でも別に問題はないが、ウィナとしてもここ数日連続して起きた事件や騒動に疲弊し、柔らかいベッドで寝たいという欲求もある。

「……グローリア。

対魔法、対物理結界を張ってくれ。俺達に対して」

「おお、ウィナさんにしては穏便ですねー」

「……魔法を使う時点で穏便っていうのかしら?」

小首を傾げるシアに、全力でグローリアもうなずいた。

しかし、リティやウィナの言い分にも納得できるものがあり、

結果。

「雷帝の加護、隠形の御技をもって我らに一時の休息を――【隠形結界・バニッシュフロウ・エレキテル】」

グローリアの魔法ことばとともにウィナ達のテーブルの周りに張られる結界。

「く、こんなものっ!!」

男が勢いよく拳を障壁に振るう。

「がっ!?」

だが、障壁に拳が触れた瞬間、硬直しそのまま後ろへと倒れていった。

ぶすぶすと黒い煙が服から立ち上り、少し焦げ臭いにおいが鼻孔に届く。

「……なるほど、びりびり結界か」

「ビリビリですねー」

「あの、雷属性の結界ですよ?

びりびりじゃないですよ?」

術者としては、勝手に名前を安直なものに変えられるのは気にいらないらしい。

「しかし、これでようやく静かに食事をとれるな」

「ですねー」

ウィナとリティは、両手を合わせていただきますといい、早速盛られた料理に手を伸ばした。

その様子を元奴隷――セシリア、イーリ、ローザは目を丸くしていた。



「久しぶりにゆっくり食事がとれたな」

「そうですねー。

グロちゃん、びりびり乙です」

「あの、だからびりびりではなくて――」

結界はすでに解除されている。

しかし、食堂に彼ら以外平然と食事をとっているものはいなかった。

なぜなら、ほとんどの酔っ払い等がこのびりびり結界をどうにかしようと果敢にも殴りかかってきたからだ。

当然ながら、結界魔法、治癒魔法とメンバー随一の力量をもつグローリア。

その辺のごろつき達など解除できるはずもなく、次々とビリビリ結界の餌食になり床とキスをすることになった。

いい加減あきらめればいいのに、それでもなんとかしてこの結界を解除しようと魔法使いまでも参戦し、ついさっきその魔法使いも魔力切れを起こし、

床に倒れている。

死屍累々の中、ウエィトレスさんはかがんでは立ち上がり、かかんでは立ち上がりと妙な上下運動をしているが、無視をしておこう。

とりあえず、明日の朝、彼らの懐ぐあいはかなり寂しくなるのは間違いなさそうである。

「さて、あとは明日の予定をたてて寝るとするか」

「――それは少し待ってくれないか、そこの冒険者諸君」

食堂に一瞬にして緊張が走る。

入り口から1人の男がやってきた。


若くはない。

しかしだからといって年寄りというわけではない。

その中間くらいの年齢と容貌の男だろう。

華美でもなく、周りにいる兵士達の装備よりも若干、価値があるくらいの武装で身を固め、

余裕すら伺えるその表情は、しっかりとこちらを見据えていた。

「――誰だ?おまえは」

「失礼。

私はイーガ・ウエィ。

この都市の長のようなことをしているものだ」

思わぬ人物の登場に、ウィナも片眉をピンと跳ね上げる。

「食事にでも来たのか?

今の時間帯は静かに食事をとることができるからおすすめだぞ?」

「ほう。

それはいい情報を得た。

今度から来るとしよう」

にやっと男も笑みを浮かべる。

「それは別の機会にするとして、申し訳ないが君達を拘束させてもらおう」

「理由は?」

「窃盗だ」

「窃盗……?」

グローリアが驚いた表情を浮かべる。

彼女には、心当たりがないのだろう。

だが、ウィナにはなるほどと納得できることがあった。

「そこの奴隷。

所有者は君達ではないはずだが?」

やはりソレか。

正式な譲受ではなかったため、彼女達を知っている人間であればそう言ってくるだろうと思ってはいたが。

(それが、ここの都市の長とは……ね。)

まったくもってあやしいことこの上ない。

ちらりと彼女達の方を目線をやると、男の顔を見てびくびくと身体を震わせていた。

「……現在の所有者は自分達だが?」

同じような口調で問い返してみた。

男は面白い。

そんな表情を浮かばせながら、

「ならば所有許可証を拝見したいのだが、あるかな?」


所有許可証はない。

なぜなら戦いが終わった後、燃やしたからだ。

あんなものを大事にとっておいたところで、盗まれたりした場合少々めんどくさいことになる。

ならばいっそ燃やしてしまった方が、彼女達にはいいだろうと。

彼女達には未だ奴隷の印である焼き印が残っているが、それもグローリアであれば消すことも可能だった。

未だ消していないのは時間の関係上というところなのだが。

(さて、どう答えるか)

ここでどう答えようとも、この男が来た以上はすでにつんでいる予感がする。

つまり、何をしても男の手の内。

(となれば、)

「今はない。

盗まれては大変なんでね。

信頼できる人間に預けている」

「なるほど。

それは仕方がない。

なら奴隷を譲渡された経緯を落ち着いたところで聞かせてもらおうか」

やはり男は所有許可証の有無はどうでもいいらしい。

本当にこっちを逮捕するつもりであれば、ここでひくのはおかしい。

思った通り何か別の用事があるということか。

「それで落ち着いた場所というのは?」

「私の家だ」

にやりと男は笑った。


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