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現状考察2

【何故、帝国の女王を暗殺する事態になったのか】


「クロムのじいさんが言っていた話だと、当時後継者争いが勃発してそのため対立候補の方から暗殺をしかけられたのではないか。

と考えられているようだが――」

「ウィナさんの考えだと違うんですか?」

「もっともらしすぎるだろ?後継者争いで、暗殺者が送られ殺されるなんて、な。

帝国が外に出版している歴史書などから前王のことやその後継者争いがあったみたいなことは書かれていたが、

俺はもっと違う理由があると直感で思った。

ここに来る前に。

そして、帝国についてから街の人や、クロムじいさんの話を聞いたりして直感が正しかったと思った」

「その根拠はなんなのですか?」

腕を組みアーリィ。

「前王がヒドく、今の女王は正しい。それを国民が心底そう思っている。

勧善懲悪物語の成立、これほど支配層にとって好都合なことはないんじゃないか?

帝国の国民が持っていた不満を全て帝国の前王になすりつけておき、今の女王は国民にとって正しい政をする人間である。

だから帝国はこれからも栄えるだろう――ってな。

そんなふうに俺には思えた。」

「しかし、実際前王の性質はひどいものでしたが――」

「戦争をけしかけ、略奪、それを自国に還元する。

これをヒドいと定義するんであれば、確かにそうかもしれないな。

だが、どんなに性格、性質が最悪であろうと自国に還元はされていた……違うか?」

「ええ、それは合っていると思うわ。

性格は破綻していたかもしれないけど、自国にとって有益なことも確かにあったわ」

「そう。

問題なのはそこだ。

自国にとって有益なことをしていた前王だが、今となってはどうだ?

有益なことをしていた事実など誰も知らなくはないか?」

「…………確かに」

苦い表情を浮かべるアーリィ。

「じゃあ、ここで一つ疑問に思うことがある。

何故、後継者争いなんて起きた?

歴史書から推測すると、王はまだ健在にあるにも関わらず、後継者争いが起こったと書かれていた。

詳細は記述されていなかったが……。

前王は病気がちだったのか?」

「いいえ、私達がクーデターを起こした時でも元気だったわ」

「つまり、まだまだ死ぬような素振りはなかったということだ。

なのに後継者争い?

早すぎないか?

第一、さっきの話だと帝国は直系の長女が王となると誰も疑わなかったんだろう?

それならシオンなる人物が女王となるのは決まっていたはずだ。


なのに何故後継者争いなど起こる?

前王のことでも政をやっている者達は頭が痛かったはずだ。

なのに内乱を生む可能性がある、しかもこの時期に後継者をたてて争わせるなんてことをするのか?


もしも今の王と、その次の王と成られる女王に対して困ると思う人物がいるなら話は変わってくる。

その人物が――」

「私達を先導し、クーデターを起こさせた……」

「そういうことだ。

そして、ここに歴史書の一節にシオンという直系の女性について書かれている記述がある。

それによると母親似であり、

物静かな女性で政よりも読書や裁縫を好み、

側近達は彼女が次代の王となると帝国も平穏になるかもしれないと書かれていた。


ちなみにこの箇所にシオンとは書かれていない。

あくまでも女王としか記述されていない。

だが直系の長女であることは明白だ。

家系図にも彼女しか王の子供は存在せず、兄弟も、そして親戚の子供すらも何故かいなくなっているのだから後継者争いなど起こるはずがない。」

「しかしっ、確かに私達がクーデターを起こした時、相手方には王子が」

「本当に王子だったか?その人間は。

もし王子だとしたら、何をもって王子と考えた?」

「それは――」

言葉につまるアーリィ。

シア――シインディームは、じっと口元に手をあてて考察していた。

不意に顔を上げ、

「イグリス――宰相。イグリス宰相だわ。

相手が連れてきたのが王子だと言っていっていた……」

「っ!そういえば……。夜分に重要な話があると宰相の部屋に呼ばれた記憶があります」

「そう。そこで何かを聞かされ、疑うこともなく次の日にはクーデターを起こしていた――」

「行き当たりばったりですねー。

普通、クーデターなんてやるなら綿密な策を練るものですけど」

リティに言われ、2人は事のおかしさに気づき硬直した。

「成功して当然なクーデターだったんだろ。

つまりは。

じゃないとそんな行き当たりばったりじゃあ、普通はつぶされる。

いくら相手がバカで無能だとしても、な」

「待ってください。

確かにクーデターに関してはわかりましたが、女王暗殺の件は?」

「――シオンなる女王の特徴は母親似であり、

物静かな女性で政よりも読書や裁縫を好み、

側近達は彼女が次代の王となると帝国も平穏になるかもしれないと言っていた――つまりは平和主義者だったんだろう。

ならそれはシア――シインディームに当てはまるか?

まるで違う人物のことを言っているように思えないか?」

「思います……ね。

女王陛下は最後は刀を抜く方ですから」

「あら、アーリィ。それはどういうことなの?」

「違いますよー。女王陛下。こういう時は。目からハイライトを消して、少し……頭冷やそうかっていうんです」

「そうなの?

