リティとウィナの観光2~冒険者達の争い
「ウィナさーん。これ買って行きましょうよ」
とリティは右手に持つ花瓶を振り回す。
店員さんがあわあわうろたえている。
「花瓶なんてどうするんだ?」
「もちろん花を植えるんですよー」
「……マンドラゴラとか、食虫植物とか?」
「ウィナさん、ヒドっ!?」
などとアホなことを言っていると、店の外がなにやら騒がしくなる。
ウィナは瞬時に、気配と【領域探査】をかけ状況を把握しようとする。
といっても【領域探査】はあくまでも人や、魔物などを俯瞰的に把握するようなもの。
だから何が起きているか具体的なことを探るのはむいていない。
まあ、あちこちから人が集まっているのはわかるが。
「リティ、行くぞ」
「あ、はーい。
これ取り置きしておいてください」
買って行くのか。
外に出て人だかりをのけていくと、ひらいた空間で冒険者らしい男達が互いににらみあっていた。
状況から察すると、冒険者同士のささいなケンカといったところか。
「ケンカだな」
「ケンカですねー」
互いにまるっきり傍観者モード。
リティも、ウィナも基本自分に害が被るならすみやかに対処をするが、そうでないなら割とのんびりしていた。
「貴様、我々を【暁の騎士団】と思ってのことか」
「ふん、貴様等こそ俺達を【狩人】だと知ってそんなふざけたこと言っているのか」
「騎士団というには、騎士団らしくないな。」
「たぶん、ギルド名とかじゃないですか?
いくらなんでもあういう夜盗のような格好の騎士はどこの国にもいないはずですよー」
「なるほど。
しかし、こんな道ばたでケンカを始めるとは……衛兵が来るんじゃないのか?」
「そーですねー。
あ、来たみたいですよーウィナさん」
そう言われ、リティが目で指す場所に視線を向けると、こちらはちゃんと騎士の格好をした者達が複数やってきた。
その中の隊長らしい人物が、一目で状況を判断したのだろう、部下達に指示を飛ばす。
「練度は高そうだな」
すでに抜剣し、殺気が混ざる状況にも関わらず兵士達は動じることなく冒険者達を捕らえていく。
しかし、それに反抗するものも当然いるようで――
「邪魔だっ!!」
上段に剣を振り上げ、兵士に向け斬りかかる1人の男。
野次馬達がざわめく。
だが。
兵士は、やはり動じることなく腰に差していた剣を抜き、あっさりと男の剣撃を受け止め――。
「がっ!?」
受け止められた男は、身体をびくんと震わせると大地に倒れ伏した。
その身体――いや服からは黒い煙が微量だが吹き出ている。
「……感電……か?
だとすると雷属性の魔剣ということだが」
割とRPGなどで出てくる特殊能力を保持した武器というのは、この世界では珍しい。
確かに加護持ちという非常識な存在はいるし、その中には自身のような固有武器というチート性能をそろえたものもある。
しかし、一般にある武器に特殊能力を持たせるのは魔法使いの中でも魔工という専門職業者のみ。
少数であるため極めて値段が高い。
ものによっては家一軒買える代物なのだ。
ゆえに簡単に手に入れられるものではないのだが――。
その剣と同様の剣をその兵士達は全員持っていた。
「もうけているのか、それとも別の手段でもあるのか」
腕を組みながら事態を眺めつぶやく。
すでに騒動は収束していた。
反抗した男以外にも兵士に斬りかかろうとした者はいたが、そろって電撃剣(仮称)の餌食になり全員捕縛する流れになった。
「面白いものが見られましたねー」
「面白いかどうかはわからないが、興味深いものが見られたな」
ここに用はない。
去ろうとしたときだ。
「新参者だなー、あいつら。
ここのルールを知らないなんて」
「ああ、騒ぎを起こしただけくらいにしか思ってないだろうけど。
生きて帰ってくることはないだろう。可哀相だが」
と聞き逃すには物騒な言葉をやり取りする商人達。
「どういうことだ?」
当然、ウィナは彼らの前に立ち尋ねた。
「なんだ。君達も新参者か?」
「ああ、今日はじめてここに来た。
それで生きて帰ってくることはないとはどういう意味だ?」
商人達は顔を見合わせ、
「そのままの意味だよ。
自由都市マイラにあるルールの一つに、騒ぎを起こさないっていうのがあるんだよ」
「そうそう。
騒ぎにもいろいろ種類があるけど、まあさっきのように剣を抜いて人を傷つける恐れのあるケンカとかだな。
ま、他の旅人や、商人といった地元の人間に害を与えることを禁ずる法だ」
「それで生きて帰ってこれない――つまり、極刑と?」
重すぎないか?
言外にそうニュアンスを込めて、商人達に視線を向ける。
「……といっても、実際この法ができるまでは冒険者達のいざこざで死んだ人間もいるから、まあ当然じゃないのか?」
「そうそう。騒ぎを起こす奴等が悪いんだしな。
俺達のように言葉を武器にして闘えばいいのになーあいつらも」
など言いながら、商人達は人混みの中へと消えていった。
「ウィナさん?」
「気になるな……。
今の話」
たかが騒ぎを起こしただけで極刑とは少しばかり度が過ぎている。
死者を過去にだしたためにそういう法律を作ったのかもしれないが。
それだけのことでこんな法律を用意したというのを、そのまま鵜呑みにするのか危ないと直感で感じた。
「……後で調べてみるか」
「そしてウィナさんはまた厄介事に首をつっこむのでしたまる」
「妙なナレーションをつけるな」




