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リティとウィナの観光~不思議な本屋さん

奴隷として帝国へ連行されるところだった彼女達の名前をつけることにした。


3人の中でリーダー的な彼女をセシリア。

3人の中で無口な子をイーリ。

3人の中で明るい子をローザ。


一応、名前のセンスは及第点をもらえたはずである。

たぶん。


名前の命名が終わったところで時間がまだあるということで夕方まで各自自由時間をとることにした。

ちなみにセシリア達3人は、アーリィとテリアが付き添って細かな物を買いに行っている。

グローリアとシアは宿屋で休憩を取るらしい。

そして、自分ことウィナ・ルーシュの相方は――

赤い髪のポニーテールをぶんぶん揺らしているあの少女である。

「ウィナさんと2人でこうして歩くのは、シルヴァニアの時以来ですねー」

「あーそうだな」

テンションの高いリティと比べて、気分的には下降気味のウィナ・ルーシュ。

今いる仲間達の中で一番トラブルを起こす率が高い人物との散策だ。

これで良い気分になれという方が難しい。

いつもであれば、単独行動をする彼女がこうして自身を誘うのも珍しいのだが。


(やれやれ、何か言いたいことでもあるのか……)

「ウィナさん、どこか行きたいところありますか?」

「いや、特にないな。

強いて言えば情報収集くらいか。

まあそれも」

一応ここが過去らしいことは少しばかり証拠は集まった。

過去なら過去でどうするのかという話に移行するのだが――。

「……いくらなんでも現代に戻る魔法とか使えないだろ?リティ」

「残念ながら、どこかの青猫ロボット違って時間移動機なんて便利なものはないですよー」

「まあ、はなっから期待はしてなかったけどな」

「ヒドっ!?」

そうしてだらだら歩いていると、古書店らしきお店が目についた。

「行きます?」

こういうとき、リティは空気を読んだような台詞をはく。

毎日こうであれば問題ないのだが、それを彼女に求めるのは無理だろう。

「ああ、ちょっと興味がある」

「なら行きましょうー」

リティを先頭に、お店へと向かった。


お店は通りの影にあり、注意深く見ていないと通り過ぎる場所である。

扉もないので、そのまま中へと入っていく。

古い木で作られた自身の身長2倍の高さである本棚が綺麗に整列されている。

納められている書物も、糸で結ったものが多く紙も少しぼろぼろ。

いわゆる古文書というヤツである。

ぱらぱらめくって中身を確認していると。

「若者なのに本に興味があるのは珍しい」

と近くで声がしたので振り向くと、一人の青年が立っていた。

ぼさっとした髪に、ぎらぎらと輝く双眸。

ああ、この人物は一つのことに集中すると他のことはどうでもよくなるタイプの人間だ。

そう直感的に思った。

「若者ではあると思うが、若者だからといって古文書に興味がないというのは早計じゃないか?」

言い返されるとは思っていなかったようで、男は一瞬きょとんとし次にははっはっはっはと笑い声を上げた。

「お店の人間に注意されるぞ」

と忠告すると、

「僕がここの店主だったりする」

なかなか面白いことを言ってのけた。

「立ち読み禁止なのか?この本屋は」

「いや、立ち読みはかまわない。

そもそも本は中身を見ないとわからないから、見せないというのはナンセンスな話だ」

まあ、納得できる部分もある。

「おすすめの本とかあるのか?」

「もちろん。よくぞ聞いてくれた」

そう言って男は店の奥へと姿を消した。

「ウィナさんー知り合いでもいたんですかー」

「ここの主人だそうだ」

「へえー、何か面白い物ありました?」

「それをいまから持ってきてくれるらしい」

「そうですか-。

わたしあっちの本棚の方にいますから、出るときに声をかけてください」

「わかった」

リティは、ポニーテールを振り回しながら本棚の影に隠れた。

やや時間がたってから男が戻ってくる。

黄色いカゴに何冊か古文書らしいものを手に持ちやってきた。

「それがおすすめなのか?」

「僕が古今東西走り回って集めてきた書物だ。

国の図書館よりもレア度は高い」

その中の一冊をこちらに手渡した。

「……宝石大辞典?」

渡された本のタイトルにはそう書かれていた。

思ったよりも普通のタイトルに少し拍子抜けした。

半眼で、

「宝石とかにはあまり興味はないんだが……」

ぱらぱらとめくっていく。

