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外伝5特別講義4

場所は変わり、訓練棟。

先ほどのウィナによるウィナのための生徒イジメは、生徒達の心にトラウマを残したのは間違いない。

心機一転というわけで、新しい場所で講義となった。


ここは訓練棟という場所で、魔法や遠距離攻撃手段――弓などの使用できる場所である。

生徒達も各々遠距離手段を持つ者はそれぞれのエモノを。

魔法を唱えるものは分厚い魔導書などを片手に集まっている。

広さはグラウンドの半分。

途中までは木の床で、そこから先は土といったようになっていて、一番先には的となるカカシのようなものが置いてあった。

ダミー人形君という名前らしい。

「それでは準備をできたところで始めます」

そうきちっとした礼をし、微笑みかけるのは常時メイドのテリア・ローゼル。

その横には耳をぴょこぴょこ動かすグローリアもいた。


2人は教えることが似通っていたり、分野も同じということで同時に講義をすることにしたのだ。

「騎士テリア様」

と女子生徒が手を上げる。

その行動に何故か、びくっと男子生徒、女子生徒の一部が身じろぎした。

「なんでしょう?

ちなみにわたしはメイドテリアと呼んでください」

「て、テリアさんそれは……」

少し引きつった表情でグローリアは言う。

生徒も半分引きつっていたが、目を閉じ仕切り直すとおもむろに告げた。

それはおそらく生徒の大部分が疑問に思っていたことを。


「ではメイドテリア様。

何故、わたし達女子はメイド服、男子は執事服を着ているのでしょうか?」


そう。

その女子生徒の指摘通りだった。

弓などの遠距離攻撃を教えるにあたって、テリアはあらかじめ専用の服を作ります――といって全員分の服を用意していた。

それ自体は、ウィナも知っていたし、他のメンバーも知っていた。

しかもその服装も養成学校の方にも何度も顔をだし、生徒1人1人の体格や、クセ、女子であればBWHといった具合にきめ細かく調査。

1人1人にちゃんとあった服を作るという徹底用。

ウィナは「さすがにそこまでしなくてもいいんじゃないか?」

とあまりの熱のこもりようにそう告げたのだが、

彼女は「服はその人の人生を現します。確かに出来合いの服でも講義することは可能です。ですが、彼らは若者。

未来があります。

わたし達にとって講義はただ1つの出来事にしかすぎないかもしれませんが、

彼らにとっては宝石箱のきらめく宝石のように価値のあるものになるかもしれないのです。

その時、それぞれにあった服装で講義を受けたらどうでしょうか?

なおのことその宝石に輝きが宿ると思いませんか?