難しいわ」

「そこ、変なこと教えない」

「でも、女王陛下が暗殺されていたなら、シインディーム女王陛下は一体……?」

「たぶん、シオンだ。ただしもう一人のという言葉がつくが」

「双子ですか?ウィナ様」

「いいや、おそらくクローンみたいなものだと俺は思うが――」

「クローン?」

「簡単に言えば、魂から精神、肉体全てを本物から分断し構築された同一存在ですねー」

と、あっさり答えて見せるリティ・A・シルヴァンスタイン。

ここにいる誰1人として聞いたことがないと、そんな顔をしていたのに。

「【人形】みたいなものかしら」

「【人形】?」

シアの上げた言葉にウィナは首を傾げる。

クローンは、遺伝子的にはオリジナルと遜色ないがそもそも人間の性格を決めるのは幼少時の生活環境である。

そういう意味では命を同じにして、別個の存在であるべきクローンは、もうある種の生命体なのだ。

それを人形というのは、少しばかり乱暴な気もすると、ウィナは思ったのだ。

「あ、ウィナさん。

ウィナさんの思っている【人形】とわたし達が今回言っているこの【人形】は少し違いますよー」

「?なんだって?」

「【人形遣い】シルヴィス・エイムワード様が造ったオリジナルの魔法。【生命喚起法】によって創造されたものを差します。

【生命喚起法】は、大気に満ちる魔力に干渉して、擬似的な精神を造り出し、それを対象に複写する魔法技術です」

「……それに似たようなことをついさっき、俺がやった気がするんだが……」

「あはは。あれにはわたしもちょっと驚きました-。

固有能力であういう使い方をするのは、ウィナさんくらいでしょうね。

シルヴィス様のやったことも基本は同じです。

ただ」

「ただ?」

「シルヴィス様は、無機物にその魔法技術を行使することが多いです。そのため命ないものに生命を与える存在――【人形遣い】と言われてますねー。

シルヴィス様が造った【人形】は、今では神の位に足をかけているものが多く、そのため【12神将】と言われていたりします。

それだけの存在ですから、もう見た目も性格も普通の人と大して変わらないそうですよー。

それにシルヴィス様は、【人形】の使われ方にも厳しい方でヘンな事に使う人は罰を与えるそうです。」

「…………ということは、その【生命喚起法】自体は割とオープンな魔法技術なのか?」

「そうですねー。オープンソースですね。

でも制限はしっかりとかけているみたいです」

「なるほど……な。

貴重な情報ありがとうってところだな、リティ」

「いえいえー。お役にたてて何よりです」

「さて、話が脱線したが戻るぞ。

そんなわけで、俺は状況証拠から事実結果だけならたどり着くことができた。

だが、問題なのはその過程。真相がわからなかった。

何故、そんなことをしたのか、する理由があったのか。

――彼女、【盲目の巫女】ヘラ・エイムワードが現れるまでは、な」

ばぢっと、火花が空気中に閃く。

「今回の一連の事件――

俺達にはあの狂科学者マッドサイエンティストであるジルダが起こしたアルカムの惨劇から、今回の帝国襲撃に至るまで。

全て裏で引いていたのは【盲目の巫女】ということがわかった」

片目をつむり、人差し指をピンとたてる。

「ということであれば、なぜ女王を暗殺する必要があったのか理解できる」

「それって、政治的な意味でシインディーム女王陛下を祭り上げたわけではないということですか?」

「そうだ。

そもそも大規模な認識阻害という神の奇跡に近い魔法が使える世界で至高の魔法使いだ。

そんなことをせずとも精神操作をかけてしまえば大抵の人間はレジストすることができず、瓦解し操られるだろう。

だが、それでは彼女の欲しい物は手に入らない」

「――【生輝石リヴィリス】ね」

「そう。

対象に絶望を与え、堕とす。その状態で相手に【生輝石リヴィリス】とさせる魔法をかける。この工程に支障がでる。

そしておそらく【生輝石リヴィリス】よりもさらに高純度な結晶体【根源石テラ】も当然、集めているのだろう。

実際、玉座にあったのは根源石テラだ。あのときの彼女の物言いから他国にも同じようにして収集している。

リスクは高いが、それほどまでに固執しているということだ」

「なるほど。

本当ならわたしが帝国の女王ではないということで絶望を与えようと考えていたけど、できなかった。

だから、強硬手段に出たということかしら?」

「たぶんな。

第一、この世全ての理を彼女【盲目の巫女】が支配しているなら、もっと丁寧な仕事ができるはずだ。

それにもかかわらずこの醜態。

計画っていうのは、最後の最後まで誰かに理解させてはダメだ。

その分、不確定要素が加わり、計画が崩れる可能性が上がるからだ。


つまりここが、相手の隙になる。

誰にも計画が崩されると思っていない。

眼中すらないと。

少なくとも【盲目の巫女】は確実にそう思っている。

だから手持ちのカードをオープンにした。

絶対、勝てると思ってな。


だが――」

にやりとウィナは笑う。

「世の中に絶対なんて言葉はない。

勝利への階は小刻みに積んでいくしかないが、敗走への落下はただ足を踏み外せばいいだけ。


【盲目の巫女】には転がってもらおう。盛大に、な」




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