さすがにシルヴァニアに何故かあった写真機?みたいなものはないようで、

その代わりに精密な鉛筆画で宝石が描かれていた。

「なかなか詳しく書かれている……っ!?」

手が止まる。

目が思わず見開く。

開いたページには宝石名が書かれている。


――生輝石リヴィリス


「――なかなか面白いものが置いてあるな」

「そうか」

店主はにやりと笑う。

「ふむ」

その場にかがみ、黄色い籠にある古文書をいくつかとってぱらぱらめくる。

そのたびにウィナは満面に笑みを浮かばせる。

「これ全部買うが、いくらになる?」

「お代はいい」

「なに?」

予想外の言葉に、店主を見返す。

とそこにいたのは顔のない青年――。

「っ!」

瞬時に赤錆の魔刀を呼び出し、構えをとる。

無貌の青年は、両手を挙げ敵意がないことを表す。

だからといって、警戒は解かない。

ウィナは静かに問いた。

「おまえは何者だ」

「歯牙ない古書店の店主。

それ以外に自分を呼称するものはないかな」

「なるほど、顔がないのも個性だといいたいのか?」

「そんなものだ」

敵意はない。

そしてこれ以上の問答もおそらく意味がない。

「……代金を払わなくてもいい理由は?」

「僕の【本】は、人を選ぶ。

その人が今、一番欲しいものを選ぶ。

だから、その本は僕が読みたい本じゃないというわけだ。

ゆえに価値がない」

「だから、タダと?」

「そう。お金の代わりに何か代償をいただくということもないから安心していい」

しばらく男の貌を見つめ、

赤錆の魔刀を消した。

ため息をつき、

「じゃあ、これはもらっていく」

「それでいい。

【闘神姫】ウィナ・ルーシュ」

「!?」

まばたきをした次の瞬間、ウィナは街角に立っていた。

さっきまでいた本屋は目の前にない。

人が行き交い、賑やかな商店街などが広がる――。

「…………いわゆる幽霊書店というヤツか」

一滴の滴が、頬を伝わりあごの頂点からしたたり落ちた。

「みたいですねー」

と隣にいたリティもまた肩をすくめて答えた。

「リティもか」

「そうですよー。いつのまにかこんなところにいました」

「何か本をもらったか?」

「いいえ。

特に興味のある本はなかったですから、何もないですよー」

「そうか。」

「それよりもあっちの方に行きましょうー」

指さす方では、剣や鎧といったものを取り扱っている店や、装飾品などの店が立ち並んでいた。

「そうだな」

ウィナは身を翻し、そっちの方へ歩いてく。




ウィナの背中を見ながらリティは、ショルダーバックから一冊の古びた本を取り出す。

タイトルには【大陸歴史伝】と書かれていた。


その中に書いてある文。

大陸歴史上、唯一大陸を統一した国がある。


【カディアガルド皇国】。


其の国は独自の魔法技術、優れた皇子、強力な兵士で大陸を統一した――わけではない。

其の国が建国された理由は、一つ。

他種族から身を守るために他ならなかった。


そう、この世界は神によって見捨てられた。

それはヨーツテルン大陸も例外ではない。

大陸は広く、そして多種族が生きる場所であった。

人はもちろん、獣人、妖精、エルフ、精霊、魔物、魔族と多種多様の生物が存在していた。

その中で人は弱く、固有の能力もなく、他種族から虐げられる場合が多かった。

そのため、迫害から逃れるために大陸のあちこちにいた人間種族が一箇所に集まり国をつくったのは自然の流れだった。

しかし、

集まっただけでは他の種族からの迫害から逃れることは不可能だった。

弱い国は、強い国によって食い尽くされる。

それは今までの歴史からみても当然の事実だった。


ゆえに彼らは作らざるを得なかった。

強国や、強い種族から害されないために強い国作りを。


祈るべき神は私達を見捨てた。

だから私達は復讐をする。

――世界に。




そして其の国は――。

「禁忌を犯す。

……でもそれは彼らの事情から考えれば仕方のないこと。

後の悲劇につながろうとも、確実に生きていることが約束される明日を手に入れる方がなによりも重要だった――」

空は蒼い。

あの時見た空と何も変わっていない。


そう自身が生まれたあの時と何一つ変わることはない。

「――本当に今更こんなもの渡されても困ってしまいますねー。」

苦笑いを浮かべながら、リティはウィナの背中を追っていった。





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