わたしは、彼らが未来後ろを振り返った時にその背中を押してあげる何かを伝えたいんです」


その言葉に感動した。

ウィナは、珍しく目尻に熱いモノを感じ。

グローリアはだくだくと涙を流しながら、「ステキですっ!!テリアさんっ」

歓喜した。




リティだけはなんだかにやにやしていたが。

思えば彼女は知っていたのだろう。

テリアが何を造っていたのか。


魚が腐ったような目をしているテリアの側にいるグローリア。

其の目は「わたしの感動を返して下さい」といわんばかり。


誰もがなんともいえない表情を浮かべる中、当のテリアはいたって毅然として面持ちでいた。

そして少女へ自身の回答を答えた。

「趣味です」

「即答だな……」

額に手をあてるウィナ。

頭痛がするのはどうも彼女だけではないらしい。

教師もまた苦笑いを浮かべていた。


「名前は教えていただけませんか?」

「へ、は、はい。

わたしは準騎士養成学校第2クラス所属のアリス・レビィーです」

「アリスさんですか。

よくお似合いです」

「あ、ありがとうございます……」

顔を赤くし、何度もまばたきをする女子生徒――アリス。

質問も唐突だったが、内容も唐突だった。


「では弓をもった皆さんはいつものように的を当てるようにやってください」

あの後しばらくテリアの暴走が続いたが、無事授業は始まった。


生徒達にいつものように練習をしてもらい、それを見ながらアドバイスをしていく――。

たとえば。

「少し、弦を引く力が強いですね。

もう少し女性を扱うように優しく扱ってください」


「精度は十分ですね。

次は、速射をしてみてください。

速射といっても雑に撃つわけではありません。

無駄な動作を省くことが重要です」


「自分に合う引き方を覚えるのも重要ですが、最初は基本をしっかりと学んで下さい。

基本を学ばないうちに引き始めると変なクセがついて、技量が中途半端になる恐れがあります」


などなど。

テリアはよく生徒を見ていた。

その生徒の特性を瞬時に理解し、弱点を伝え、それを補強もしくは長所へ伸ばす指示を出していく。

いつも風の精霊にまかせて家事のやったフリをしている彼女と大違いであった。

「いえ、そんなことはありません。ウィナ様」

「いや、普通に心を読むな。テリア」




一方グローリアの方はというと、魔法系の職業を目指す者に魔法の構成などを伝えている。

「ええっと、結界などの魔法は攻撃系の魔法と違い理論性が強い魔法形態をしています。なので、防御魔法や、結界魔法を使用するときに、

どうやって防いでいるのか理解するとその速度や精度があがります。たとえば――」


とグローリアは、近くにいた生徒に魔法を唱えてくださいと言う。

「わかりました。種類は……?」

「得意な魔法で大丈夫です。どうぞ」

そう言われ、男子生徒は少し迷ったようだ。

無理もない。

彼女はつい最近までここに通っていたのだ。

わずか数ヶ月足らずで教師としての技量があるのか、疑わしいのだろう。

まあ、彼女のここでの成績は並みか並み以下といったもので。

後ろから数えた方が早いくらいだった。

だが、それは治癒や、結界といった魔法の成績を抜かしてのこと。


治癒や結界は攻撃ではないため、

どうも覚えたところで相手を殲滅できないとか、派手じゃないとか

そういう理由で年頃の生徒達はあまり習得できていないと以前話をした教師はぼやいていた。


しかし実戦でこれが使えるか使えないかで、生存確率はかなり違ってくる。

現に今までグローリアがいなければマズい事態も何度か遭遇している。

そういう意味で貴重な人材なのだが。

本人は少しそういうところに自信がないようだ。



男子生徒は、もう一度グローリアに促され魔法を唱えた。

「猛き炎よ。彼の者を貫く槍と為せ――【炎の槍(フレアランサー】!!」

ごおおっと空中で生まれた炎の槍はグローリアを焼き尽くそうと放たれる。


「まずは、速度重視でいきます――【氷の盾(アイスシール】!!」

「!」

グローリアが瞬時に生み出した両手を合わせたくらいの大きさである氷盾は、炎の槍とぶつかりあうとじゅっと溶解し共に消失した。


「騎士グローリアも、騎士リティと同じなのですか……?」

驚いた顔で疑問を口にする生徒。


その疑問は当然出てくるだろう。

なにせ今のグローリアが唱えた魔法の速度は明らかにおかしいのだから。


普通、魔法の詠唱は、どんなに少なくても1小節入って、鍵として設定している魔法言語を口にすることで発動する。

鍵としている魔法言語だけでは魔法は発生しない。

魔法という力――基盤を操る力を管理、制限している管理者達が、それを許さない。

だからグローリアもまた、リティと同じく管理者によって許可を得た者なのか、そう思ったのだろう。


彼女はその問いに首を静かに横に振ることで否定した。

「いいえ。わたしはリティさんのようなことはできません」

「ですが、今のは発動する言葉のみで発動したかに見えたのですが……」

「それは違います。

確かに一見詠唱していないように思えますが――」

そう言って掌を生徒達に見せる。


「!それは……」

グローリアの掌に、幾つもの文様が浮かび上がる。

