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自由都市マイラ

自由都市マイラ。


現在のシルヴァニア王国と帝国の間に存在する都市であり、名が示す通りどの国にも属していない都市である。

概念的には中立国に近い。

当然ながらそういう都市は、盗賊や、強国に狙われる。

しかし、この自由都市マイラは独自の魔法技術と国の騎士団と遜色ない実力を持つ兵力を保有し、

またこの都市では商人や旅人、傭兵などを手厚く歓迎や、保護する政策を行っているため、人の出入りが激しく財源的に潤っている。

非常に活気があり、勢いがあるこの都市をまとめているのはイーガ・ウエィと呼ばれる男らしい。


さてこの都市が悲劇の町といわれる由縁はただ一つ。

ある時期からこの都市があったとされる場所にクレータが存在しているということだ。


つまりある日、おそらく数日も経っていない時期に突然クレータ化するほどの災害に見舞われた――とされている。

真相は未だ不明で現在帝国の歴史学者達も研究している事項の一つらしい。


「活気がある町です……」

あちこちから出店の商人や、傭兵達の笑い声、商談の声が行き交う。

こういう市場を作ったこの都市の長に感心を覚える。

「あっさり入ることができるとは思わなかったな」

ウィナの言葉に、アーリィはそうでしょうねと相づちを打つ。

現在、自分達は身元不明である。

そしてなおかつ、奴隷を手にしている状況。

そういう輩は国の入国審査とかで大抵ひっかかり、きちんと身分または理由を説明できないと何日も拘留されてしまうというのが通例だ。

「本当であれば、帝国の様子を見てからここに戻ってくるつもりだしたが……」

「予定が早まったと」

「ええ。しかしあくまで予定ですから問題ないでしょう。

それにこの時期にこの都市の存在を目で確認できたのは大きい」

「――つまり、時代の確定の証拠になると?」

「そうなりますね。

最初は、幻術か、精神撹乱の類かと思っていましたが……」

相手は世界の理を支配する魔法使い。

ゆえに精神干渉の魔法などかけられたら、大抵の相手などレジストすらできず一瞬にして相手の思うがままになってしまう。

しかし、

ウィナの持つ魔法を無効化する赤錆の魔刀。

また彼――アーリィが持つ漆黒の杖が、精神干渉に捕らわれている可能性を低くした。

「零にはできませんが、これは現実と考えてもいいでしょう。

やはり100年前である可能性は高いですね。

自由都市マイラが消失したのは、いくつか説がありますが時期を遅く見積もっても50年前。

つまり、少なくとも私達がいる現代ではないのは確かでしょう」

「やれやれ。

期待はしていなかったが、本当に時間を操るとは……」

自分も割とチートだと思っていたが、まだまだのようだ。

「どこかで宿をとって一休みしないの?

