現状考察3
【あの鎖でつながれた女性は何者?】
「わたし達がここに来る前に、黒い穴にいたあの女性は何者なんでしょうか?」
グローリアの問いに、一同(2人は除く)は、アーリィとシインディームを見た。
「……確かに、私は師匠から話を聞いています」
「だいたい想像つくが、とりあえず話を聞こうか」
一呼吸置き、アーリィは説明を始めた。
「彼女は、ミーディ・エイムワードも言っていましたが――「これが創造神の欠片を持つ一柱。
現存する最古の【神】の姿よ」――すなわち【神】です。
ただし、現存する種族としての【神】ではなく、この世界を創り出した創造神の眷属が1柱。
世界を管理、運営する存在のようです」
「創造神……ですか?」
「はい。
こちらはヘラ・エイムワードも言っていましたが……。
この世界は神によって見放された世界であるらしいです。
もともと創造神とその眷属はこの地を理想郷とするべく、様々な試みをしたらしいのですが、
何らかの理由で世界に絶望しこの世界から去って行きます。
しかし、この時眷属のうち数柱がこの地に残り、この世界を見守ると言ったものがいました。
それが、彼女達です。
創造神は、残る彼女達にそれぞれ自身の力を分割して渡したとされています。
これが創造神の欠片と言われるものです。」
「残った彼女達は、その欠片を用いて創造神が欠落したために生じた致命的な【穴】を塞ぐために世界を構築する部品としてその存在を貶めました。
これによって世界は安定を取り戻し、様々な種族が生まれ、現在の世界の形になったらしいです」
「――ということは、あの黒い杭が封印媒体みたいなものなのか?」
「そのようですね。
其の辺りは、私の師匠も抽象的な物言いしか言っていませんでしたので驚きましたが――」
「世界を構築する部品――つまり、法則の体現ということか。
それぞれが世界の法則を体現している。
だから、その神を支配できれば、世界の法則の一部を書き換えたり、消したりなどのようなことができるというわけだな?」
「!
その通りです……しかし、よくそこまで理解できましたね」
「推理とかは好きなジャンルだったんだ。
ま、それはいいとしてだとするとあの神が体現しているのは――」
「【時間】ですねー。
【時間と空間】といっていいかもしれないですが」
「だとすると、【盲目の巫女】は自在に時を操れるというわけだ。」
ウィナの言葉にしーんと静まりかえる一同。
「そ、そんな……」
「完全に操れるってわけではなさそうだが」
「そうでしょう。
でなければ、彼女が今こうして事を起こしている理由がない」
「――だな。
帝国を何度も滅ぼし、おそらく時間の逆行で巻き戻し、また滅ぼす。それの繰り返しだろうな。
その中で手っ取り早く【魂】、【生輝石】や【根源石】の収集をしたわけだ。」
「ヒドいです……そんな命をもてあそぶようなこと……」
「確かにヒドいが……、それでも欲しかったものがあったんだろ。あの連中には」
「でも、だからといって人を殺してでも奪いたいものって――」
後頭部を掻きながら、ウィナはあさっての方をみた。
「よくある言葉だが、幸福の椅子は決められた数しかないんだと。
全員が座れる分がない。だからその椅子を奪い取ろうとする。
当然だ。
今日生きるのが精いっぱいのものに、明日以降の生存が約束されるもの(幸福)を欲しがらない理由はない。
違うか?」
「……それは」
「気持ち的には共感できるよ、俺はな。
……ほんの少し足を踏みはずしていたなら、俺は彼女達と一緒にいただろうし」
「――そうですね」
ウィナの言葉に、テリアもまた同意を示した。
「さて、夜も大分ふけてきたが――誰か質問はないか?ないなら、リティ」
言って、ウィナはリティ・A・シルヴァンスタインを真っ正面から見据える。
「一つ聞きたいことがある」
「なんですか?ウィナさん」
相変わらず、表情がブレないリティ。
「飛ばされる直前。
ミーディ・エイムワードに言っていた言葉があったな?