ウィナはソレを見て、

(なるほど……。

QRコード、ICチップのようなものか。

魔法の詠唱自体は別に言葉にして発声しなければいけないというものではない。

そもそもリティの話であると、世界という【基盤】そのものを操る力を魔法というのであれば、

おそらくそれは、プログラムのようなものなのかもしれない。


つまり【設定条件コード】を記述しておけば、あとは【撃鉄トリガー】を引くだけ。


防御魔法に求められるのは、速さと質。

特に速さは最重要だろう。いくら強固な防御を敷くことができても相手の魔法が当たってからでは意味がない。

それに魔法によっては、誘導性のものもある。

結果、当たる直前に防御し、相殺することが一番確実なのだ。




「理論はずっと頭の中にあって、実戦で使用できるようになったのはリティさんの話を聞いてからですけど――」

様々な模様を浮かび上がらせ、生徒達に見せる。

象徴魔法印ミスティック・シンボルと名付けました。

詠唱の部分を魔法言語を現す【形】をとることで擬似的に詠唱を飛ばし、鍵となる魔法言語を口にすることで魔法が発動します」


「すごいですっ!!それがあればどんな魔法でも一言言うだけで発動するんですねっ!!」

目をきらきら輝かせる生徒達。

しかし、そうそううまい話はない。

「残念ですけど、そうはいかないんです。

今のところできたのは一般魔法や下位魔法の一部のみです。

上位魔法はそもそもその象徴となる【形】を理解するのが難しく、それに【形】を読ませないように【防禦プロテクト】がかけられていて、

今のわたしにはどうにもできません」

苦笑するグローリア。

「でも、それでもその力はすごいです……」

ツインテールの女子生徒は胸元でぎゅっと握り拳を作る。


魔法を使うことの最大のデメリットの1つは、瞬時発動できないこと。

それを解消する彼女の手段はどこの国でも欲しがるものだろう。

そして、

「本来であれば、この技術を教えることをもってわたしの講義となると思います。

でもわたしはこの技術を誰かに教えるつもりはありません」

その言葉に生徒達にざわめきが走る。

教師はというと感心したような笑みを浮かべていた。




「成長しているっすね。

うつむいている方が多かった子だったはずっすけど」

「……いろいろあったからな」

「このままリタイアせず、騎士人生をまっとうして欲しいっすね。

教師として」

「やめる人間は多いのか?」

「それなりっすよ。

100人ここの養成学校に入ったとすると、卒業する時には20人まで減るっす。

そして1年後現役の騎士として働いているのは10人にも満たないくらいっすよ。

そのおかげで養成学校はもうかっているみたいっすけど、

元騎士としては複雑っすねー」

「やめる理由は、理想と現実の折り合いがつかないとかか?」

「それもあるっすけど、

もらえる給金よりも危険な任務など多かったりするから、それで身体を壊したりとかあるみたいっす。

俺もそうっすけど」

「危険な仕事が多いのは確かだが、な。

それでやめた人間のその後はどうなっているんだ?」

「そうっすねー。

家業とついだり、ギルドの方に流れたりとかっすかね。

一応養成学校出の人間はそれなりに高度な魔法技術や、戦闘技術、生活技術を学んでいるっすから、割とどうにかなるみたいっす」

「なるほど、な……」

とのんきに話をしているが、その間もグローリアと生徒達のやり取りは続いている。



「騎士グローリア。

何故、教えていただけないのでしょうか?」

「理由は簡単です。1つはわたし自身のやり方がそのままあなた達に通用しないということ。

もう1つは、安易に力の使い方を教えてしまうと、

何故その技術が必要になったのかということを肌で感じることができないからです」

凛とした態度で生徒達に臨むグローリア。

いつもの少しおどおどした感じがまったくといっていいほどない。

「最初の1つ――わたしのやり方があなた達に通用しないというのは、

その魔法を象徴する【形】というのは、人によって全くことなるため、わたしの【形】を模倣しても発動しないどころか、

下手をすると意図しない魔法が発動し惨事を招くおそれがあるからです」

グローリアの説明に納得がいったのか、生徒達は一様にうなずく。

そして。

と前置きをし、グローリアはもう一つの理由を語る。

「わたしが、この技術を欲したのは怪我をした人、病気の人を助けるためにです。

決して誰かを傷つけるためにこの技術を編み出したわけではありません。

それが理由です」

「騎士グローリア。

貴女の考えは理解できますが、しかし現実長引く戦争や、争いを終わらせるためには力が必要です。

技術に善悪はないはずです。

誰が何をしようと貴女のせいではないはずですが」

そう男子生徒が言う。


彼の言うことはわかる。

責任を押しつけられるのがイヤでグローリアが教授を拒んだと考えたのだろう。

だが、それは大きな過ちだ。

ウィナはグローリアを見る。

彼女は、そう、大きく息を吸い吐いた。

震える身体を落ち着かせるように。


そしてきっとした眼差しを生徒に向け、口を開いた。

「――本当に理解できますか?