女の子達、割とつらそうよ」

シアからの催促を受け、宿を探すことにした。




「ふっかふかのふとーんっ!!」

真っ白い布団にダイビングしているのはリティ。

木造の建物で多少、汚れたところもあるが良い場所をとれた。

「総数9名だからとれるかどうか不安だったが」

「あとお金ですね」

テリアがそういってくる。

そうお金もこの時代に使えるか不安だったが、そこはアーリィの趣味が役に立った。

「まさか私の古銭収集がこんなところで役に立つとは思いませんでした」

「そうね。私もそう思うわ。

アーリィって、夜な夜な集めた古銭を見てにやにやするクセがあったからどうしよかって思っていたの」

「……ヤな趣味だな」

「失礼な。

愛でるものに笑顔を向けるのは当然でしょう」

まともな男だと思っていたが、そういうところもあるようだ。


宿の名前は【竜宮亭】。

その2階の大部屋10名定員のところを丸々とれたため、各自こうして旅の疲れからか妙にハイになっていた。

「しばらくはここを中心に情報収集ですね」

「ああ。

……そうだ、まだ自己紹介していなかったな」

と連れてきた奴隷達3人に視線を移す。


「名前を教えてくれないか?」

その言葉に3人は顔を合わせ、同時に深々と礼をした。

「?」

「誠に申し訳ないのですが、わたし達は名前を名乗ることができません」

「理由を聞いていいか?」

「はい。

名前を名乗れないのは、名前を奪われたからです」

名前を奪われる。

ぴくっとウィナの眉が跳ねる。


それは奇しくも自分と同じ経験者ということを指していた。

ウィナはテリアに、

「奴隷は名前を奪われる法でもあるのか?」

「……いいえ。聞いたことがありません」

アーリィとシアに目を向ける。

「奴隷の証である焼き印をつけることはあっても名前を奪うということはないですね。

そもそも名を奪うというのは、相手の真名を知り、剥奪することです。

相手の真名を知るのも大変ですし、それを奪うなどとどれだけの技術が必要か不明です」

「帝国には神の力を研究する部門もあったけど、それでもそういうことができたっていうのは聞いたことないわ」

「……ふむ。」

なんだかきな臭い話だ。

「ちなみに誰に奪われたんだ?」

「名前は名乗らなかったのですが、魔法使いらしい格好をした人でした」

「……黒いフードに、黒いローブ?」

「あ、はい」

「…………まさか、な」

「いえ、そのまさかの可能性が高いですね」

「良くある話ですよーウィナさん」

リティの朗らかな物言いに、ウィナは腰に手をあてて、ため息をつく。

「良くある話だと逆に困るんだが……。

どうして奴隷になったのかいきさつを教えてくれないか?」

とウィナのお願いに、3人は顔を見合わせ、はいと肯定をした。




彼女達3人は、大陸の中央にある村落で生活をしていたらしい。

その村には若者が少なく、静かに衰退していた――いわゆる過疎化していた。

そんな時、傭兵を連れて1人の商人がやってきて彼女達を買い取ったそうだ。

その村が、50年誰も働かなくとも生活できる金銭と引き替えに。

さいわいなことに彼女達の両親はすでに他界。

身よりのない3人は働くにも若すぎて働くことができず、3人寄り添って暮らしていたため知り合いなどもいなかったようだ。

そして、3人は奴隷として焼き印を押され帝国へ運ばれるところを盗賊達が襲われ現在に至る――らしい。




「その魔法使いっぽい者は?」

「その人は、わたし達に焼き印を押す時にいただけで、すぐどこかにいってしまいました。」

「その時に名前を奪われた?」

「はい」

「……」

難しい顔をするウィナにリティは話かける。

「何かあるんですか?ウィナさん」

「いや、もしもその魔法使いっぽいヤツがアイツであれば、何か与えた気もするんだが……」

あのじいさんはウィナの名前を奪い、そして新たな名前と生活していく知恵と技術を与えていった。

正しく等価交換のやり取りだったのだ。

彼女達の名前を奪ったのが同一人物であるならば、奪うだけというのはどうも腑に落ちない。

「……今考えても仕方ないか。

それよりもこれからの話だが、」

「はい」

「名前を奪われた者は、自ら名前を付けることができないらしいからこちらから名前を付けようと思うがいいか?」

「構いません」

「あと、君達は俺達と一緒にしばらく行動してもらう。

もしも君達が村にもどりたいと思っているならその後送り届けるが――」

「いえ、わたし達はすでに奴隷の身。

あなたの意に従います」

濁りなどない透き通った目でこちらを見る彼女達。

そのことに妙に違和感を覚える。

「……わかった。

だがこちらとしてもイヤがることは無理矢理やらせることはしない。

その辺の意見はきちんといってくれ。」

3人は顔を合わせ頷いた。


すっと後ろからテリアが近づき耳打ちをしてくる。

「……彼女達」

「何か隠しているな。

探ってもらえるか?」

「わかりました」


どうやら厄介な事に巻き込まれそうである。


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