【真実の目】とはなんだ?」
「……よく聞いていましたねー。
どさくさにまぎれて忘れていると思っていましたよー」
「あいにく記憶力はいい方でな。
でそれよりも話してくれるのか?」
「……そうですね-。
随分と核心部分に迫ってきましたし、少しばかりネタバレしてもいいかな?」
周囲を見回し、
「念のために――世界は既に終わりを告げている【断絶】」
「この魔法は」
「簡単に言えば隔離結界です。
でも、隔離結界とは次元が違いますけどねー。
秘密の話をするときに便利ですよ」
あっさりとリティは言う。
しかし、【断絶】は結界魔法の中では上級の中の上級ともいえるもので、他の結界魔法と次元が違うといわれる理由はその構造。
普通、結界というのは、名を示す通り、界を結ぶ――つまりは世界の中に陣地を作成し、世界の観測から外れることを指す。
具体例を言えば、国の中にある領事館といったところか。
だが【断絶】は、国の中に【穴】を作り、その先が別の宇宙であり惑星であるようなもの。
法則も何もかも違い、世界が唯一干渉することのできない場を作り出すのだ。
それをいともたやすく行使するリティの魔法使いとしての腕前は、超一級である。
もっとも、その性格上あまり見られていないが。
「さて、【真実の目】について紹介しましょうか」
ばぢっ。
と炎が爆ぜ、オレンジ色の明かりがリティを照らす。
「【真実の目】の目的は一つです。
世界に安定を。
たったそれだけを合い言葉に世界を調律することを第一主義として、そのために国家すらも相手どることができる秘密結社です。」
「国家すらも、か」
「そんな組織聞いたこともありませんね」
「普通の人は聞いたことなくて正解ですよー。
もしも誤って聞いてしまったら、次の瞬間命を失っていますから」
「どういうことだ?」
「【真実の目】のエージェントからその言葉が発せられる以外で、その言葉を口にしたら生命を刈り取るという仕組みになっています。
ここにいるみんなは大丈夫です。
わたしがそのエージェントなりますから」
「エージェントね。
それでおまえは、国の騎士と真実の目の命令。どっちを最終的にとるんだ?」
「言うまでもないですよー。
わたしの好きな方です」
「なるほど」
ため息をつく。
「リティさんは、どうして所属しているんですか?」
「んー。特に理由はないですよー。
ただ面白そうだなーっていう理由です」
「――世界に安定をと言っていましたが、具体的に何か行動をしてきたのですか?」
「世界の危機を回避するために、まあいろいろとやっています。
具体的に何をやっていたのかは秘密です。
ここで全バレするのもおもしろくないですし」
「……これからおまえはどうするんだ?」
「ウィナさん達についていきます。
今回のわたしの目的は、彼女達を止めることですから」
「――アルバ・トイックも、おまえの仲間だろ」
「っ!」
「え……っ!?」
「さすがですねー。
でも隊長はわかりやすい人ですから、わかる人にはわかると思いますけど」
「女王達は知っているのか?」
「もちろんです。
彼女達の道標の中にわたし達の存在がある以上、その通りに事を進めるつもりでしょうし。
排斥するのは道から外れることになりますし」
「――つまり、女王達は何かに従って行動している……ということか。
こういう場合、大抵預言書とかが出てくるが……」
ちらりとウィナはリティを見やる。
あはははと笑い顔のリティ。
どうやら今回はここまでのようだ。
「……まあ、いい。
とりあえずはこのままでいくならそれで。
ただ――」
赤錆の魔刀を具現化し、一息で刀を抜き放つ。
舞い上がる赤雪。
その切っ先は、リティの鼻先に数ミリの位置で静止した。
「敵となったら容赦はしない」
「そうならないと思いますよ」
「――そうか」
キンと納刀した音が宵闇に響いた。