わたしがどうしてここまでの技術を手に入れようとしたことを本当に理解できると思っているんですか?」

内容は疑問ではあるが、明らかにそれは詰問だった。

つい前までは、グローリアは今の男子生徒と同様の立場にいた。

その時の彼女であれば、もしこういうことがあったならもしかすると男子生徒と同じようなことを抱いたかもしれない。

しかし、

グローリアは、実際、争いや争いにも劣る人の業の一部を見てきた。


彼女が何を考え、思ったかは本人でなくてわからない。

ただ、あるときからグローリアは【力】を求め始めた。


やみくもな力の追求は、一歩道を違えば奈落へと落ちる迷い道――。

だが、何のためにその力を欲するか。

芯のところにちゃんとしたものがあれば、たとえ細い道のりであっても、足を踏み外すことなく歩き続けることができる。


「……そして得た力が、【象徴魔法印】か」

ウィナは感慨深げに言う。


「わたしは、自身の無力さを身をもって知りました。

どうしても助けることができない人。

助けることはできるのに、助けられない状況にある人。

助けようと思ってもすでに終わってしまっている人。


争いなんて起きなければいい。

ずっとそんなことを思い続けながらひたすらに治癒や結界術、防禦に特化した魔法を研究してきました。


そうしてできた技術です。


本当にわかりますか?

わたしの想いを」

「……そ、それは」

口ごもる男子生徒。

グローリアは、生徒達を見回し、さらに続ける。


「技術や、力。

それを手にするのは簡単です。できる人や、システムに頼ればいいですから。

でも、その人がどういう想いでその力を得たのか、それを知らず自身の思うがままにその力を振るえば、

きっと誰かを傷つけることになると思います。


わたしは、知っていて欲しいんです。

争いは確かに起こります。

それを速やかに終わらせることは重要だと思っています。


でも、その争いは誰かの力で起きてしまったことなんですよ?


技術は拡散します。

わたしのこの技術もきっと誰かがもう考え、編み出しているかもしれません。

だからといってわたしはこの技術を誰かに教えるつもりはありません。

わずかな期間でもこの技術で人を傷つける手段にはしたくないですから。


ですが、わたしはあなた方に結果は見せました。

技術を伝えてはいませんが、完成形を伝えました。


あとはあなた方がわたしの力をどう理解していくのかは、あなた達に委ねます」

沈黙する生徒達。


彼女の言った全てを理解するのはやはり難しいだろう。

価値観などは人それぞれ。

自身の都合のいいように相手の言葉を理解してしまうのが、人間だ。


それでも、グローリアの言葉が生徒達に伝わってくれればと。

そう思った。







いつのまにか陽が落ち、夕闇が辺りを支配する頃。

ウィナ達は、帰宅の途についていた。

「今日はありがとうございました」

ぺこりと、グローリアがそう頭を下げる。

「グロちゃんが頭を下げることはないんじゃない?」

「そうだな。

あくまで準騎士養成学校からの依頼だったし。それがグローリア伝いでやってきただけだけだ。」

「そうですね……」

左手を右肩近くの腕におく。

彼女が見つめる先は、地平の彼方。

「心配か?」

「はい……。

あの中で――」

途中で口にするのをやめるグローリア。


続く言葉は、「何人生き残れるか」。


騎士というのは見た目は華々しい職業だが、だがやっていることは軍隊と同じようなものだ。

災害救助に、争いがあれば援助するし、闘うこともある。

人命に関わらない仕事もあるにはあるが、それは少数。


命を失うことが普通に生活している人より遙かに多い。


ここに来る前にグローリアに一通の手紙が届いていた。

それを見てから彼女の表情に影がはいることが多くなった。


一見、平和そうなシルヴァニア王国でさえその影でどれだけの人間が、平和のためにその命を代償にささげているのか。



「……今は、今日できなかったことを明日できるようにしていけばいいさ。それがきっといつか大きな力になる」

ぽんとグローリアの肩を叩く。

「――はい。」

彼女は、泣きそうな、でも笑顔でうなずいたのだった。





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